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「週末ハンター」というライフスタイル!?  サラリーマンから料理人まで、3カ月で狩猟の基本を学ぶ「ハンターバンク」を電鉄会社が運営するワケ。

鮫島 理央

ライター:

「週末ハンター」というライフスタイル!?  サラリーマンから料理人まで、3カ月で狩猟の基本を学ぶ「ハンターバンク」を電鉄会社が運営するワケ。

全国的に増えつつある鳥獣被害。農林水産省の調べによると、被害額は令和4年度で約156億円にもなるという。鳥獣被害は、農家への経済的打撃や営農意欲の減退のみならず、直接襲われた場合には大けがにもつながりかねない深刻な問題だ。
こうした社会課題の解決に向けて、小田急電鉄株式会社では、ペーパーハンターや狩猟に興味のある人を対象に「ハンターバンク」を運営している。わなの設置方法から止め刺し・解体といった狩猟に必要な技術を、地元ハンターや講師から学び、実践できる場だ。一体どのような取り組みなのか、事業発案者の有田一貴(ありた・かずき)さんに話を聞いた。

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なぜ電鉄会社が、ハンター育成?

近年、アウトドアへの関心の高まりなどから、狩猟免許所持者数(特に10代から40代)が増加しているという。しかし、免許所持者は増えているものの、狩猟者登録をしている人は免許所持者全体の6割程度にとどまり、実際には狩猟をしていない「ペーパーハンター」が増加傾向にある。また、ハンターの多くは高齢化しており、近い将来、ハンター不足に陥ることは避けられないのが現状だ。

鳥獣被害が増える地域と、免許は取得したもののハンターの経験や技術を習得できず次第に意欲を失う若手ハンター。この双方をつなぐことで鳥獣被害対策に結びつけたいと考えた有田さん。小田急沿線には山間地もあることから、「社会課題の解決」を目的とした社内事業アイデア公募制度で採択され、2022年に事業化された。

限られた人だけのものだった「狩猟」を、もっと身近な、日常に取り入れられるものにすること。それこそが、ハンター育成の裾野を広げることになり、鳥獣被害の解決につながると同社では考えている。

有田さんプロフィール写真

ハンターバンク発案者・責任者の有田一貴さん。登山をする中で、鳥獣被害について考えるようになり、事業を考案した

ハンターバンクの会員は、サラリーマンから料理人など多種多様

これまでハンターバンクへの入会者は、300人超。しかも、会員のうち、狩猟免許を持っているのは2割ほどで、大多数は免許を持っていないという。

「ハンターバンクの会員さんの多くは、普段は都心で働くサラリーマンです。新鮮なジビエ肉を自分で手に入れて食べてみたいという方、アウトドアの延長で狩猟に興味を持った方から、鳥獣被害の対策をしたいという方まで、参加動機もそれぞれに異なります」(有田さん)

有田さんによると、狩猟免許をいつか取ってみたいという人が、お試し的に参加するというケースも多いようだ。他にも、フレンチやイタリアンなどの料理人や、バルの経営者、ジビエ食材に関心のある人、食育として子どもを連れて参加する人もいるという。

会員集合写真

老若男女関係なく、さまざまな人が狩猟の世界に飛び込んでいる

被害を受けた農作物(みかんの木)

ハンターバンクは、現在神奈川県小田原市で活動を行っている。海に面しており、漁業が盛んな一方で、平野部・山間部では野菜や果樹の畑が広がる地域だ。小田原市では、約250万円の鳥獣被害(令和4年度)が出ており、害獣の種類ではイノシシ、作物では特産品でもある果樹類の被害が最も多かった

ハンティングの流れを、実地で体験しながら学ぶ

ハンターバンクではレクチャー期間と、独り立ち期間(レクチャー終了後)に分けて講習・サポートを行っている。

活動の流れ

最初の3カ月のレクチャー期間で、実際にわなを仕掛けながら、捕獲から解体までの技術を学ぶ。4カ月目以降には、自立して狩猟を続けていけるようサポートを行う

レクチャー期間は3カ月間。実際にわなを仕掛け、捕獲・解体までを一連の流れとして学ぶことができる。狩猟道具やわなを監視するトレイルカメラのレンタル料は会費に含まれている。また、わな周辺へのエサまきや、普段の見回りは現地スタッフや協力農家がサポートする。週末にはイノシシ解体体験やジビエBBQなどのイベントを通して、知識や技術を身につけることができる。

