競争より協力。農家が発信する「みんなで儲かる農業」の形
生産者同士が教え合わないというのが長く一般的だった日本の農業。そんな中、自身の営農について発信し続けているのが北海道北斗市のネギ農家・岩本裕昭さんです。山形県天童市で『ねぎびとカンパニー』を経営する初代葱師、清水寅さんから栽培技術を学び、収量を増やした岩本さん。「みんなで儲かりたい」という信念のもと、自身が運営するYouTubeチャンネルで清水社長に教わった栽培方法を発信しています。今回は岩本さんと清水社長に、生産者が教え合い、学び合うことの重要性についてお聞きしました。
頼れる人がいないという大きな壁
━━岩本さんは元々異業種で働いていたそうですが。
岩本さん
高校を卒業してから地元を離れ、いろいろな仕事をしながら全国を転々としていました。実家を継いだのが2015年、35歳の時です。
━━清水社長のことを知る前は、どのようにネギを育てていたのですか？
岩本さん
おやじのやり方しか知らなかったです。地域の研修にも参加しましたが新しい収穫はありませんでした。結果的に、収量を伸ばしていくには限界が見えたんですよね。完全に壁にぶつかっていました。
━━そもそも清水社長はなぜ積極的に技術を公開しているのですか？
清水さん
全国には困っている生産者さんがたくさんいます。「今年ダメだったら廃業します」という相談がたくさんきます。この現実をどうにかしたい、一緒に成長したいという気持ちがありますね。
━━そんなに大変な状況なのですね…。
清水さん
ガソリンや資材の値上がりや、土壌の疲弊、人手不足の問題など、昔と比べてネギ栽培で収益を上げていくことが本当に難しくなっています。近くの人が教えてくれたり助けてくれるわけでもありません。だからＳＮＳで情報を発信したり、全国を飛び回ってサポートしています。
初代葱師・清水寅さん。全く無縁の業界から2011年に農家へ転身。就農から3年で『ねぎびとカンパニー株式会社』を設立。20代で７社の社長を歴任した経営手腕を生かし、低迷する農業界を元気にしようと活動している
━━お二人が知り合ったきっかけは何だったのですか？
岩本さん
知り合いから「山形に１本1万円でネギを売っている人がいる」と話を聞いたのがきっかけです。調べるうちにこれまで思いもよらなかった方法で栽培していることを知り、がぜん興味を持ちましたね。
清水さん
栽培技術を伝えるために本当にやらないといけないのはYouTube。それに取り組んでいる個人農家がいると噂で知りました。個人でやっている農家は本当に忙しいので驚きましたし、感動もしました。
清水社長から連絡を取り、つながりができた二人。いまでは岩本さんのYouTube動画に清水社長も出演し、技術共有のため自ら語り、実演をすることも
メリットだらけなのに、教え合わない農業現場の不思議
━━先ほど清水社長の技術講習の様子を見せていただきましたが、あのような場は珍しいのでしょうか？
岩本さん
部会では、生産方針や品種の話はあっても管理機の使い方や土の盛り方のような技術共有までは行いません。そもそも農家同士が教え合うことが稀です。どの地域でも技術を共有し合って全体で伸びた方がいいと思うんです。
取材日に行った技術講習会の様子。様々な年代の農家が５人集まった。清水社長の教え方は「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ…」のスタイル
清水さん
うちの師匠も遠方から農家が相談しに来るくらい実力者として有名なのに、近隣の農家は絶対に聞きにこないね。
岩本さん
みんな遠くで学んできているはずなんですが、持ち帰った知識や技術が地域で広がるというのもあまりない印象です。
清水さん
みんなでレベルアップして地域全体の収量が増えたら、JAから市場への交渉力も上がります。品質が良くなったら市場の取引価格が上がる可能性だってあります。農業って本来はチームプレイですから。
YouTubeは困っている農家を救う情報プラットホーム
━━岩本さんのYouTubeチャンネルは、同じ地域の方も見ているんですか？
岩本さん
言ってこないけど、見ている方は多いと思います。僕が動画で公開しているのは全て清水社長の技術。「教えて欲しい」と直接言えない人にも、YouTubeを通じて知ってほしいなと思っています。
清水さん
YouTubeならこっそり、いつでも何回でも見られるからね。悩んでいる人や困っている人にとって、大きな助けとなるはずです。
岩本さんのYouTubeチャネルのアクセス分析を見ながら盛り上がる二人
━━清水社長の技術でネギを作るようになってから、どのくらいの収量をあげているんですか？
岩本さん
このあたりの平均は2.8ｔ～2.9ｔで、良い時でも3.4ｔくらいですが、平均の倍ほど獲れています。昨年は猛暑で地域全体の収量が下がる中、無事に前年増で終えることができました。
清水さん
「俺もやり方を変えようかな。岩本さんが結果出ているんだもん」と、行動に移す人はやっぱり伸びていますね。
岩本さん
地域で清水社長のやり方が浸透しつつあります。特に定植した後の管理機の使い方！間違いなくこれが肝です。今日の講習の様子も動画にまとめるので、是非見ていただきたいです。
個人からチームへ。情報共有が成長の鍵
━最後に農家へのメッセージをお願いします。
岩本さん
営農に関する情報は、地域によって偏っています。限られた情報の中だけで農業をやってしまうのはもったいないです。だからYouTubeでも何でもいろいろ見てもらって、「自分でもできるかな」と思ったら挑戦してほしいです。うまくいかなかったらDMなりコメントを送って聞けばいいんです。一人で悩んでいるくらいだったらぜひ行動した方がいいと思います。
清水さん
積極的に外に出て、人に会って学んで、レベルアップして欲しいし、教わったことを広めてほしいよね。人に教えると、自分も学べるし。いろいろな知識や技術が掛け合わされると、農業はもっと良くなると思っています。
清水社長は全国の農家ネットワーク『葱出荷組合zero』を設立。生産指導から販売までをトータルサポートするだけでなく、メンバー間で様々な情報交換や交流が行われている。岩本さんもメンバーの一人。
山形と北海道。離れた土地で同じ志を持ちながら日本農業のために奮闘するお二人。「レベルアップしたい」「農業で儲けたい」という思いを実現する鍵は、農家一人ひとりがお互いにつながって技術を教え合い、学び合うことが重要だと認識した取材でした。
二人の考えに共感し、もっと話を聞きたい方はぜひ一度連絡してみることをおすすめします。
（取材協力）
いわもとふぁーむ（北海道北斗市）
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【お問い合わせ】
ねぎびとカンパニー株式会社
〒994-0075
山形県天童市大字蔵増字宮田4389-1
TEL／FAX：023-665-4930
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