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若手続々加入のブロッコリー生産者部会。売り上げも右肩上がりの理由とは

若手続々加入のブロッコリー生産者部会。売り上げも右肩上がりの理由とは

日本の農業の最大の問題とも言われる「高齢化」。どこの産地も後継者不足に悩まされている。しかし、とある産地の生産部会は継続的に若手就農者を確保することに成功している。JA島原雲仙の「雲仙ブロッコリー部会」だ。産地を持続可能にしていくために必要な取り組みとは何なのか、若手にとって魅力的な産地づくりについて取材した。

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親戚の成功を見て就農した若者

長崎県の雲仙市吾妻町周辺に差し掛かると、きれいに段々になった畑が見えた。ここは1990年代から基盤整備が進み、農地は整然としている。道は舗装されて幅も広く、車もスムーズに運転できる。そして、海をのぞむ畑にはブロッコリーが一面に植えられていた。

ブロッコリー畑

雲仙市吾妻町のブロッコリー畑

その一画で営農しているのは、岩永清久(いわなが・きよひさ)さん。20歳で農業大学校を卒業後、ブロッコリー農家になって7年になるそう。取材当時27歳とのことで、この辺りで最も若い農家なのかと思いきや「2個下にまだ若い農家がいますよ」とのこと。彼が所属するJA島原雲仙の雲仙ブロッコリー部会には、20代30代の若手農業者が多いのだ。

アイキャッチ岩永清久

岩永清久さん

岩永さんはブロッコリー農家だった大おじの姿を見て、農家を志した。農大時代から盛んに手伝いに通い、その大おじから土地や施設などを引き継ぐ形で就農。現在6.5ヘクタールの畑でブロッコリーを栽培している。
いろいろと教えてくれた岩永さんの大おじは残念ながら他界してしまったが、現在岩永さんが栽培で困ることはあまりないという。「栽培技術は部会で教えてもらえる」からだ。

雲仙ブロッコリー部会のメンバーは65人で、平均年齢は57歳。部会全体の畑の面積は230ヘクタールほどで、平均営農面積は3.3ヘクタールだ。(2022年12月時点)
同部会では若手を育成するために「若手後継者会」を設立。岩永さんのような親戚からの後継者はもちろんのこと、新規就農者を受け入れる態勢も整えており、現在部会員の半分が所属している。就農希望者と研修受け入れ農家をマッチングする長崎県独自の「受入団体等登録制度」も活用。部会員がこの制度に登録して研修生を受け入れる。研修後、就農したらそのまま部会へ参加する流れができている。

月1回ほど開催される勉強会は新しい品種や防除などについての情報共有の場だが、ここが交流の場にもなっている。また若手同士では個人的な付き合いも盛んだ。岩永さんは30~40代の先輩農家の家に招かれてバーベキューをすることがあり、その際にもさまざまな相談に乗ってもらうそうだ。年の近い先輩がいる状況が、若手の新規参入や後継に安心感をもたらしていると言えるだろう。

切れ目のない出荷のための品種構成と施設整備

雲仙ブロッコリー部会では、10月から翌年の6月まで8カ月間収穫できる品種構成をしている。営農指導員の田中慶輔(たなか・けいすけ)さんを中心に、若手生産者が新たな品種の試験栽培をするなどして品種を選定し、出荷量や品質の波が小さくなるように構成を考えるという。田中さんによると「特に4月は全国的に出荷量が減るので、ここを落とさないようにするのが大事」だそうだ。部会員は大方この品種構成に沿う形で作付けを行っている。

ここで大切になるのが、ブロッコリーの育苗だ。収穫を終えたら、すぐ次の品種の苗を定植して畑を有効活用するが、ここで質の良い苗を植えることが重要。その苗づくりに利用しているのが、国の事業を活用して導入した育苗ハウスだ。夏から秋にかけて台風が襲来するこの地域では、頑丈な耐候性ハウスがあることで安定した育苗ができる。育苗がうまくいけば適期に定植ができ、質の良いブロッコリーの収穫につながるというわけだ。

育苗ハウス

岩永さんの育苗ハウス

岩永さんの農場では、もともと岩永さん一人で営農していたが、両親が退職後に一緒にブロッコリー栽培をするようになり人手が増えた。さらに育苗ハウスができたことで効率の良い育苗から定植の流れができ、収益がアップしたという。

近くに生産性の高い選果場も

「共同選果」なのも効率アップにつながっているという。JA島原雲仙西部基幹営農センターにある総合集荷場は2015年に新設され稼働開始。生産者は収穫した作物を持ち込むだけでよい仕組みが整っている。現在は自動選果システムが導入され、ブロッコリーを等級別に分けた後に発泡スチロールの箱に氷を詰めて出荷する流れだ。こうしたシステムのおかげで処理能力が上がり出荷量が増えた上、選果の労力削減にもつながっている。

自動選果システム

ブロッコリーが自動で大きさ別に分けられる自動選果システム

氷詰め

箱を揺らしながら氷詰めをするので、箱の隅々まで氷が入る

この氷詰めの出荷方法で、ブロッコリーの品質を保持したまま遠くまで出荷することが可能になった。大消費地まで販路が広がったことで、さらに生産に力が入った。実際、雲仙ブロッコリー部会全体の売上高は右肩上がりだ。2010年に3億円ほどだったが、現在は9億円を超える。

産地としてどう生き残っていくか

実は、ブロッコリーという作物を取り巻く状況は順風満帆とは言えない時期が続いている。一時期は高値で取引されていたが、現在は国内の生産量が増えて市場が飽和状態になったことで、単価が下がる傾向にあるのだ。さらに肥料価格の高騰などもあり、経費が収益を圧迫しているのも問題となっている。
このため、国のスマート農業実証プロジェクトを活用して、出荷予測システムを導入。積算温度から出荷の時期と量を予測して相場の安定につなげているという。こうしたシステム導入などでうまく売るための努力も重ね、部会員が安定して営農を続けるための土台作りをしている。

雲仙ブロッコリー部会の発足当時からの部会員は現在80歳を超え、営農をやめる部会員も出てきた。一方で後継者やその土地を引き受ける農家がちゃんといる。大規模化を進める農家もいて、営農面積が10ヘクタールを超える人も増えてきた。
営農指導員の田中さんは「うちの部会は若さが強み。それだけ産地としての持続可能性がある」と語る。それに足ることをやっているという自信が、その言葉からにじみ出ていた。

ブロッコリー

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