広大なキャベツ畑、現場リーダーとなる外国人材
群馬県西端の高原地帯に位置する嬬恋村は、夏の冷涼な気候を活かした夏秋キャベツの一大産地。村内の耕地面積3,390haのうちキャベツは2,900haと85%以上を占め、年間約210万トンを出荷する主要産業のひとつです。近年は高齢化による離農で農業就労人口が減少する一方で若い生産者が農地を集約して大規模化するなど、作付面積は増加傾向にあり、繁忙期には多くの労働力を必要としています。
現在33人の生産者からなる嬬恋キャベツ振興事業協同組合は、技能実習生制度(育成就労制度への移行に向けて政府内で検討中:令和6年3月現在)を活用して外国人労働力を確保する目的で組織され、2006年から外国人を受け入れ、面接、配属、就労期間中のサポートを行っています。受け入れにあたり、特に宿舎の拡充に力を入れ、生産者が庭先にプレハブやコンテナハウスを建てるなど、自炊で生活できる環境を整えてきました。
同組合が技能実習生に代わり特定技能外国人を雇用するようになったのは、2019年のコロナ禍での行動制限がきっかけでした。
「技能実習生が日本へ来られなくなり、母国に帰れなくなった特定技能外国人を雇用したのが最初です。日本語でコミュニケーションでき、理解力が高いので、雇用する側が特定技能外国人を望むようになりました。」と橋詰さんは話します。以来、組合員33軒の農家が生産規模に応じて2〜9人を雇用し、2023年度はカンボジアを主体に、インドネシア、ラオスなどのアジア各国から110人がキャベツの生産に従事しました。
同組合では特定技能外国人への給料として、初年度は法定賃金でスタートして毎年50円の時給アップを実施。長い人では雇用3年目になり、リーダー的に新しく入った仲間を先導してくれるなど、時給に見合う働きをしてくれるので生産者はとても助かっているそうです。
冬期に就労する産地から戻れる仕組みづくりが急務
早くから外国人労働力を積極的に受け入れ、雇用の実績がある嬬恋キャベツ振興事業共同組合もまた、労働力確保には産地単独で解決できない課題を抱えています。
「嬬恋でキャベツの仕事があるのは、植え付けをする3、4月ごろから収穫が終わる10月末までです。特定技能外国人は通年で働いて収入を得たいので、冬期の職を探してあげなければ定着してもらえません。他の産地へ送り出して、翌年また戻ってきてくれるかは生産者にとって一番の懸念です。」(橋詰さん)
農業の特定技能外国人は農業分野でしか転職できないため、繁忙期が異なる産地と雇用をリレーして翌年も同じ生産者のもとへ戻り、最長の5年間、継続して働いてもらえることが理想です。
特定技能外国人は、登録支援機関が事務手続きなどを行い、各農家と直接雇用の契約を結びます。橋詰さんらはシーズン中に生産者の圃場をまわって特定技能外国人と面談をし、冬期の就労先を紹介していますが、関係性ができていない先へ転職すると、その後のサポートができなくなり、連絡が取れないまま離農してしまう恐れもあります。
産地での生活環境の安心、体験の充実が継続のカギ
特定技能外国人の定着に向けて、同組合では令和4・5年度の農業労働力確保支援事業を活用して産地間連携の拡充に取り組んできました。
その成果として2023年3月に宮崎県農業法人経営者協会と協定を結び、同年11月に20人の特定技能外国人を野菜農家へ送り出し、翌春に嬬恋へ戻ってキャベツに従事するという産地間リレーのモデルケースができました。富山県の柿農家との産地間連携はすでに2期目に入り、特定技能外国人10人が収穫や干し柿づくりに携わっています。
また、令和5年度は本事業の中間報告会を通じて、新たに和歌山県でミカン援農の受け入れ事務局である加茂川協議会との連携が始まり、4人が同県下津町のミカン農家で収穫・出荷に携わりました。このほか、群馬県内の施設野菜農家に6人、茨城県のレンコン農家に2人が就労し、同年度は嬬恋村から合計42人を産地間リレーで送り出しました。
「連携先では外国人同士で住めるシェアハウスなどの住居を用意してもらえました。海が近くて釣りができたり、自転車で街へ出られるなど、ここではできない体験ができてよかったと話を聞いています。嬬恋の仕事はハードですがその分しっかり稼げるので、時給が多少低くてもその産地へ行ってくれるし、就労期間が空いても仲間と国内を旅行するなどして楽しんできてくれています。自分の好きな作物に携われたことやキャベツ以外の農業経験ができたことを喜ぶ人もいました。」(橋詰さん)
連携先の産地で就労した42人は全員が春に嬬恋へ戻り、冬になったらまた連携先の同じ農家へ行きたいと話しているそうです。
地域理解と農家間連携を深め、外国人雇用のハードルを下げる
特定技能外国人は稼ぐ目的があるので仕事へのモチベーションが高いです。産地に定着してもらうには、生活の安心感や満足度が大切。例年100人前後の特定技能外国人を受け入れている同組合としては、就労する全員分の連携先を見つけることが急務です。
「外国人雇用の心理的なハードルを下げていきたいです。その地域で1軒でも特定技能外国人を雇用してくれたら、周囲の農家さんがその勤勉な働きぶりを見て、来年はうちにも来てほしいと思うに違いありません。冬場4カ月ほどの短期で人が欲しくてもどうやって集めたらいいかわからない農家さんにアプローチしていきたいです。」(橋詰さん)
今後は農家間で連携協定が結べるようにしたいと決意を新たにしています。
「特定技能外国人の転職は、その都度、労務上の膨大な書類の作成が必要であることが、産地間リレーのハードルになっています。協定を結んだ農家間の転職は書類作成が緩和できるように、嬬恋村とも協力して国へ要望を出していきたいです。」(橋詰さん)
嬬恋キャベツ振興事業協同組合の取組は、外国人労働者のサポートや産地間連携の結び方の好事例。連携先の拡大とその関係性の強化により、制度自体の改善につながる可能性を秘めています。
【取材協力】
嬬恋キャベツ振興事業協同組合
【労働力確保支援事業に関するお問い合わせ】
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