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未経験から新規就農し、規模拡大中。親友と二人三脚で歩む若き農家の挑戦

連載企画:若者の農業回帰

未経験から新規就農し、規模拡大中。親友と二人三脚で歩む若き農家の挑戦

それまで暮らしたことのない地域へ移住して、まったくの未経験から農業を始める。
その難しさは言うまでもないが、成功のカギはどこにあるのか。大学を卒業後に沖縄、石垣島へ移住して未経験から農業を始め、6年ほどで法人化を果たした土橋玄(つちばし・げん)さんと、学生時代からの友人であり共同経営者でもある東祐太朗(あずま・ゆうたろう)さんに、二人三脚で取り組む農業の今までとこれからについて話を聞いた。

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友人と一緒に起業したい

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そこかしこに鮮やかなハイビスカスの花が咲く石垣島

今回訪ねたのは石垣島の空港近くに畑を持つ「げんたろうファーム」。
ゴーヤーやオクラのほか、ピーマン・小松菜・チンゲンサイ・キャベツ・ニンジン・紅芋など、年間を通じて15種類ほどの野菜を作っている。

土橋さんは大学を卒業後の2015年、一般企業へ就職することもなく長崎から石垣島へ移住した。
きっかけは学生時代に、友人の東さんと一緒に起業したいと考えたことだという。
東さんの実家は石垣島の農家で、トマトやゴーヤー、オクラなどさまざまな野菜を栽培している。まずはそこで修行させてもらって農業の経験を積み、いずれは自分の畑を持ちたい。そんな思いで移住を決めた。

「学生時代に石垣島でしばらく過ごし、いいところだな、住みたいなと感じました。移住に際しては、就農という以前にそもそも住みたい場所か?という問いかけは必要だと思います。気候、言葉や文化、習慣の違いなどもあります。まずはお試し滞在でその土地を知っていく中で、どのように農業に取り組んでいけるのかを調べてみるとよいのではないかと思います」(土橋さん)

土橋さんは修行期間を経て、2016年からは自分の畑で作業を始めた。東さんは地元の市役所での勤務を経験した後、土橋さんとともに農業に専念する道を選んだ。2人で協力しながら少しずつ規模を拡大し、2021年12月には法人化を果たす。土橋さんと東さんのファーストネームから社名を「株式会社Gy」、農場名を「げんたろうファーム」と名付けた。2人の絆は固い。

一歩ずつ、しかし着実に。今も試行錯誤は続く

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ゴーヤーの授粉作業をする土橋さん

軌道に乗ってきたとはいえ、現在も試行錯誤は続いている。
3人の子供の父親でもある土橋さんは「子供にも安心して食べさせられる野菜を作りたい」と語る。減農薬の取り組みとして、害虫を減らすための天敵栽培を行っている。

規模の拡大とともに人員は増え、現在はフルタイム、パートタイムのスタッフを合わせて総勢6人体制となった。繁忙期にはさらに多くの人の手を借りながら作業をしている。
スタッフは地元の人と移住者を半々くらいの割合にすると、地元の人がイベントや年中行事で休みたい日には移住者が出勤するなどの融通が利くのだという。何とも島らしいノウハウだ。

土橋さんは、農業を始めた頃にさまざまな記録をつけていたノートを今も定期的に見返している。やる気や勢いにあふれていた当時を思い出し、初心に帰れるのだという。
目の前のタスクをこなすだけでも忙しい毎日の中で、昔の自分が何を考え何に悩んでいたかを振り返り、本当にやりたいことや今後進むべき方向性などを見つめ直す指針にしている。

小さなトラブルや苦労は、日々いろいろと出てくる。
台風はもちろん、冬の大雨の影響を受けたこともあった。台風でなくてもかなりの強風が吹くこともある。

野菜の連作障害も継続的な課題だ。自分たちのように2年目以降につまずく人は多いかもしれない、と2人は口をそろえる。沖縄県の八重山農林水産振興センター農業改良普及課などからの指導も受けたという。自治体に新規就農者をサポートしてくれる組織がある場合は、力を借りるのも有効な手立てのひとつになりそうだ。

