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農業の労働力確保にあの手この手。先進地に学ぶ、事業継続のポイントとは?

農業の労働力確保にあの手この手。先進地に学ぶ、事業継続のポイントとは?

1日農業バイトアプリ「デイワーク」を活用した潜在労働力の掘り起こしでマッチング率80%超を達成した長野県と山形県。両県では、このほかにもあの手この手で新たな労働力の確保に向けた取組を行っています。「攻め」と「守り」の合せ技で新たな一手を考える長野県と山形県の担当者に、事業継続のポイントを伺いました。

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取り組み方を毎年アップデートし、産地の課題に応える

長野県では、令和元年に「JA長野県農業労働力支援センター」を創設して以降、求人サイトの立ち上げや「デイワーク」導入、農福マッチングシステムの構築、高原野菜における外国人労働力の受入支援など、多彩な取組を行ってきました。県域の広い長野県では、地域や栽培品目によって抱えている課題が異なるため、JA長野中央会ではあの手この手で目的に応じた支援策を実施しています。

「果樹作業を中心とする短期雇用人材の確保にはデイワークを活用し、中長期的な労働力確保には新たな農業求人サイトを立ち上げて募集を始めています。また、高原野菜の産地では4月から10月の外国人労働力が欠かせません。長崎県と産地間連携を行い、外国人材のリレー派遣にも取り組んでいるところです。」(JA長野中央会 営農農政部/小口修弥さん)

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JA長野中央会の小口さん

一方、山形県では「山形県農業労働力確保対策実施協議会」を立ち上げ、オール山形の心意気で農業労働力のニーズ調査と対応に努めてきました。協議会は、JA山形中央会、山形県、労働局などで組織され、各市町村もオブザーバーとして加わっています。

当初は、労働力不足が顕著なサクランボに限ってワーキングチームを結成。他産地や他産業と連携して収穫期の労働力確保に努めてきましたが、令和6年度にはこの取り組みをさらに全市町村に拡大する予定です。

「前年度に引き続き、令和5年度も県職員によるサクランボ時期の副業を行いました。本事業は令和6年度も継続し、県職員だけでなく県内の民間企業にも波及させたいと考えています。」(山形県農林水産部 農業経営・所得向上推進課/井上史崇さん)

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山形県農林水産部の井上さん

デイワークによる短期労働力の掘り起こしのほか、全農山形、JTB、山形県が仲介役となった「農作業受委託モデル」により、県外等からの働き手の呼び込みにも着手しました。
初年度の令和5年度は、3,000人の募集に対して3,015人の参加者が集まるという大きな成果を残すことができました。同事業は令和6年度も対象エリアを拡大し、5,000人の参加を目指します。

こうした一連の取組に共通するのは、実施した事業の成果を検証し、次につなげる視点です。労働力確保に向けて新たなアイデアを加えたり、エリアを拡大するなどして、既存の事業に変化を加えながらアップデートし続けることが重要なポイントのようです。

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山形県職員によるサクランボ作業の様子

農繁期の違いと産地間連携を活用し、既存の手段を地域に落とし込む

農繁期と農閑期の差が明確で通年雇用が難しい山形県においても、外国人労働力の活用を諦めているわけではありません。長野県と同様に今後は九州地方との産地間連携によって、夏期限定での外国人労働力のリレー派遣を検討しています。

県が実施したアンケート調査によると、農業者にとって外国人技能実習生の受け入れは「制度の理解」「賃金」「言語」に関する不安を抱えていることが明らかになりました。受け入れるためには、宿舎やWi-Fi環境の整備も不可欠のため、県では令和6年度からハードとソフトの両面から支援策を拡充する予定です。

高原野菜の産地を中心に、収穫最盛期の外国人労働力の受け入れを恒常的に行ってきた長野県では、雇用環境の整備に向けた支援を重視しています。

「長野県の場合、宿舎は農家ごとに準備されているケースがほとんどです。外国人労働力を多く受け入れているのは、野辺山などの八ヶ岳エリアです。個人農家が多く、農家ごとに意識も指導も環境も違うため、JAとしては個々の農家の労働環境や意識の改善・啓発のための研修会を行っています。」(小口さん)

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長野県内で実施した外国人を登用した農作業の様子

事業拡大と継続のポイントは、課題感の共有と熱量の継承

このようにさまざまな取組を継続させるには、地域の農業に関わる農業者をはじめ、農業を取り巻く団体や行政など、幅広い関係者の力が不可欠です。事業を地域に根付かせていくために必要な考え方を両県の担当者に聞いてみました。

JA中央会を中心とする23団体で農業労働力確保支援事業に取り組む長野県では、農業の労働力不足に対する現場からの声が大きくなる中で本事業が立ち上がりました。
「外国人労働力のリレー派遣や産地間連携ができるようになり、制度変更のタイミングを見逃さずに組織化し、取組につなげた当時の関係者の熱量と行動力、巻き込み力が大きかったと思います。」(小口さん)

しかし、人事異動で担当者が変わることによって、事業が存続の危機に陥ることはないのでしょうか。

「人事の入れ替わりもありますが、この事業は担当者が一人でやっているものではありません。本県では関係者全員が“オール山形”という心意気で取り組んでいます。協議会としてなるべく多くの選択肢を用意して、産地に適した取組を行っていきます。」(井上さん)

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山形県内で実施したアグリキャンプの様子

長野県、山形県に共通するのは、担当者一人がすべてを背負うのではなく、事務局や協議会に関わるみんなを巻き込む課題感の共有と熱量の継承です。さらに、定例会などの会議体を有効活用しながら、関係者が顔を合わせる機会を多く設け、逐一情報共有を図りながら「いかに決めるしくみをつくるかが大事。」と、小口さんは説きます。

既存の取り組みの深化と横展開で、さらなる労働力確保を目指す

長野県では今後、さらなる労働力確保に向けて、デイワークによる労働力の掘り起こしを深化させる予定です。動画の活用やより詳細な情報の発信により、農作業に対するハードルを下げるほか、県との連携による研修制度の試みなど、多彩なアイデアを具現化していこうとしています。

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JA長野中央会が作成したデイワーク求人のチラシ

「JR東日本との企業連携も労働力確保の裾野を拡げるための取組です。他の企業への波及も狙っていきます。」(小口さん)

山形県では、これまでの取組を県全体で多品目に横展開していく予定です。これまでオブザーバーの位置づけだった市町村にも構成員として協議会に加わってもらうほか、全農、JTB、県で取組を開始した農作業受委託モデルの対象地域を拡大していく予定です。

「県の主導でサクランボ作業の取組を先行した結果、他の品目では地域の声が届きにくくなってしまった面もありました。今後は地域ごとに意見交換会を行い、地域にとって必要な労働力確保の取組を実施していきます。」(井上さん)

既存の取り組みに新たな視点やトライアルを組み合わせ、労働力確保の課題にむけてアプローチを続ける長野県と山形県。地域の農業に関わる多様な視点と「知」を結集し、産地の未来を考える両県の取組に今、全国の産地が注目しています。

【取材協力】
JA長野中央会 営農農政部 営農支援センター
山形県農業労働力確保対策実施協議会(事務局:山形県農林水産部農業経営・所得向上推進課)

【労働力確保支援事業に関するお問い合わせ】
株式会社マイファーム
農業労働力確保支援事務局

MAIL:roudouryoku@myfarm.co.jp
TEL:050-3333-9769

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