4カ月目以降は、講習形式の技術指導やイベント等はなくなるが、チーム単位でのハントや、わなの見回り管理サポートなどは引き続き受けることができる。

「個人で狩猟を始めようとすると、そもそもどんな道具が必要なのかや、わなの設置方法・設置場所の交渉などを自分で学び、行わなくてはなりません。ハンターバンクでは、道具や場所の問題を解決した状態から始められ、実地で学びながら、わな猟のノウハウを身につけることができるような仕組みを用意しています」(有田さん)

トレイルカメラスクショ(スマホ画面)

トレイルカメラで撮影されたイノシシの様子。リアルタイムでスマートフォンに情報が送られてくる

箱わな・槍・ナイフ・エサなどの猟具(止め刺し用ナイフと槍)

やりやナイフ、箱わななどの猟具はすべて費用に含まれている

3カ月間のプログラム内容は?

3月スタートの15期生のスケジュールを参考に、プログラム内容を見ていこう。
研修プログラム

① キックオフミーティングに参加
入会後は、5~6人で一つのチームを作り、チームごとにイベント参加や狩猟を行うため、初回のキックオフミーティングでは、チームメンバーや現地の農家、サポートスタッフなどと顔合わせをする。この日に箱わなの設置も行う。

キックオフミーティング(箱わなを仕掛けに)

ハンターバンクに協力しているミカン農家の土地などにわなを仕掛ける。農家にとっても、わなを設置する時間や捕獲後の手間などをかけずに鳥獣被害対策ができるため、メリットは大きい

次回の全体ミーティングまでの間は、コミュニケーションアプリを用いて、トレイルカメラで撮影した映像や、現地スタッフからの報告をもとに、メンバー同士で作戦を立て、現地スタッフに対応を依頼する。

有田さんによると、平日は仕事の合間にわなの様子をアプリで確認し、仲間と情報交換や交流を深め、週末にチームメンバーで現地に出向くケースが多いという。

コミュニケーションアプリ上では、ハンターマニュアルなどのコラム配信や、ジビエ肉の調理方法、料理の紹介などが行われ、事務局と会員間、また、チームメンバー間をつなぐコミュニティとしても活用されている。

専用スマホアプリ(事務局からアドバイス)※会員の名前をモザイク処理済

コミュニケーションアプリでは、エサの設置場所について、事務局からアドバイスが来ることもある。アプリ上で情報交換を行い、週末に現地へ行くというのがよくある活用方法だ

② 全体ミーティング(勉強会)
全体ミーティングでは、イノシシの生態や、どういうエサを好むか、捕獲方法などを学ぶ。

また、設置した箱わなを見回り、捕獲にはどのような工夫が必要になるか、チームメンバーで作戦会議を行う。

箱わな・槍・ナイフ・エサなどの猟具(米ぬか)

箱わなに米ぬかを設置している様子。エサのまき方で、捕獲できるかどうか変わってくるという

③ 解体体験
解体体験では、実際にイノシシを解体しながら、解体方法や肉の部位について学ぶ。研修期間中にイノシシを捕まえることができなかったとしても、この段階で解体を体験することができる。

解体体験やジビエBBQなどイベント風景(解体体験)

イノシシを解体する会員たち。多くの人にとって、生まれて初めての体験だ

④ ジビエBBQ/ステップアップミーティング
最終週には、参加者同士で懇親を深めつつ、3カ月間のレクチャー期間の振り返りを行う。

解体体験やジビエBBQなどイベント風景(ジビエBBQしている会員)

ジビエ肉を実際に食べて交流を深められるのも、ハンターバンクの楽しさだ

ハンターバンク会員の、生の声を聞いてみた!

釣りや自然が大好きで、狩猟の世界も勉強したい!

