働きづらさを抱える人材と農業界をつなぐ
特定非営利活動法人農スクール(以下、農スクール)は、神奈川県藤沢市を活動拠点として、「働きづらさ」を抱える人たちを対象に雇用就農を目的とした「農スクールプログラム」を提供しています。
2009年、代表の小島希世子さんによる、ホームレスや失業者と人手不足を抱える農業界を結び付ける個人活動に始まり、やがて引きこもりなど多様な方々が参加するようになりました。一方で農業界は、全国的に担い手の減少が進み、都市近郊の農業地域である藤沢地域も例外ではありません。2013年にNPO法人化し、様々な理由で働きづらさを抱える人材と農業界をつなぐ「農スクールプログラム」を運営しています。
同プログラムは、年1回、半年間で、前半の3カ月は「導入編」として自社圃場で全10回のトレーニングと講座、後半の3カ月は「基礎編」として藤沢地域のさまざまな農業者を回る全10回の研修。1クラス6人前後で、週1回ペースで2時間程度のプログラムを実施しています。
「農業と一概に言っても、その仕事内容は多種多様で、経営者によって農園の雰囲気も違います。基礎編でさまざまな農業者の方のところに行かせてもらうことは、受講生が自身の長所を見つめ、自分に合った就職先を見極めるための良い研修の場になっています」と小島さんは、農業で働く場合に多様性を理解することの大切さを語ります。
農スクールプログラムの目的と課題
活動を開始して以来、農スクールプログラムの受講生は114名にのぼり、そのうち54名が卒業後に就職。そのうち半数は農業以外の分野への一般就労です。「目的は賃金に見合う働きができる人材の育成です」と小島さん。農スクールの事業を、受講生が自己変革するための環境づくりと捉えています。気を付けているのが、受講生が困ったり迷ったりしたときに先回りして手を貸さないこと。自分で解決しようとする力をつけ、みんなで野菜を作り上げることで自信を持ち、働くことに対する不安を払拭することにつながります。卒業生の就職・就労の実績の高さから、支援団体、自治体、大学の研究者もプログラムの視察に訪れます。
「働きづらさを抱えた人たちは、今は支援される立場かもしれませんが、それぞれの長所を見つけて伸ばしていけば、将来、農業界を担う立派な人材になってくれます。ただ、そのチャンスが少ないことが課題です」(小島さん)
同法人の取り組みを全国に拡大させていくために、令和3年度の農業人材確保・就農サポート体制確立支援事業に参画。2年目となる令和4年度は、前年度に実施した調査を基に、これまで蓄積した人材育成のノウハウを横展開するためのシステムや組織基盤づくりに取り組みました。
ノウハウを横展開する基盤づくりに挑戦
令和4年度の農スクールプログラムで、プロジェクトマネジャーを務める佐藤崚平さんは、「ノウハウを横展開するための基盤づくりとしてスタッフの育成と組織運営を強化しました」と話します。スタッフの育成に関して、代表の小島さんの経験を形式知化して共有するために、トレーナー育成システムの構築に取り組みました。
プロジェクトメンバーは現場4名と運営4名。毎回のプログラム後にミーティングを開き、現場の疑問や難しさを聞き取り、ビジョンと注意事項を共有してトレーナーを育成します。現場の経験に応じて段階を踏んで、OJTから、サブトレーナー、メイントレーナーになるシステムを構築し、次年度のマニュアル化を目指します。
プログラム自体も、前年度に藤沢市やJAと連携して行った市内の農業者へのアンケートとヒアリングの結果をもとにブラッシュアップ。農スクール卒業生との交流会を設けるなどして、求められる人材への自己変革を促すきっかけをつくりました。
地域での継続、全国各地への展開で農業の維持拡大にも寄与
本事業で初めて受講生の募集に検索エンジンとSNSの広告を活用した結果、普段の4倍の60名が説明会に集まり、6名の定員に対して25名の応募がありました。令和4年度はインターン先の農家に1名、農業外に1名が就職。このほか、農業アルバイトに2名、農業インターンに1名、援農として6名が、農業に関わっています。
「今回の事業で潜在的に生きづらさを抱えている人が全国に多数いることがわかりました」と佐藤さん。これまでも遠方から夜行バス利用や宿泊して通う受講生がいたことなどからも、「このような場所が全国各地にできるように今回の事業で蓄積したノウハウを届けられる形にしていきたいです」と小島さんは話します。農業の一般就労にコミットしたノウハウは、対象者の属性を問わず就労支援の取り組みに活用できるものです。農スクールではこれからもさまざまな取り組みを通して、全国で一人でも多くの農業人材が育つチャンスをつくることに挑戦し続けます。
問い合わせ
特定非営利活動法人農スクール
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