日本随一のホップ生産量を誇る遠野ホップの60年の歩み
ビールにさわやかな苦味と香りをもたらすホップ。冷涼な気候が適している蔓性のホップは主にドイツ、チェコ、アメリカなどが主な産地となっており、日本では明治初期から北海道・東北地方を中心に栽培されています。その中でもホップの栽培面積日本一を誇るのが岩手県遠野市です。1963年の栽培開始以来、台風や病害虫の発生などさまざまな困難を乗り越え、国内随一の産地にまで成長しました。
遠野市では持続可能なホップ栽培によって地域を活性化し、ホップの魅力を活用しながら官民一体となって未来のまちづくりに挑戦する「ビールの里プロジェクト」に取り組んでいます。懐かしさを感じる里山に、今も伝わるカッパ伝説や民話で知られる日本のふるさと・遠野。そこにホップ栽培を中心としたビール文化が加わったことで、国内はもとより、世界中のビールファンが遠野市を訪れています。2019年のホップ収穫祭には国内外から1万2千人もの人が訪れ、遠野の夏の一大イベントとして広く知られるようになりました。(新型コロナウイルス感染拡大の影響により2020年、2021年、2022年は開催中止)
ホップ栽培をフックに地域活性化に取り組む遠野市ですが、ホップ生産者の高齢化や後継者不足によって、生産量、栽培面積共にピーク時の6分の1以上に減少。加えて、日本各地の農村地域にみられる過疎化や産業の衰退による地域課題が、遠野市にも及んでいるのが現状です。
そんな状況を打破するカギになるのがホップ生産者の育成です。地域おこし協力隊を経て遠野に移住・就農した中村 友隆さんの歩みから、ホップ農家の将来性をひも解いてみましょう。
地域おこし協力隊からホップ農家へ。ビールの里に魅せられた若きファーマーの現在地
市内に点在する140アールの圃場(ほじょう)でホップを栽培する中村さんは岩手県盛岡市出身の31才。東京の大学を卒業後、名古屋の物流会社で働いていた時にクラフトビールの魅力にはまり、ビールの原料の1つ、ホップが出身地の岩手県で栽培されていることを知りました。
「会社の歯車でいることに限界を感じ、違う生き方を模索していた時に見つけたのが遠野市の地域おこし協力隊の募集記事です。恥ずかしながらその時に初めて、遠野市が日本一のホップ生産地であることを知りました」
非農家出身の中村さんは農業そのものが初めての経験。地域おこし協力隊として遠野市の先輩農家からホップ栽培のノウハウを学びます。
「任期中はホップ栽培を中心に技術を習得することに尽力しました。自然相手の農業は時に大変な時もありますが、作業の結果が作物の生育状況ですぐにわかるシンプルさや収穫の喜びはそれを凌駕します。何より、半世紀にわたってホップを栽培してきた生産者のチームワークと、ホップを作り続けていこうという情熱が励みになりました」
地域おこし協力隊として3年の任期を務め上げた中村さんはホップ農家として独立を決意。ホップは定植から3年後に十分な収量となる作物のため、 すぐに収入につなげるには引退する農家から圃場を譲り受けるのが独立への近道です。 中村さんは、理想の圃場を見つけるために、ホップ栽培だけでなく、ピーマン栽培やアルバイトをしながら圃場を探し、ホップ農家として独立する準備を進めてきました。
「地域おこし協力隊として遠野に移住してから5年、そのうち3年を地域おこし協力隊として収入を得ながらホップ栽培を学べたことが大きな財産になっています。遠野のホップはキリンビールの契約栽培地であり、収穫したホップは全量買い取りになるため、独立後も確実に収入につながるメリットがあります。その仕組みがあるのは先輩農家さんの弛みない努力のおかげです。念願の独立就農を果たした今、今度は自分が新規就農者を支える立場となって、ビールの里プロジェクトを盛り上げていきたいです」
転換期を迎えたビールの里。持続可能なホップ栽培を目指して
ホップ生産者の強い結びつきは収穫の様子にも現れています。収穫期の8月は生産者が共同で収穫し、乾燥施設に搬入。収穫作業はお盆明けあたりから9月上旬まで続くため、体力的にしんどいこともありますが、さまざまな人と関わりながら作業ができるので楽しい思い出になりますと中村さんは言葉を続けます。
「ホップは生育がとても早い作物で、収穫量を増やすためには適期に作業を進めることが大切です。ただし、農繁期には人手不足の問題も発生しています。現時点では、農家同士で助け合うほか、外部のボランティアに手伝ってもらう動きも始まっています。また、離農した圃場を受け継ぐだけでは栽培面積の減少に歯止めをかけることはできません。こうした課題を解決するためには、生産者の育成と圃場の集積が急務です」
