マイナビ農業TOP > エンタメ > YouTuberになったブドウ農家の跡取り【後編】ネタ切れ知らずのクリエイター・林ぶどう園の流儀は

YouTuberになったブドウ農家の跡取り【後編】ネタ切れ知らずのクリエイター・林ぶどう園の流儀は

少年B

ライター:

YouTuberになったブドウ農家の跡取り【後編】ネタ切れ知らずのクリエイター・林ぶどう園の流儀は

チャンネル登録者数4.68万人(2024年2月末現在)と、絶大な人気を誇るYouTubeチャンネル「林ぶどう園」。ブドウ栽培というニッチなジャンルを扱いながらも、動画の再生数は軒並み1万回以上を数えるなど、今や農業系YouTuberの新たな顔として存在感を示しています。後編となる今回は、動画づくりのノウハウやネタ探しのウラ話、農家がYouTubeをするメリットについて伺っていきます。

twitter twitter twitter
関連記事
YouTuberになったブドウ農家の跡取り【前編】農業知識ゼロの青年は、いかにして登録者数4万人超えのチャンネルを作りあげたのか
YouTuberになったブドウ農家の跡取り【前編】農業知識ゼロの青年は、いかにして登録者数4万人超えのチャンネルを作りあげたのか
「林ぶどう園」というYouTubeチャンネルをご存知でしょうか。チャンネル登録者数は4.68万人(2024年2月末現在)と、農業系YouTuberの中でも屈指の人気ぶり。「ブドウ専門農家のYouTubeチャンネル」と聞くと、相当ニッチなジャンルのよう…

林佑亮さんプロフィール

林さんプロフィール欄 作業療法士として5年間勤務したのち、2014年に就農。祖父の指導の下、ブドウ栽培を始める。2019年に屋号を「林ぶどう園」に改め、翌2020年にはYou Tubeチャンネルを開設。主に、ブドウ栽培に関する情報を発信している。

毎年同じ作業の農業。動画のネタはどう用意?

—農家さんって、1年の作業自体は大きく変わらないと思うんですが、ネタ切れは起きませんか?

正直、毎年同じような内容の動画を出してもいいのかなと思ってます。というのも、過去に同じような動画があったとしても、投稿数が多くなってくると、視聴者さんも探しきれなくなってきますよね。埋もれちゃうので。

結局リーチされるのは最新の動画になるので、例えば「2023年バージョン」などと付け加えておけば、同じ内容でも問題ないと思ってます。

—同じネタでもいいんですね。意外でした。

同じ内容でも、新しい動画を出すと、ちゃんと反応も返ってきますし、初めて見たという方もたくさんいらっしゃるので、全然問題ないかなとは思ってますね。

また、農業って年に1回の作業が多いので、やることを忘れちゃう人も多いと思うんですよ。そこで、「この作業はこうやろう!」って動画を出すと、それを見て「ああ、そうだったそうだった」と思い起こす視聴者の方も多いんじゃないかと。

そうした目的で、例えば下記のような「剪定(せんてい)」に関する動画はこれまで何本か出しています。

—確かに、いつもやっていることじゃなければ忘れてしまうかもしれません。

もちろん、エンタメのような動画だったらそうはいかないかもしれません。毎年同じことをやっていたら、飽きられてしまうかもしれない。でも、農業だったらこうしたやり方でいいんじゃないかと思います。

ただ、僕は大きくバズる動画はまだ出したことがないので、何とも言えないですね。何か圧倒的な影響力のあるようなネタがないかな、とは常に思っていますけど。

—何万回も再生されている動画がいくつもありますが、それでも林さんとしては「バズっていない」という認識なんですね。

十万回再生の壁を超えたいけどなかなか……という感じですね。そもそも、潜在的な需要が少ないというのはあると思いますけど。農業という分野で、さらにブドウ専門なので、だいぶ狭いんですよね。

—確かに、他の果物も手掛けていればまだしも、林ぶどう園のチャンネルはブドウ栽培に興味がある人しか見ないでしょうしね。

そのぶん熱心な方が多い印象はあるので、そういう方に刺さる内容を出すようには意識しています。

ブドウと全く関係ない動画を出さない限りは、著しく芳しくない数字が出ることはないですね。栽培関連の動画を出すと、1カ月以内には5000~数万再生ぐらいは行くので、そういう意味ではありがたいです。

YouTubeで得たメリットとは

—YouTubeでの林ぶどう園の知名度が上がることによって、実際にお客さんが増えたとか、そういった影響はありますか?

