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【TOP対談】「甘い言葉に踊らされるな」農作物輸出の先駆者に聞く、国内流通との違い

【TOP対談】「甘い言葉に踊らされるな」農作物輸出の先駆者に聞く、国内流通との違い

農産物の輸出促進が活発になっている昨今、輸出の最前線で活躍する企業は何を感じているのだろうか。また輸出を始めるにあたり、農家が最初にやるべきこととは。株式会社農業総合研究所の及川智正(おいかわ・ともまさ)さんと、株式会社世界市場の村田卓弥(むらた・たくや)さんに、マイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が聞いた。

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■及川智正さんプロフィール

株式会社農業総合研究所 代表取締役会長CEO
1975年東京生まれ。1997年に大学を卒業後、株式会社巴商会に入社。2003年に和歌山県で新規就農。2006年にエフ・アグリシステムズ株式会社(現フードディスカバリー株式会社)に入社し、関西支社長に就任する。2007年に株式会社農業総合研究所を設立。2016年に東証マザーズ上場を果たす。2019年より現職。

■村田卓弥さんプロフィール

株式会社世界市場 代表取締役
2002年に大学を卒業後、独立行政法人国際協力機構に入構。インドネシア駐在等を経験する。2015年株式会社世界市場を起業。自社が構築した「日本農産物・食品の輸出プラットフォーム」を通じて農業を日本の輸出産業にし、日本を元気にしていくことを目指している。

■横山拓哉プロフィール

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

生産と販売が交わる「流通」

横山:今日は農業総合研究所の及川さんと、世界市場の村田さんにお越しいただき、輸出をテーマにお話を聞きたいと思います。

及川:農業総合研究所代表取締役会長CEOの及川です。「総合的に研究できるような農業ベンチャーをやりたい」という気持ちを込めて社名をつけました。生産者が作ったものを生活者がダイレクトに、新鮮な状態で買える農産物のプラットフォームを整備しています。

横山:会社を立ち上げるまでは生産者だったんですか?

及川:大学卒業後6年間サラリーマンをやっていました。どうしても農業をやりたくて、和歌山県で農家を3年、青果店を1年間やりました。作るのも大変だし、売るのも大変でしたね。この水と油のような関係は、両方やった人間じゃないとコーディネートできないなと思いました。
そして、生産と販売が交わるところである「流通」をよくしていかないと、農業は絶対によくならないと思い、農業総研究所を立ち上げました。

村田:世界市場代表取締役の村田です。私どもは日本の農産物を世界のお客様に、日本で召し上がるのと同じ品質と鮮度で提供できるよう、商流を作って展開しています。前職ではよく海外に行っていたのですが、海外と日本の農作物の品質がかなり違うと感じていました。日本産の方が圧倒的に味が良かったんですよね。
その後、及川さんと出会い、日本の生産者はかなりこだわって作っていることを知りました。農業はいろいろな課題があるといわれていますが、私としては非常にチャンスが大きいと感じ、及川さんにご指導いただきながら世界市場を立ち上げました。

先駆けて輸出に注目したワケ

横山:今でこそ輸出促進に向けた動きが活発になっていますが、当時輸出に注目したのはなぜですか。

村田:最初は、環太平洋地域で流通している農産物の市場規模がかなり大きいことに着目しました。例えば今、日本にもチリ産のブドウやメキシコ産のアボカドなどが入ってきますよね。海外から日本に輸出されて売れるものがあるなら、日本から環太平洋中に売れるものがあるはずだと考えて始めました。

横山:船での輸送は空輸よりも時間がかかって、鮮度を保つための技術が必要になると思います。それはどうやって開発したのでしょう。

村田:海外では「ポストハーベスト」が学問としてもビジネスとしても成り立っているので、まずはその文献を調べました。そこから仮説を立て、日本の農産物にどう適用すればいいかを検討しました。でも1番難しかったのは、生産者の方々に信頼していただくことでしたね。例えば、収穫したものを「すぐ0℃に保管してください」とお願いするのは、国内の農業界では非常識なことでした。生産者の方からまだ大した量も買えませんでしたし、特にフルーツだと年に1回しかとれないので、信頼を築いていくのには非常に時間がかかりました。

及川:日本でよく売れる野菜の一つはトマトですが、香港では日本のトマトは全く売れないんですよ。日本人はトマトを生で食べる文化がありますが、向こうにはない。だからまずは食文化を知らないといけないと感じました。ただ、向こうのみなさんは非常に日本のものを欲していました。「日本のものはいいものだ」と口をそろえて言ってくれたんですよ。現地で生の声が聞けたのはありがたかったです。

