eスポーツやプログラミングで就労支援のイメージ一新
「障がいのカタチを変える」というビジョンのもと、障がい福祉サービスを展開している株式会社ワンライフ。児童発達支援事業所「chouchou(シュシュ)」、eスポーツ×就労継続支援B型事業所「ONEGAME(ワンゲーム)」のフランチャイズ展開などをしています。
「従来の就労継続支援、就労移行支援の仕事内容は単調な軽作業が多く、賃金も高くはありません。それではモチベーションも上がりませんし、スキルもなかなか身につきません。就労支援の本来の趣旨と実態が異なる点を、課題として感じていました」(梅沢さん)
ワンライフは他にもプログラミング×就労継続支援B型事業所「ONECODE(ワンコード)」や、障がい者同士で課題解決を行う「凸凹村」の運営などを行い、障がい者がそれぞれの個性に合わせたチャレンジができる環境を作ってきました。
2023年10月には農業と障がい者雇用、また企業の課題解決を実現する就労継続支援AB多機能型「ONENOUEN(ワンノウエン)」のフランチャイズ展開を開始しました。
農業に参入した背景を市村さんはこう語ります。「農家さんには高齢化による人手不足や耕作放棄地の増加といった課題があります。一方で障がい者の数は増えている にもかかわらず、まだまだ働ける場が少ない。また今後、企業に求められる障がい者の法定雇用率はもっと上がると予測しています。その中で、企業が農園を運営することで障がい者との距離を縮め、雇用のきっかけを作れると考えました」
農業参入の壁
「ONENOUEN」はビニールハウスでトマトの栽培からスタート。障がい者が少しでも働きやすい環境を作ったうえで農業をやろうと決めていたため、最先端の農業ができる環境を整えました。
しかし、農業の難しさと従業員の指導の難しさに直面したといいます。市村さんは「農業への参入障壁の高さにかなり苦労した」と当時を振り返ります。農地探し、自治体への許可申請などスタートまでの道のりは長く、さらに許可が下りてトマトの栽培に着手しても、しっかりと育てられるようになるまでに3〜4年かかったそう。ビニールハウスで育てていた作物が全滅したことも1度ではありませんでした。
また障がい者への教え方にも苦労したといいます。例えば、トマトの収穫のタイミング。人によって「赤い」という感覚が異なるため、収穫が早すぎたり、遅すぎたりして無駄になってしまうことも。ほかにも「芽かき」をする際に主軸を切ってしまったり、誘引する際に茎を折ってしまったりと課題はたくさんありました。ただ、市村さんは「農業未経験者であればぶつかる壁。障がい者だから大変だった、ということはありません」と語ります。
栽培方法の特長
フランチャイズ展開をするにあたり、栽培方法も簡易的で一定の収穫量が得られるものを選びました。「ONENOUEN」ではトマトのほかに、ホウレンソウの水耕栽培キットもメーカーと組んで開発。きれいな環境で均一的に農作物を栽培でき、収穫量も一定量確保できる仕組みを整えました。また障がい者が農作業を簡易的に行える環境も整備。「とても簡単で自分でもできた」という声が上がり、利用者の自信につながったといいます。
水耕栽培キットでは、定植後は原則、生育状況を確認するだけ。何か問題が起きたら水量の調整や葉の消毒などが必要になりますが、収穫までほとんど手を入れる必要がありません。収穫のペースも早く、回転率を上げられるというメリットも得られます。
フランチャイズ展開の狙い
農福連携の取り組みは増えてきていますが、ワンライフはなぜフランチャイズというビジネスモデルを選んだのでしょうか。市村さんはワンライフが実現したいこととして「障がい福祉に選択肢を増やすこと」を掲げているためだといいます。
「ワンライフは0から1を作ります。その後の1から10はみなさんの力を借りることで1秒でも早く、1人でも多くの人にサービスを届けたいと思っています。そのためにはフランチャイズというビジネスモデルが最適でした」(市村さん)
ワンライフは、開業前から開業後まで常にサポートを行います。例えば、利用者の募集や、農業の始め方、農地の探し方、栽培方法のレクチャーといったサポートや、収穫した野菜の買い取りもします。現在は食に関連するいくつかの企業が「ONENOUEN」に興味を持ち、相談を受けているそうです。
就労継続支援事業所には人員配置の基準が定められており、職業指導員や生活支援員などの配置が必要です。また導入時には初期費用や人件費なども必要になりますが、芝崎さんは「ONENOUEN」が農家の人手不足の解決にも役立つだろうと語ります。
「農業のイベントに出展して農家さんとお話しした際、コロナ以前は海外からの技能実習生に来てもらっていたけれど、コロナ禍や国際情勢の関係で来られなくなったと伺いました。ワンライフとしても農業界の人手不足は大きな課題だと認識しています。そういう農家の方でも福祉事業を付帯することで、弊社が人手を確保することに協力できると考えています」(芝崎さん)
農福連携の次に注目するテーマとは
プログラミング、映像、農業とさまざまな分野と就労支援を掛け合わせているワンライフ。次に注目している分野は「ペット」「フィットネス」。
さまざまな分野と福祉を掛け合わせる中で、ワンライフが心がけているのは「興味を引くようなコンテンツ作り」。障がい者の「行こう」というモチベーションを保つことが重要だと考えています。また、もう一つ重要なのが“寄り添う”ことだと市村さんは話します。
「障がい福祉の中でうまくいっているものに共通するのは“寄り添う”ことですね。近年、精神障がい者が増えており、そういう方たちはみんなが気にしないことでも気にしすぎてしまうことがあります。だからこそ寄り添うことが1番の支援になります」(市村さん)
(編集協力:三坂輝プロダクション)