と、力強く語る中村さんの表情からは、ホップ生産者としての誇りと情熱がひしひしと感じられました。
今こそチャレンジの時。先人たちが築き上げた技術を次の世代へ
ホップ農家をはじめ、遠野市で農業を営む農家をサポートしている「遠野アグリサポート」では、地域おこし協力隊の神山 拓郎さんがホップ栽培コーディネーターとして活動しています。2021年7月に着任以来、ホップの栽培から収穫、加工の現場に入り、作業を通じて見えてきた課題の解決に向けて、農家と協力しながら取り組みを進めています。
「ホップの栽培面積が日本一であり、市内にはブルワリーが2つもあり、さらにはビアツーリズムや遠野ホップ収穫祭などのイベントが盛んな遠野は、他に類をみないホップとビールのまちです。ホップ生産者やビール醸造の関係者のみならず、行政や民間企業、地域住民が一丸となってビールの里を盛り上げていこうという姿は、全国のビアスポットを巡ってきた私から見ても、特別な場所です」
日本ビアジャーナリスト協会に所属しながらビールの魅力を発信する活動をしてきた神山さんは、自身も30アールの圃場でホップ栽培をしながらコーディネーターとして市内各圃場を巡回、生産者とプロジェクト関係者をつなぐ役目を担っています。また、神山さんは、農繁期の農家をサポートするために、一般のボランティアを募集するプロジェクトも担当。神山さんや関係者の働きかけもあり、毎年約60名もの方がホップ栽培をサポートしています。
担い手不足や圃場の集積などの課題があることは事実ですが、関係者が解決に向けてアグレッシブに取り組む活動は、プロジェクトの目的である持続可能なホップ栽培が近い将来、実現することを物語っています。
「ホップは収穫したら終わりではなく、摘果後、毬花(きゅうか)だけを選別してペレット加工をするために乾燥させる作業があります。生産者が共同で使用する市内にある乾燥施設は約40年以上前に導入されたもので、機械の老朽化もまた、大きな課題になっています。せっかく新規就農者が遠野でホップ栽培をはじめても、点在する圃場のままでは栽培効率が悪く、老朽化した乾燥施設のままでは持続可能なホップ栽培を実現することは難しいと言えます。新規就農者の育成だけでは解決されないこれらの栽培モデルの課題解決に取り組むこともまた、私たちの務めです」
と、話すのは、ビールの里プロジェクトの総合的なプロデュースを担当する株式会社BrewGood代表取締役の田村 淳一さんです。
ビールの里プロジェクトでは栽培現場の課題解決にかかる費用の一部を自分たちの手で集めようと、ふるさと納税の活用をはじめました。プロジェクトに使い道が指定された寄付金は、新規就農者の自立に向けたサポートや老朽化した機械・設備のリニューアル費用、イベントの開催などサポートの輪を広げるまちづくりの施策に活用されるほか、ホップ農家向けの補助制度や、乾燥施設の大規模修繕費用も積み立てられています。 さらに、新規就農者向けにスムーズに圃場を引き継ぐ仕組みの設計、圃場の整備についても計画が進められています。
「遠野でホップ栽培が始まってから60年、先人たちが種を巻いた文化が開花の時期を迎えました。長い年月をかけて培った技術や知識、地域活性化への取り組みは確実に実を結び、次のステージへと進もうとしています。そのためにはホップ栽培の新たな担い手が必要不可欠です」(田村さん)
地域おこし協力隊制度を活用した「次世代ホップ農家」を募集!
遠野市では次世代ホップ農家の育成を目的に、令和6年度地域おこし協力隊を募集しています。
「ビールの里プロジェクトは生産者や行政、大手ビールメーカー、地域の民間企業、ビールの里プロジェクトを支援する全国のサポーターによって支えられています。地域おこし協力隊としてプロジェクトに参画することは、人生の新たな可能性と価値観を育むきっかけになるかもしれません。ぜひ、遠野のホップ農業の未来を切り拓くプレイヤーとして、共にビールの里を盛り上げていきましょう!」
と、未来の仲間にエールを送る田村さん。
ホップ作りでビールの里プロジェクトを盛り上げてみませんか?日本の原風景が広がる自然豊かな遠野が、あなたの挑戦を待っています。
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TONO JAPAN HOP COUNTRY(produced by 株式会社BrewGood)
MAIL : info@japanhopcountry.com
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