もちろんYouTubeを見て来てくれる方も当然いらっしゃるんですけど、残念ながら、目に見える形で売り上げに変化があるわけではないですね。

—売り上げが2倍になってるとか、そういうことはないと。

そうですね、もしかしたら買いに来てくださる視聴者さんもいるのかもしれませんが、直接会話する以外に把握する方法もないですし。だから、そういう販売戦略みたいなのもちょっと考えなきゃいけないのかなとも思います。

うちのチャンネルはブドウを食べる層じゃなくて、作る層に向けて作っているので。「こういう食べ方があるよ」とか、「この品種がおいしい」とか、そういう動画を作れば変わるかもしれませんが、それをやってもおそらく再生回数や登録者数が落ちるような気がするんですよね。

—今の視聴者層とはちょっと違いますもんね。

そうなんです。だから、元々のYouTubeを始めた気持ちを大事にして、売り上げを上げていくよりは、農業に関わる人が増えて、栽培面積が増えて、ブドウの面積が拡大して生産量が上がっていく、という農家全体の利益を目指したほうがいいのかな、という気がしてますね。

YouTube単体でも、それなりに利益はちゃんと出ていますし。

—いやらしい話かもしれませんが、広告収入はそれなりに入ってきますか?

ビジネス系の動画はだいたい1再生で0.4円ぐらいなので、1万回再生されれば4000円~5000円ぐらいの利益にはなりますよね。当然幅はありますけど、毎月新卒サラリーマンの初任給ぐらいの金額にはなります。

収益がもうちょっと増えてくれば、カメラマンを頼んだり、編集してくれる人を雇ったりして、自分の作業時間は減らせるでしょうし。そしたら栽培に費やせる時間も増えてきます。どっちかっていうと、自分の所得を増やしたいというよりは、そうやっていろんなことをやりたい気持ちのほうが強いですね。

⑴

—YouTubeでこれだけ登録者数が増えてくると、PR案件の話もあったりしませんか?

ゼロではないですが、4.6万人ぐらいのチャンネルだと、そんなに多くはないですよ。
登録者数が10万人とかになってくると、もっと多くなってくるんじゃないかなという感覚はあるんですけどね。

—意外とそんなに多くないんですね。

でも、心から本当に使いたい商品だったら、案件を受ける意味はあると思うんですけど、そうじゃないものをPRをしたところで信ぴょう性はないですし、逆に自分の信用をなくしてしまいますよね。

自分は使えるものは使えるって言いたいし、使いにくいものはお金をもらってもいいとは言いたくないので。いいものをいいと言うのは、結果的に人のためにもなりますしね。

—YouTubeをやってたことで、他にメリットはありますか?

やっぱり、人と話す敷居がだいぶ下がりますね。普通はイチから自分を知ってもらわないといけないけど、ありがたいことに最初から「見たことあるよ」「話は聞いてるよ」と自分のことを知ってくれてる状態で入っていくので。

「お前なんて嫌いだ」みたいなことを言う人には会ったことないですし、そういう人はそもそも近づいて来ないと思うので。農家さんや果樹担当の公務員の方々とか、いろんな人とは相当話しやすくなったと思います。

SNSはYouTubeに特化

—YouTuberだとチャンネル登録とともにX(旧Twitter)のフォローもお願いするケースが一般的ですが、林さんはXアカウントをあまり動かしていませんね。

ちょっと色が違うというか……。すごく楽しそうにやってる方々もいますけど、結構言葉が強い方も多いなと感じていて。

僕の場合は響いた言葉を日記代わりに使うぐらいの感覚ですね。あんまり何かを主張したり、認知度を広めたりするためには使ってないですね。

⑵

Xのアカウントもあるが、あまり認知度を上げるためには使っていない

—YouTubeとXを連動させていないというか。

ウチの視聴者さんとXをやってる層は違う気もしてて。50万人とか100万人の登録者がいたらかぶってくるかなとも思うんですけど、4万ぐらいの登録者数で、視聴者さんの年齢層も考えると……。なんかまだ早いイメージがあるなと思ってます。

