高齢化×コロナ禍で地域農業は深刻な働き手不足に
『鹿児島県農業・農村振興協会』は、農林業の担い手の確保・育成をはじめ、農林業技術の改善や県産農林水産物等の安心・ 安全などに関する事業により、鹿児島県の農林業の振興を図る目的で設立されました。農業の人手不足に対し、同協会では平成30年に鹿児島県担い手・地域営農対策協議会の委託を受け、鹿児島県農業労働力支援センターを設置。農家からの労働力確保に関する相談対応、労働力確保事例や技能実習生等の情報提供、求人・求職者のマッチングに向けた支援等にも取り組んでいます。
しかし、農村部の高齢化に加え、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により労働力不足はより深刻な事態に。これまでのように親族や集落で労働力を補っていた小規模農家だけでなく、法人農家も大きな影響を受けます。同協会では民間人材派遣事業者やシルバー人材センターなどと連携を取るものの思うような結果とはならず、他に良い手立てはないかとアンテナを張り巡らせていた同協会の上福元さん。農業新聞で取り上げられていたスマートフォンアプリ“1日農業バイトデイワーク(以下、デイワーク)”の記事に目が止まります。
上福元さん
2021年12月から、指宿市担い手育成総合支援協議会と連携してモデル的に“デイワーク”の普及をスタート。
「農家さんに向けた第1回の説明会は20名ほどが集まりました。その中で積極的だった10戸をモデル農家として活用の進捗を見守っていたのですが、実際にアプリで募集したのは3戸だけ。無料アプリなのでハードルが低いし、北海道や長野県では全域で浸透している感じだったので、イメージと違う結果に驚きました。高齢の農家さんはスマホやアプリ操作に戸惑うことや、面接も無しに見ず知らずの人をいきなり雇用することに抵抗があるようでした」と、上福元さんは言います。
出だしで思うような結果は得られなかったものの、1月末時点ではモデル農家以外も含め県下で6農家が76名の求職者とマッチング(延べ393人)に成功。活用した農家さんからは「繁忙期だけ募集できるのが便利」「遠方からの応募があった」との声も。また、マッチングした76名の約6割は20〜30代と、比較的若い世代が多くいました。なかにはダブルワークに活用する会社員もいて、多様な働き方にフィットできる魅力を実感したと言います。
そんな時に、株式会社マイファームが『令和3年度農業労働力確保緊急支援事業のうち農業労働力産地間連携等推進事業(以下、産地間連携事業)』の実施事業者として公募を開始。支援があれば、農家さんに対してさらなる周知ができると考え、2022年2月に公募に応募したそうです。
助走から加速へ。『産地間連携事業』で農家と働き手への周知を図る
『産地間連携事業』では、8月に県下3ケ所で「デイワーク」活用セミナーを開催したり、規模に関係なく幅広い農家に活用してもらうため、“農家さんのための「daywork」活用マニュアル”や “臨時パートさん雇用の手引き”といったガイドブック、アプリそのものを紹介するチラシを制作。それらは、“デイワーク”で既に労働力確保に取り組まれていた長野県へ出向き、アドバイスを受けながら作成したそうです。また、地元新聞が定期的に発行する情報紙に取り組みの記事を出してもらうなど、農家と働き手に向けた周知活動に注力しました。このような普及活動があり、5月の事業スタートから4カ月弱の間で延べ775名(リピーター含む)のマッチングにつながりました。加えて、受け入れる農家に対しては「魅力ある職場づくり」の重要性を認識してもらうことも大事だと上福元さんは言います。
「また働きたい、と思ってもらうためには農家さんの意識改革や環境整備も大事です。うまく募集ができている事例の紹介や労働関係法令に関する説明会も実施。アプリ利用者に対するアンケートも活用しながら、募集する農家さんと働き手それぞれに魅力のあるサービスにしていきたいですね」(上福元さん)。
導入・活用で手応えを感じている農家の声
【Case1】オクラ・豆類を栽培する松木千年さん・奈津子さん
“デイワーク”を活用し、働き手の確保を行っている2農家にも話を聞いてみました。まずはオクラや豆類をメインに手がける松木千年さん・奈津子さん。従業員+外国人技能実習生の受け入れで人材確保を行っていましたが、コロナ禍で外国人の入国が不透明になり、実習生をキャンセルしました。そんな中、指宿市担い手協議会からのアプリ説明会のお知らせを知り、参加して導入を決めたそうです。
松木夫妻
【Case2】自社農園や野菜の選別・流通など広く手掛ける物袋純次さん
次は、自社農園や地元で収穫された野菜の選別、出荷を行う有限会社開聞繊維・物袋青果の社長・物袋純次さん。収穫時期の忙しさは目が回るほどで、さらに2022年夏から新たな品目の選別作業を請け負うことに。
物袋さん
農家同士の情報交換・交流を深め、課題に取り組む
導入・活用で成果を実感している農家の話から、自治体の支援窓口やハローワークでの“デイワーク”の浸透具合がうかがえます。デイワークから従業員への登用に至ったケースもあるなど、働き手を確保する手段としての手応えと、これからの可能性が見えてきました。
上福元さん
■お問い合わせ■
公益社団法人 鹿児島県農業・農村振興協会
〒890-8577 鹿児島市鴨池新町10番1号
TEL: 099-213-7222
FAX: 099-213-7229
E-mail:nourin@ka-nosinkyo.net<取材協力>
*公益社団法人 鹿児島県農業・農村振興協会
*指宿市農政部農政課 人・農地プラン推進室
*マツキアグリ 松木千年さん・奈津子さん
*有限会社開聞繊維・物袋青果 物袋純次さん