強みを生かした経営戦略

移住からの新規就農の場合、販路の開拓が課題になることも想定される。げんたろうファームではどのように取り組んできたのか。

個人経営の小規模農家が大手のスーパーに卸すのは簡単ではないが、地元の小売店やスーパーに少しずつ出すことは案外難しくないという。地元の人間関係やつながりを大切にしておくと、小売店のバイヤーなどから声をかけてもらう機会もできる。

小売店に直接出荷すると新鮮なものを届けられるだけでなく、どんな人が自分たちの野菜を手に取ってくれるのかが目に見える。消費者の顔が見えるのは大きな励みになる。

自分たちの作ったものが評価されるのはいつ、どこなのか。そんなマーケティング戦略も常に考えている。
石垣島の温暖な気候を生かし、3月頃から安価な夏野菜を出荷できるのがげんたろうファームの強みのひとつだ。一方で、6月頃からは高知や鹿児島などとの競合が激しくなる。離島からは輸送コストがかかるため、九州や本州の温暖な地域の野菜が安くなる夏には、相対的に価格競争力が低下してしまう悩みがある。

そのため、今後は石垣島産であることを訴求できる果物を作ってみたいと考えている。
沖縄、そして石垣島のマンゴーやパイナップルにはブランド力がある。パッションフルーツやグアバなどに取り組んでいる農家もいる。南国らしいフルーツを作り、石垣島産であることを強みに変えたい。げんたろうファームの新しい挑戦だ。

とはいえ果物の栽培には野菜とは別の技術が必要な上に、特にパイナップルなどは土壌を選ぶ傾向がある。ノウハウを身につける、栽培に適した土地を手に入れるなど、少しずつ取り組みたいと考えている。

新規就農、移住を考える人へのアドバイス

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ゴーヤのハウス。ハウス内では天敵栽培も行っている

土橋さんが石垣島での就農を決めた時点では、農業はまったくの未経験。すぐに逃げ帰ってくるだろうと周囲から言われていたという。
石垣島は移住者が多く住みやすいとも耳にするが、経験者としてどう感じているのか。
土橋さんに、これから新たに農業を始めたい人、移住を考えている人へのアドバイスを求めてみた。

「石垣島の人は親切ですし、農業に限らず移住者は多いので、なじみやすい土地だと思います。自分はまったくの未経験でしたから、何でも勉強して吸収したいと考えていました。もし経験があっても、素直にそして謙虚に取り組む姿勢は必要かもしれません」

インターネットやSNSで多くの情報が取れる時代とはいえ、2人は分からないことがあったら今でもすぐに周りの人に聞いたり相談したりする。そのほうがずっと早く、生きた情報が手に入るためだ。
移住からその土地になじみ、農業を軌道に乗せたいと考える人にとって、積極的に地元のコミュニティーへ入り込んでいく土橋さんと東さんの姿勢は参考になることだろう。

また、東さんの故郷である石垣島で農業を始めたという点も重要なポイントだと感じた。実家で修行できるというだけでなく、地元でのコネクションは大きな意味を持つ。移住を決める際には、その土地に何らかの足掛かりを前もって作っておくことも大切かもしれない。

5年後、そして10年後へ。今後の展望

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東さん(右)と土橋さん。何事も2人で協力して取り組む

2021年の12月に法人化したげんたろうファーム。2022年の10月にはハウスの増設を予定している。これからはより積極的に経営者として次の展開を考えたいと語る2人に、さらなる規模の拡大や6次化など今後の展望について質問してみた。

「2人とも30歳になったので、5年後の35歳には次のフェーズに進んでいたいです。これまでは作物を育てることで精いっぱいでしたが、より広い視野で安定した経営を行い、次の展開を考えたいですね」と土橋さん。

東さんは「自分たちの野菜を使って関連業者さんと一緒に仕事をする、加工して販売するなどの取り組みができれば、ロスを減らすことにもつながるな、などと2人であれこれ話しています」と語る。
移住から7年が過ぎたが、まだ30歳。挑戦を続ける2人の笑顔は、石垣島の強い日差しの下でまぶしく輝いていた。

取材協力:げんたろうファーム
Instagram(gentarofarm)

Twitter(@gentarofarm)

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