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1反あたり300万円売り上げる農家が語る都市農業。体験を提供する「三次産業」としての可能性

山口 亮子

ライター:

1反あたり300万円売り上げる農家が語る都市農業。体験を提供する「三次産業」としての可能性

香川県高松市に年間300品種を作付けし、10アール当たり300万円を売り上げる農業法人がある。有限会社コスモファームだ。「多品目少量栽培」で加工まで手掛け、百貨店や飲食店など地域の内外に顧客を得ている。会長の中村敏樹(なかむら・としき)さん(写真)は、埼玉県深谷市の野菜の魅力を体験できる複合施設「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」(運営:キユーピー株式会社)を監修する。都市と田園が交錯する複数の地域で農業を手掛ける立場から、都市農業の強みを語ってもらう。

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多様なニーズや鮮度の高さが都市農業のメリット

――中村さんが拠点にしている香川県高松市と埼玉県深谷市は、いずれも都市と田園が入り交じっているような地域ですね。都市農業ならではの特徴は何があるでしょうか?

高松の農場がある地域では、周りに住宅が増えていっています。後から引っ越してきた住民から、トラクターが朝からうるさいといった声が上がるというのは、開発が進む地域でよくある話です。そういう大変さはありますね。

一方で都市、つまり消費者に近いことは大きなメリットです。
高松市にはフレンチからイタリアン、バル的な店まで、さまざまな飲食店があり、一般的な野菜だけでなく希少な野菜を求めるお店があります。私たちは販売について対外的にそんなにアピールをする方ではないのですが、こういうものを売ってもらいたいという依頼が寄せられています。
都市に近ければ、タイムラグがなく、鮮度のいいものを食卓に届けられます。関東はより一層恵まれていますね。高松から都内に宅配便で農産物を届けるのに、これまで翌日には届いていたのが、今は中一日余計にかかる流れになっています。その点、深谷であれば、都内に当日届けることもできます。

コスモファームの農場。多品目少量栽培なので、畝の途中で品種が変わることも珍しくない

指定産地との勝負はしない

――中村さんは狭い土地でも稼げる農業に力を入れていますね。農場の広さはどのくらいですか?

高松は1ヘクタール、深谷は60アールです。香川には昔から「五反百姓」と呼ばれる農地が50アールしかないような小規模農家が多くいます。手間がかからないという理由でコメを作って、平日は農業以外の仕事をする兼業が一般的です。そもそも農地が狭いので、これでは農業が儲からなくて当然です。でも他に収入があるので、農家の所得は意外と高いんですね。

降雪の少ない高松で、コメだけ作って秋冬に田畑を遊ばせておくのは、もったいない。冬は東日本は雪が積もったり寒かったりして露地栽培は難しいんだから、競争の少ない秋冬こそ、作付けに力を入れるべきだと考えています。
野菜には、「野菜指定産地制度」(※)という大きな産地が保護されるしくみがあります。だから、指定産地ではない地域で、この制度の対象になるようなメジャーな野菜を作っても、収入の補償という点で恵まれている大産地との勝負にはならない。農家にはよくそう話しています。

※ 国が国民生活に欠かせない重要な野菜を「指定野菜」に定め、この指定野菜を作る大規模な産地を「指定産地」に定める制度。安定供給につなげる目的で、指定野菜の価格が下落すると補助金が支給される。指定野菜はキャベツ、ダイコン、タマネギ、ニンジンなど14品目あり、2026年度からブロッコリーが追加される。

見た目にもこだわったコスモファームの人気商品、ピクルス

野菜の魅力を知ってもらう場

――深谷では、高松とはまた違った農業を展開していますね。

高松の農場は、野菜を生産して供給する現場です。
深谷は、野菜について知ってもらうために農業を見せる場所としての役割があります。体験農園やレストラン、マルシェなどが一体になっています。
アウトレットモール「ふかや花園プレミアム・アウトレット」に隣接していますが、「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」を目的に訪れるお客さんが多いようです。

深谷テラス ヤサイな仲間たちファームのマルシェ。体験農園や近隣農家の野菜、加工品などが並ぶ

高松で300品種を育てる一方で、深谷は140品種くらいです。深谷でも本当はもっと増やしたいのですが、従業員に品種を覚えて説明できるようになってもらわないといけないので、ひとまずこの数にとどめています。お客さんに向き合ってその野菜の特徴を話せるようにならないと魅力が伝わらないので、従業員には「まず自分で食べてみて」といつも話していますね。

体験農園で作る野菜やコメは、レストランやマルシェで提供したり、ワンコイン500円で野菜を収穫できる体験プログラムで収穫して持ち帰ってもらったりしています。野菜について触れたり食べたりしながら学べる「野菜教室」も開いています。
野菜は、そのままお皿に載せられるものほど、高く売れます。切るところが多いほど、安くなってしまう。小さな面積でも、そのままお皿に載せられる野菜を作ったら、じゅうぶん稼ぐことができるんです。
ミニ野菜、マイクロ野菜と呼ばれるような、そのままお皿に載せられる大きさに野菜をあえて小ぶりに育てることもしています。

手のひらに収まるサイズのカブ

三次産業としての農業の時代が来る

――私(筆者)の住む地域に農業公園があるのですが、その再整備に際して検討されている形が、農場にレストランと直売所を併設するという、まさに「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」をモデルにしたような案なんです。

自治体で関心を持って視察に訪れるところはありますね。
日本中にこういうモデルを広めていきたいですね。これからは三次産業の農業が大切になると思うんですよ。

――サービス業のような、一次産業にも、二次産業の枠にも収まらない三次産業ということでしょうか。

消費者に来てもらって、お金を落としてもらう。都市農業はとくにそうですし、田舎は田舎でそういうことができます。
訪れて、さまざまなことを体験できる。野菜畑も田んぼもあって、動物が飼われていて、果物がなっている。そういう風景を楽しむ。民泊も含めて、そこにお金を払う。そういう感覚が消費者と農家の間で育っていったらいいですね。

深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム。体験農園の奥にレストランとマルシェを併設する建物が見える

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