イチゴが無残な姿で収量3割減 生産者の努力を水の泡にするアザミウマ類の悪夢
薬剤抵抗性を持ち難防除害虫に数えられるアザミウマ類。花やガクの隙間に潜んで吸汁し、果実を台無しにしてしまうため、特にイチゴ、ナス、トマトなどの作物では注意が必要です。
小さく発見しにくいうえに高温では繁殖力が旺盛で、多くの生産者を悩ませています。
全国一のイチゴ収穫量を誇る栃木県でイチゴの施設栽培に取り組む茅島史彦さん(42)もかつてその被害に泣いた一人でした。
日本フットボールリーグの栃木シティの前身チームでサッカー選手として活躍した茅島さんは、2005年から栃木市で父母に教わりながら米、麦、イチゴなどの生産に従事し、2019年に事業を承継して法人化。株式会社モランゴファームを設立しました。「モランゴ」はポルトガル語でイチゴを意味します。
その栽培面積は、土耕栽培のハウス11棟と事業承継した年に建てた高設栽培のハウス4棟を合わせて35アール。栽培品種は栃木県で開発された「とちあいか」と「とちおとめ」です。
イチゴの食味を含めた品質を追求するうえで重きを置くのは、温度管理。スマホでハウス内の温度をモニタリングして適温を保ち、食べる人を思い浮かべながら従業員が力を合わせて日々の管理にあたっています。
こうした努力を水の泡にするのがアザミウマです。日頃の管理でその影がないか観察してきましたが、2018年シーズンに大きな被害を受けました。10月にハウスの暑さ対策で換気をする時期と米の収穫期が重なり、イチゴから目を離した隙に入り込んでいたのです。
「アザミウマは花の中に入り込むため、気がつかずに実がなったときにはもう手遅れ。イチゴは黄色く汚れて売り物になりません」と茅島さんは悔しさを滲ませます。
アザミウマ類を防除し天敵も生かす、ローテーションに待望の薬剤
アザミウマ被害の拡大を許したもうひとつの要因は、既存薬剤のハダニの天敵への影響です。
「天敵のカブリダニを取るか、それを諦めてアザミウマを防除する薬剤を取るか、苦しい選択を迫られました」と言葉を続ける茅島さん。
その年は可能な範囲でアザミウマの後追い防除をしたものの、収量は例年の3割減という大打撃を受けました。
茅島さんが過去最悪のアザミウマ被害に遭ったその年のこと。アザミウマ類に効果が高く、カブリダニ類などの天敵やミツバチなどの訪花昆虫への影響が小さい薬剤が発売されました。
JAの店舗で、新規登録薬剤の『ファインセーブ®フロアブル』をすすめられた茅島さんは、すぐに導入を決断しました。
「アザミウマはもちろん他の病害虫も、発生する前に防除することが一番の対策です。『ファインセーブ®フロアブル』は1シーズンに3回まで使えるので、被害の翌年からこれをメインに防除ローテーションを組んでいます」と茅島さん。
以前は病害虫が発生を確認してから、後追いの薬剤散布で対応することもありましたが、ローテーションを確立してからは、それもなくなり、高品質のイチゴが安定して採れるようになりました。
茅島さんにファインセーブ®フロアブルの他の剤にはないメリットを尋ねると、「他のアザミウマ用の薬剤と比べて薬害が少なく、果実にシミがつくこともないことですね。イチゴのロスが少なくなりました」と同剤に厚い信頼を寄せています。
持続可能な生産が求められるようになっている昨今の情勢も踏まえ、「防除ローテーションで大量発生する前に病害虫をしっかり抑えることが農薬のスポット使用を減らすことにつながり、結果として減農薬になると考えています」と言葉に力を込めます。
ローテーション防除の成功が、生産拡大のチャレンジを後押し
茅島さんの防除ローテーションは、部会でJAや農薬メーカーの指導を参考にしながら考えられたもの。その中でファインセーブ®フロアブルを施用する3回のタイミングを教えてくれました。
まず、アザミウマに使える薬剤の幅を広げるために、ハダニの天敵であるミヤコカブリダニは11月中旬に入れます。その後、ファインセーブ®フロアブルの1回目の施用を年内に、次は1月に、最後は2月末または3月上旬に行い、収穫の最盛期を乗り越えます。
気温が上がり再びハウスの換気を全開にする4月には他のアザミウマ用の薬剤を使い、月末に収穫を終えるまで防除の手を緩めません。
この防除ローテーションを確実に実行することで、ここ数年はアザミウマを完全に抑え込めているそうです。
「2023ー24年シーズンは1度もアザミウマを見ていません。ファインセーブ®フロアブルは決して安い薬剤ではありませんが、そのパフォーマンスには満足しています。アザミウマによる損害が発生するよりずっといいです」と話す茅島さん。
農薬の値段だけで判断してしまいがちなコストパフォーマンスですが、総合的に考えると導入するメリットが大きいそうです。
イチゴの2大害虫といわれるハダニを天敵で、宿敵アザミウマをファインセーブ®フロアブルで防除を成功させた茅島さん。
事業を継承して5年目になる次年度は、高設栽培のハウスを増設し、イチゴ1万3000株を増やす計画です。このチャレンジも、近年の防除の成果があってのことだといいます。
アザミウマ類の防除に「ファインセーブ®フロアブル」 ぜひローテーションに導入を
殺虫剤分類34に分類されるファインセーブ®フロアブルは、新規作用性のフロメトキンを有効成分としており、既存の薬剤に抵抗性を示すアザミウマ類に対しても特効的な殺虫剤です。
アザミウマの幼虫・成虫ともに安定した有効性を示します。トマトサビダニにも高い効果を発揮し、タバココナジラミ類、小型のチョウ目害虫にも効果が見られます。日本化薬株式会社が2018年に上市しました。
茅島さんの話にあったように、ハダニを捕食する天敵として利用されるカブリダニ類のほか、受粉に活用されるミツバチやマルハナバチ等への有用昆虫への影響が小さい殺虫剤としてファインセーブ®フロアブルは希少な選択肢の1つです。
また、併用できる薬剤も多く、防除ローテーションの一剤として組み入れやすいことも特長です。施用後2週間の残効が期待でき、耐雨性があるので露地作物や果樹などにも適用できます。
留意したいのは、どんな薬剤も万能ではないこと。アザミウマ類は高温を好み、気温が高くなると繁殖力を増すため、ファインセーブ®フロアブル単体での防除には限界があります。
特にイチゴの場合は、茅島さんの防除ローテーションのように、ファインセーブ®フロアブルは10月から2月まで、遅くとも3月上旬までのアザミウマ発生初期での施用が推奨されています。
「栃木県は1968年から55年連続でイチゴの収穫全国1位ですが、高齢化が進んで離農する人もいる中で、その座を守っていくのは大変だろうと思います。モランゴファームは従業員も育ち、作業効率が上がってきているので、少し規模を広げて栃木のイチゴを少しでも多く出荷し、王座を守る力になりたいです」と茅島さん。
防除に自信を持てたからこその前向きな抱負。これからもモランゴファームのイチゴは、各地の消費者を楽しませるのでしょう。
【取材協力】
株式会社モランゴファーム
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