—なるほど。個人的にはYouTubeに特化してる林さんのスタイルは珍しいなと思っていました。

単に、自分がYouTubeから入ったからじゃないでしょうか。あまり器用じゃないので、単にまだ使いきれてないのかも……。もしかしたら、今後は使っていくことになるかもしれません。その辺のSNSの違いは、もうちょっと勉強しないといけないなとは思ってます。

Xをやってる農家さんは、結構熱意のある方が多いイメージがあります。ただ、販売や集客という点ではインスタ(Instagram)のほうが強いイメージはありますね。最近だとECサイトにリンクを貼って、商品を売っている方も多いですよね。

—YouTubeの強みとはなんでしょう。

再生回数が増えはじめたら、やっぱりYouTubeは強いなと思います。

Xやインスタだったら、1万フォロワーを達成するのは相当難しいだろうなって思いますが、YouTubeは視聴者にリーチする能力が強いので。

⑶

—逆に、YouTubeの弱点は?

逆に、最初の100人から1000人ぐらいまでがとてつもなく難しいというか、ほとんど相手にされないので……そこがめちゃくちゃ難しいですね。1000人の壁が圧倒的に高いです。

Xやインスタだと、地道に投稿していればフォロワー数も徐々に増えて、1000人ぐらいはいく感じがあります。YouTubeにはそれがないので、それなりの動画を撮らないと、多分ずっと増えていかないです。

—もう一度見たいと思わせる動画じゃないと、チャンネル登録はしてもらえない。

動画ってモロに伝わるので、売ろう売ろうとしちゃうと「何でそんなの見なきゃいけないの」ってなるでしょうし。視聴者さんの求める動画を出していかないと、難しいでしょうね。

—林さんの動画を見ていると、芽の先端などのピントが合いづらいところは手を添えて見やすくするなどの心遣いがわかります。

見にくいとかピントが合ってないとか、視聴者さんに言われて初めて気づいたので、ちょっとしたことなんですけど、気を付けています。

もっとゆっくりしゃべってとか、じっくり映してとか、そういう要求もたくさんあったんですけど、地道にそれに応えていく。そうしているうちに、だんだん再生回数が増えてきましたね。

みんなYouTuberになったらいい

—ちなみに、動画自体はiPhoneで撮っているとのことですが。

撮影も編集もずっとiPhoneです。僕の場合は、それだからできたところもありますね。休憩中に編集できるし、電車などの移動時間も無駄なく使えるし。これがパソコンだったらできなかったなと思うし、ビデオカメラで撮影してたら、動画の画素数も多くなって、映りもこだわっちゃったかもしれません。

例えば、今後撮影や編集を誰かにお願いするなら、画質を上げる選択肢もあるかもしれませんが、最初はiPhone一つで十分だと思います。iPhoneでの撮影や編集の方法も動画で紹介しています。

—最後に、改めてYouTubeは農家さんにおすすめできますか?

もちろんです。農家さんだけじゃなくて、もうみんなやったらいいと思いますよ。別に特段飛びぬけたことじゃなくてもいいし、「自分はこういうこだわりを持って栽培してるよ」とかでもいいので。

自分で伝えようと思えば、すごく勉強にもなるし、視聴者さんから教わることもある。どの動画の反応がよくてどれが悪いとか、経営戦略的なトレーニングにもなります。営業力じゃないけど、知名度アップにもつながるんで。登録者が伸びたっていうのは結果であって、再生数が少なくても、やっていれば絶対見てくれてる人はいるはずですからね。

⑷

XやInstagramとは違い、やっている農家が少ないYouTube。動画は雰囲気がわかるので、人柄や思いが伝わりやすいそうです。

自分の作る農作物の魅力を伝える勉強にもなり、経営戦略も学べる。副収入も入ってきます。動画のネタは「同じことをやってもOK」。一見敷居が高いようにも思えますが、言われてみると、農家兼YouTuberという生き方は、だいぶアリな気がしました。あなたもYouTubeを始めてみませんか?

取材協力・画像提供

林ぶどう園

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する