インタビュー会員写真(中央が山本さん)

写真中央に座っている男性が、山本祐也さん

◯山本祐也(やまもと・ゆうや)さん
1988年生まれの35歳。会社員。
狩猟免許は持っていません。

◯ハンターバンクに入会した背景は?
もともと釣りが趣味で、釣った魚をさばいて食べるのが好きでした。
広告でハンターバンクのことを知りました。海のことは知っていても、山のことはよく知らず、山で捕れる肉はどんな味がするんだろうと思い、狩猟に興味がわいて入会しました。

◯ハンターバンクに入ってみた感想は?
まだ狩猟に必要なことを勉強中ですが、わなの設置方法から、エサのまき方、解体のやり方まで学びました。
設置したわなの様子が、カメラを通してリアルタイムで送られてくるので、参考にしながらエサの設置方法を考えたりと、とても面白い経験ができました。

イノシシが思うようにわなに近寄ってきてくれず、想像していたよりわな猟は難しかったです。ただ、1人ではできないことも、頼もしい仲間と一緒に取り組んでいるので、楽しく続けられています。

また、解体も体験しました。
思っていたよりもイノシシは大きく、時間がかかって大変でした。指導を受けながら解体したのですが、皮の引き方・骨の断ち方・脂身を残す方法など、知識がないとできないと感じました。まだ部位の違いもなかなか判別が付きづらく、繰り返し経験を積んでいきたいと思っています。

◯今後の目標は?
まだ自分の設置したわなで、イノシシを捕まえることができていません。今後は、生きているところを捕まえて、実際に止め刺しを行い、解体しておいしくいただくところまでできるようになりたいです。

鳥獣被害に悩む農家の助けになりたい!

インタビュー会員写真(一番左が松岡さん)

松岡正司さん(写真左)

◯松岡正司(まつおか・まさし)さん
1963年生まれの60歳。
会社員をやりながら、趣味で家庭菜園をしています。
ハンターバンク入会後に狩猟免許を取得しました。

◯ハンターバンクに入会した背景は?
趣味で畑をやっていて、ハクビシンやアライグマに作物を食べられてしまうことがありました。実際に鳥獣被害を受けたのをきっかけに、対策のため狩猟に興味を持っていたところ、ハンターバンクを知り入会しました。

◯ハンターバンクに入ってみた感想は?
ハンターバンクは、自分のペースで狩猟に取り組めます。働きながらでも無理なく続けられるので、ちょうど良い温度感だと思っています。
最初のうちは、わなの向きを変えてみたり、エサの種類を変えてみたりと、試行錯誤をしながら、わな猟の勉強を続けていましたが、なかなかイノシシが捕獲できず、いろいろと失敗もしました。今となっては良い経験ができたと思っています。

狩猟についてしっかり勉強ができたので、狩猟免許も取りました。私が所属していたチームでは、7人中5人が狩猟免許を取得しました。中には猟友会に入会した人もいます。

チームで動いているから、仕事などで自分が動けないときも、仲間が助けてくれるのがチーム制のいいところだと思います。行かなくてはならないという義務感がないので、仕事をしながらでも、良い意味で気楽に楽しんで狩猟ができる良さが気に入っています。

◯今後の目標は?
最近はテレビなどでも鳥獣被害について、報道されるようになってきました。
今後は鳥獣被害に悩む農家の助けをしながら、自分で捕ったイノシシ肉などを、仲間で楽しんで食べることができればいいと思っています。

ハンター不足解消と鳥獣被害削減の両輪を目指して

狩猟の世界は、外からの参入が難しい業界だ。興味を持ったとしても、狩猟に必要な知識や経験の習得、実践場所の確保など簡単にできるものではない。

ハンターバンクはその障壁を取り払い、ハンターになりたい、狩猟をしてみたい人たちの入り口になりつつある。同時に、鳥獣被害の削減にもつなげるという両輪の役割を果たしている。有田さんは「今後、小田急沿線や首都圏に限らず、事業エリアを各地の農村まで拡大し、日本各地のハンター人口を増やしたい」と話す。

わななどの管理を地元の企業に業務委託すれば、鳥獣被害対策事業のビジネス化も可能になる。既に小田急電鉄では、ハンターバンクの現地運営を地域の企業と連携して実施することで、収益を地域内で循環させることにもつなげている。ハンターを増やしながら、地域の経済活性化に貢献できるハンターバンクの取り組みは、鳥獣被害対策に課題を感じる地域にとって、課題解決に向けた新たな選択肢となることが期待される。

【取材協力・画像提供】小田急電鉄株式会社 ハンターバンク事務局

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