対談動画はこちらでチェック

海外で優位性のある品目

横山:現在、取引の規模はどれぐらいですか。

村田:農業法人の数でいうと、30〜40ほどです。40フィートコンテナに入る量の農産物を1生産者からもらわなければいけないので、農業法人のような規模の大きい生産者とお付き合いすることが多くなってきました。年間を通じて約20品目を扱っています。

及川:単位農協さんやJAさんと協力しながら、たくさん商品を集め、一括で貯蔵できるような仕組みも、現在考えています。

横山:日本の農産物の中で優位性があると思うものは何ですか。

村田:私の中で1番自信を持っていえるのは、モモです。あとはミカンやリンゴでしょうか。現時点では日本の気象条件以外では作りづらいので、これらは代表的なものになると思います。またイチゴも、日本はかなり味にフォーカスした品種開発をしているので、他国産に比べて品質面での優位性は非常に強いでしょう。

横山:果樹以外ではどうですか。

村田:品種にもよりますが、イモ・クリ・ナンキンといわれるような貯蔵するものですね。日本は貯蔵技術に大きな強みを持っているので、収穫した後に貯蔵して糖度を高めるものについては海外からも需要が高いです。

及川:特にサツマイモは需要が高いと思います。

村田:ナガイモや、ゆり根も今後需要が伸びると思います。中華料理に使われるけれど中国以外ではなかなか生産されていないものですね。海外で主食となっているものの中で、日本で作れるものは何かと考えると、全く違うマーケット環境が見えてきます。

流通視点で生産を考える

横山:事業を続ける中で、きっと苦労されたこともあるのではないでしょうか。

村田:先ほどもお伝えした通り、生産者の方々との信頼関係を築くのが難しかったですね。当初はかなりロスも多かったのですが、現地に着いてダメになっていたものは、全部写真を撮って生産者にお伝えするようにしました。そして一緒に改善していくためにコミュニケーションをとり、毎年少しずつステップアップしてきました。世界市場の最大のポイントは、海外に輸出して終わりではなくて、お客様に届くところまで品質を担保して販売すること。現地に法人を作り自社で工場も借りて出荷する前に全部検品したり、スーパーに卸す際パッキングも請け負っています。だからこそ持続性のある関係が作れたと思います。

及川:僕は流通視点で生産を考えることが必要だと思っています。例えば、毎日8トン車満載の野菜を出荷するためには、どのぐらいの面積(の野菜)を作らないといけないかという考え方ができるか。輸出もそうだと思うんですよね。20フィート、40フィートのコンテナを満載にするためには、どのぐらいの面積を自社で作らないといけないか、足りない部分をどう補うか。流通視点で生産を考えると非常に利益を出しやすくなると思います。ただ、いきなり輸出をしようとしても、ハードルが高いでしょう。だからまずは輸出に精通した会社と一緒にやってみることが大切です。世界市場のような会社や、自社で輸出をしている大きな農業法人もたくさんあると思います。

農業は今がチャンス

横山:輸出を考えている農家へアドバイスをお願いします。

及川:国内流通にもいえることですが、まずは現地に行くことです。買ってくれる人、食べてくれる人の文化を知るということですね。どこに輸出したいか、何を輸出したいかを決めて、そこに行ってみる。そしてどんなものが売られているのかを見て、もう1度考えることが必要です。

村田:私も自分の目で現場を見て、そこから決めることが重要だと思います。海外の商習慣は日本とは全然毛色が違うので、甘い言葉に踊らされずに、まずは現場を見てみましょう。

横山:最後に、農家のみなさんへ応援メッセージをいただけますか。

及川:起業して今、18年目に入りました。僕が優秀だから会社が継続したわけではありません。今がとてもいい時代だから続けてこられたと思っています。うちの会社の合言葉は「農業に情熱を」。17年前、僕は駅前にゴザを広げてミカン1盛り300円で売っていましたが、今は約140億円の野菜やフルーツを扱うことができています。これは本当にいい時代で、情熱さえあれば何でもできると思います。いい時代だと認識できたら、それを若い世代に伝えていく。そうすれば、もっといい農業といい日本ができるはずです。

村田:私もその通りだなと思っています。逆に今の時代じゃなければ、私は農産物を輸出する会社を立ち上げられなかったと思うんです。そういう意味では、これから新規で就農する方や参入される方には、信じていただきたい。農業は大変かもしれないけれど、今参入すればそれだけのチャンスがあります。ぜひ一緒に日本の農業を盛り上げていければと思います。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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