平均気温3度上昇で、最大15%収穫量減のシナリオ
「田んぼの研究のため農地へ足を運ぶたび、気温の上昇と暑さを毎年実感してきました。これが主な原因となって、コメの品質が低下しているとする新聞報道も多く目にするようになり、何とかできないかと思い始めたのが研究のきっかけです」。新潟大学農学部作物学研究室教授の山崎さんは、イネ新品種開発を目指した経緯についてこう話す。
2021年度まで神戸大学大学院農学研究科に勤務していた山崎さんは2006年から、稲を交配する研究に力を注いできた。2020年には、収量性が高い特徴を持ちながら、稲わらから燃料に使うバイオエタノールや消毒用アルコールなどを抽出できる新品種『神大5号』を開発するなどの研究成果が実を結んでいる。
農研機構のシミュレーションでは、温暖化が進んだ2060年代に平均気温が現在比3度以上の上昇となった場合、東北以南でのコメの収穫量はおよそ8~15%減少するとみられる。また近年でも、高温登熟障害と呼ばれる玄米の充実不足や未熟粒の頻発によるコメの品質低下などが問題視されており、生産者の所得減が懸念されている。
「品質低下を避けるためには肥料をたくさん与えるなどの方法もありますが、目下の肥料価格高騰もあり現実的ではありません」(山崎さん)
そうした中、同大や神戸大学などが加盟する共同研究グループでは、これまで研究が難しいとされてきた日本のイネDNAの詳細な解析に成功。暑さに強い特徴がイネに定着しているかなどを識別することができ、新品種開発に希望が見えた。
これに伴い、同大ではコシヒカリを片親にした多様な品種と交雑することで、温暖化や気候変動に強く、収量性の高い品種の候補を選抜している。
「おなかいっぱい美味しいお米を食べられるように」
一方で、新たな掛け合わせでできたイネの特徴が定着し、遺伝子との関係を正確に調べられる状態になるには、7〜10世代ほど先の子孫ができるまで手をかける必要がある。同大ではこれまで、コシヒカリと29品種を掛け合わせて出来た3000を超える系統を育成してきたが、今後もデータ解析のほか、栽培、収穫などの膨大な作業が伴うという。そこで同大学では3月末まで、クラウドファンディングサイト「READY FOR(レディーフォー)」で寄付を募っている。目標金額は400万円。募った資金は、約1年分の人権費などに充てるという。
リターンとして、オンラインセミナーや田んぼでのフィールドワークなどへの招待や、新品種の命名権が得られるコースがある。希望者は大学ホームページに指名またはニックネームが掲載される。
「来年度までには、新品種の候補を絞り込みたいと考えています。次の世代を担う子どもたちがおなかいっぱい美味しいお米を食べられるよう、暑さに強い品種を一日でも早く作りたい」と意気込む山崎さん。生産者の利益と食料の安定供給を目指して試験栽培を重ねていくつもりだ。