本当に捕獲が必要か検証しよう
「動物の被害がひどい。捕獲してくれんか?」
有害鳥獣捕獲活動をしていると、農園や地域の人からよくこういった声をかけられます。
しかし、捕獲だけでは根本的な解決は望めません。
有害鳥獣被害をなくすには次の「3本柱」で対策を立てることが必要です。
①侵入防止対策(鳥獣が農地などに入れないようにする)
②生息環境管理(鳥獣が近寄らない環境にする)
③個体群管理(鳥獣を捕獲する)
場合によっては①と②の対策だけで被害を防ぐことも可能です。
捕獲は想像以上に大変ですし、動物の命を奪うことに抵抗のある人も多いと思います。
まずは本当に捕獲が必要かどうか今一度検証してみてください。
鳥獣が入れない農地にする
まずは「①侵入防止対策」。
守りたいエリアを防護柵やネットで囲いましょう。
鳥類の場合は、ネットで農作物を囲う方法が一般的です。網目の細かさによっては一部の虫害も防ぐことができるので、まず費用面や手間から可能かどうか検討してみてください。
獣類の場合は、防護柵が一般的です。個々の農地を囲う方法と、大規模に複数の農地全体を囲う方法があります。また、計画的に集落全体を囲って動物と人間が住む区域を分ける方法もあります。後者の方がより効果が上がると言われています。
防護柵には大きく分けて2種類あります。
・物理柵:ワイヤーメッシュ、金網、ネット、トタンなど障壁によって防ぐ
・心理柵:電気柵などのことで、「侵入しようとすると痛い目に遭う」と動物に学習させて防ぐ
それぞれ購入費用や維持方法に特徴があるので、地形や予算などから適したほうを選びましょう。
鳥獣を寄せ付けない環境づくりをする
次に「②生息環境管理」です。
鳥類の場合は、音や視覚で寄せ付けないようにするという方法がとられますが、慣れが出ないよう工夫が必要だと言われています。
獣類の場合は、下記2点がポイントになります。
・動物の「エサ」となるものを農地周辺から排除する
・農地周辺の動物の「隠れ場所」をなくす
「エサ」の代表例は放任果樹、稲刈りをした後の株に再度生えてくる稲(ひこばえ、再生稲)、放置された廃棄野菜(くず野菜)などがあります。これらが知らず知らず動物を呼び寄せる原因となるので、排除をする必要があります。
「くず野菜の処理は面倒だし、肥料にもなるし、そもそももう少し畑の中に行けば作物が山ほどある状態なのにそんなこと意味あるの?」と思われるかもしれません。しかし「端に捨てられているくず野菜なら茂みから近くて安全だろう」と寄ってきた獣が、慣れてきて農園内のよりおいしい作物にも手を出すようになるのです。
ひこばえは「ここらへんはいい餌場だ!」と認識させてしまうことが問題となります。田植えの時期に電気柵をしても、田が餌場と認識されているので、無理やり侵入してくるケースも多々あります。
動物たちの「隠れ場所」の代表例は耕作放棄地です。動物は身を守るために茂みや草陰に隠れながら移動したがります。よって、農地周辺の見通しがよくなるよう草刈りをしたり、農地と山林の間の緩衝帯となる雑木林などを整備したりすることで、動物を寄せ付けない環境を作ることができます。
侵入防止も環境管理も効果がなければ捕獲を検討
前述の①と②の対策で不十分な場合に「③個体群管理」としての捕獲が必要になります。
特に、動物の生息密度が大きい場合や、農地においしい「エサ」があると学習してしまった個体(加害個体)が周辺にいる場合は、いくら①と②をしても被害は続くケースが多いです。
ただ、動物の捕獲は想像以上に大変です。
私も最初は簡単にできると思っていました。ところが、フタを開けてみるとまあ大変。
捕獲までにさまざまな手続きが必要だし、捕獲の際にはクリアしなければならない条件や法律がもりだくさん。お金をかけて道具をそろえる必要もあります。やっとスタート地点に立っても、技術と知識がないと動物は簡単にはつかまってくれませんし、捕獲後の処理も大変。体力も使います。
捕獲対応してくれる猟師や機関がないか確認
ということで、基本的に捕獲はその道のプロに任せるのが一番です。
捕獲をしたい場合はまず、地域の自治体や猟友会に相談し有害鳥獣捕獲をしている地元の猟師を紹介してもらえないか打診することをおすすめします。
自分で捕獲せざるを得ない場合
地元猟師や自治体に頼れないなどの事情がある場合は、自分で捕獲するしかありません。
まずは地元自治体に、どのような手続きが必要か確認をとりましょう。
手続きは自治体によってさまざまです。また、捕獲する鳥獣の種類によっても異なります。
「いずれにせよ狩猟免許が必要だ」と考え、先に狩猟免許試験を受ける人もいます。それも一つの方法ではありますが、試験を受け、狩猟者登録をするだけでもお金と時間がかかります。銃所持許可の取得となるとさらにお金と時間がかかり、かなりハードルが高い方法と言えます。
しかし、条件が合えば狩猟免許がなくても有害鳥獣の捕獲ができる場合もあります。
例えば外来種のヌートリアやアライグマの捕獲は講習を受けるだけで捕獲許可が得られる自治体もあります。
外来生物には「外来生物法」が適用されます。認可を受けた自治体などが、国から確認と認定を受けた方法で、特定の外来種の捕獲・運搬ができるようになっています。
例えば鳥取市では、農林水産省と環境省から認可を受けており、講習を受けて従事者に認定された農業従事者や地域住民であれば、アライグマとヌートリアを箱わなで捕獲できる体制が整っています。
また、ネズミ類とモグラ類についても、農林業活動に伴って捕獲がやむを得ないと認められる場合は、農林業者が自らの事業の敷地内で捕獲することができます。ちなみに、家ネズミ類(ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミ)は誰でも許可なく捕獲ができます。
バックアップ体制も整えておく
もうひとつ重要なのが、いざという時だけでも手助けをしてくれる猟師を探しておくこと。動物相手だと、さまざまなトラブルが生じます。
私は、はじめて対峙(たいじ)したイノシシに恐怖を感じうまく処理できませんでした。今思えばそんなに大きなイノシシではなかったのですが、直接見ると迫力があり、とても大きく感じたのです。
また、想定外に動物が動き回り、処理がうまくできないこともあります。「やっぱり自分で処理できないから助けにきてくれないか」と新人猟師や農家から連絡を受けることがあります。
無理して処理をしようとすると、動物にかまれるなどの反撃を受けたり、道具でけがをしたり……。捕獲中に命を落とした事例も全国では発生しています。また、感染症などにも気をつけなければいけません。
いざという時に頼れる人がいるという安心感があれば、心にも余裕ができます。自分の身の安全だけではなく、他者のためにもバックアップ体制を整えておきましょう。