ミズナ生産の動向
近年の気候変動の影響から、ミズナの生産現場ではこれまでの栽培管理が通用しない場面が増えてきました。特に7〜9月の出荷は高温による生育停滞、かん水量の増加による腐敗や店持ちの低下、連作の影響による萎凋病(萎黄病)の発生などにより安定した栽培が難しくなっています。
また、収穫・調製作業に時間のかかる軟弱野菜では、時間当たりにどれだけの束数ができるかが、出荷量を決める重要な要因です。特に分けつ(わき芽)が多く発生するミズナは、ホウレンソウやコマツナに比べて収穫・調製の時間がかかり、作業時間の短縮は品種を決定する重要なポイントです。
このような背景から、ストレスのかかる高温期や低温期でも安定して旺盛に生育し、作業性が高く萎凋病に強い早生品種を目標に育成を進めたのが、今回紹介する「都むすめ」です。
品種特性
生育旺盛で株張りのよい早生種
生育旺盛で株張りと株ぞろいに優れており、生育遅延が起こりやすい高温期や生育が緩慢になる低温期でも安定して生育します。葉はやや厚めで葉軸はしっかりしており、高温期の腐敗やずるけ(袋詰め後の腐敗)の発生、低温期の寒さ傷みに対しても強い品種です。
また、葉色は色つやのよい濃緑(こみどり)色、葉軸は白色でコントラストが鮮やかで、見ばえのよい姿です。
収穫・調製作業が容易
草姿は立性で小さな分けつの発生が少なく株元のまとまりがよいため、隣の株との葉の絡みが少なく収穫作業が容易です。特筆すべきは、高温期に発生しやすい節間伸長(とり足、タコ足)の発生が極めて少ないため、調製後の歩留まりも高く調製作業が抜群にはかどることです。産地試作では、実際に調製作業を経験した生産者から従来品種に比べて1.2~1.5倍ほどのスピードで出荷ができたとの報告がありました。
萎凋病(萎黄病)に強い
連作などの影響により主力産地で問題となっている病害に、フザリウム菌による萎凋病が
あります。耐病性をもつ本種は、萎凋病が発生しやすい夏場の栽培に適した品種です。
栽培ポイント
かん水管理のポイント
ハウス栽培では整地を行う数日前にたっぷりとかん水し、土壌の深層にしっかりと水分を確保した状態で整地を行います。発芽と初期生育をそろえるため、種まき後から生育初期(条間がふさがる程度)までは1回のかん水時間は長めに行います。高温期はかん水後、土壌表面が湿った状態→土壌表面が乾いた状態→しおれ始めるまで、このサイクルが4〜5日となるようなかん水量が目安です。
生育中期以降は圃場(ほじょう)条件を見てかん水時間は短めに数回に分けて行います。「都むすめ」は伸長が早く小さな分けつの発生が少ない品種のため、特に春や秋の適温下で中期以降の土壌水分量が多いと、株が細く仕上がることがあります。条間がふさがってからのかん水は、従来品種に比べて少なめに行うことがポイントです。
高温期の遮光資材の活用と肥培設計
生育期間中の遮光資材は基本的に不要ですが、生育初期の極端な高温乾燥は発芽の不ぞろいや生育障害を招きます。そのような場合は発芽までを目安に遮光率の低い資材(30〜40%程度)をかけて地温を抑制し、過度の乾燥を避けてください。また、収穫直前の高温乾燥により葉がしおれる場合は、遮光率の高い資材をかけて品質低下を防ぎます。
「都むすめ」は、高温期の腐敗や“ずるけ”には強い品種ですが、発生が見られるようであれば2割程度の減肥をおすすめします。腐敗やずるけの発生を抑えるだけでなく株ががっちり仕上がり、収量面の向上も図れます。
土壌病害の総合的防除
ミズナの生産現場では「都むすめ」が耐病性をもつ萎凋病だけでなく、立枯病、根こぶ病など、ほかの土壌病害が発生することも懸念されます。土壌消毒や圃場の排水改善、殺菌剤の利用などと併せて総合的な防除を行ってください。
※フザリウム属が原因の「萎凋病」(アブラナ科では萎黄病と呼称)
「都むすめ」と「京シリーズ」との使い分け
「都むすめ」は耐暑性と低温伸長性ともに従来の「京シリーズ」に比べて優れるため、7~9月どり、12~2月どりの基幹品種としておすすめします。春どりや秋どりでも生育旺盛で作りやすい品種ですが、生育スピードが早いため、収穫遅れを心配される場合は、生育がじっくり進み在圃性にすぐれる「京かなで」をご使用ください。「京しぐれ」は最も細軸でやわらかく食味に優れる品種です。家庭菜園や直売所向けの秋冬どりにおすすめします。
(執筆:タキイ茨城研究農場 井手 一夫)