自身の経験から設立された農家の悩みを解決する会社
徳島県徳島市でミニチンゲンサイや小松菜、ほうれん草を栽培する株式会社リバーファーム。同社の代表を務める松原さんは創業当初、生産と販路開拓の両立に苦労したと当時を振り返ります。
農協へ出荷せず、直販で野菜を販売していた同社では、自ら営業活動をしなければ販売量は現状維持または減ることはあっても増えていきませんでした。ただ、生産をおろそかにするわけにもいきません。そうなると、休みが取れず、寝る時間すらない毎日だったと言います。また、法人化して5期目のタイミングで1人での限界を感じました。
「代わりに営業代行して販路開拓してくれる会社があったらな」という期待と、後輩には自分が感じてきた苦労はして欲しくないといった思いを持っていた松原さん。
そこで相談したのが、キャベツなど重量野菜を中心に生産する株式会社情熱カンパニー代表の三木義和(みき・よしかず)さん、水耕栽培による葉物野菜を生産する株式会社カネイファーム代表の矢野正英(やの・まさひで)さん、阿波市のブランド野菜を中心に生産する株式会社タケザワ代表の武澤豪(たけざわ・つよし)さんら3人でした。
同年代で年齢も近く、法人化もしている3人。一人一人と話をしてみると、自身と同様に、この先個人だけでやっていくことに限界を感じつつあることが分かったと言います。そこで、各々が地域のリーダーとして取りまとめ、農業の課題に向き合おうと、4人が共同出資して設立したのが株式会社菜々屋でした。
菜々屋が解決する農家や地域の課題
営業代行によって生産に集中できる環境の確保
同社の設立のきっかけとなった生産と販路拡大の両立の難しさ。
従来ならば、自身の作った作物など単一商品で営業を行いますが、菜々屋では、50を超える生産者が菜々屋グループに属しているので、1回の営業で多くの品目を先方に提案することが可能となります。
個人では、品目を多数持っていても量が用意できなかったり、量を持っていても単一商品では営業が難しかったりしますが、チームを組むことで品目数と生産量の両方を確保できます。
また、営業トークの中で先方が必要としている品目を聞き出し、そこに適した商材を提案するので販売までつながりやすいと言います。更に、売買することで信頼関係を築いていくことができるので、他の品目の販売につながることも少なくありません。
営業に掛かる時間も大幅な減少につながっていると言います。従来ならば営業する品目数だけ営業日数が必要でしたが、営業のローテーションを組み、他の生産者の商品も一緒に営業をするので、営業の数は変わらなくとも1人当たりの手間は大きく削減でき、その分を生産に集中することが可能になっていると言います。
「メンバーは『自分のところだけが儲かればいいや』という考え方ではなく、個人だけでは到達できないところにチームを組んでシェアを獲っていこうという考え方の人だけが集まっています。菜っ葉、菜っ葉、1つ屋根の下という意味を込めて名付けた菜々屋の屋号の通りです」(松原さん)
農福連携による人材確保と地域貢献
菜々屋を始めてから営業の次に問題として出てきたのが農業分野での人材不足。
販売量は同社の営業を通して増えていきましたが、生産量が増えず頭打ちになったタイミングがあったと言います。メンバーに聞いてみると「午前中に収穫して午後の出荷作業で手がいっぱい。生産量を増やせない」といった声。これらを解決すべく新たに取り組み始めたのが出荷・梱包作業の農福連携による人材の確保でした。
現在は、「チームリバー」と「チーム情熱」、「チームカネイ」といった福祉事業所を設立し、100人を超える障害者が徳島県内の農業分野で活躍をしていると言います。
チームで指導に入る担当者は各生産法人で農業や農作業に対する知見を養ったメンバーであるため、依頼された作業を理解し細分化することが可能です。細分化の精度が高く障害者に分かりやすく作業を振ることができているので、現場からの好評の声が多いと言います。リバーファームでは、生産だけを行っており、出荷・梱包作業は全てチームの方に委託しているそうです。
菜々屋が取り組む農福連携は生産者だけではありません。地域貢献にも役立っていると言います。
地域課題として徳島県の名産品でもあるすだち。神山町を中心として山間地に多く植えられていますが人材不足で収穫の人手が足りていない現状があります。更に、収穫されず木に残ったものは、完熟しても木から落ちにくいので、残していると次の年の実付に影響が出てしまうと言います。実を収穫量が減れば搾汁工場や選果場も従来通り稼働できません。
こういった問題を解決すべく全農とくしまがコーディネーターとなり、農協から必要な人員数を吸い上げ、同社の福祉事業所と協力しながら問題の解決に取り組んでいると言います。更には、働く姿勢や仕事との相性を働きながら見てもらい、農業法人や農協への一般就労といった部分でも障害者と雇い主の双方を支援しています。現在では、30名を超える人数が一般就労をしているそうです。
現在、農協との取り組みは、すだちの収穫だけにとどまらず、すだちの搾汁工場や選果場、人参の選果場での働き手不足に関しても労働力支援をしていると言います。
生産者のための資金調達
近年、新たに取り組むのが資金調達です。
「事業を運営する上では資金の確保は必要事項となってきます。ただ、飛び込みで行くよりも取引のある菜々屋が仲介で入る方が話を聞いてもらえるので融資の金額も変わります」(松原さん)
現在は、同社の名前で立て替えて借り入れたり、借り入れを菜々屋で持つ代わりに売上高から相殺するといった方法で生産者の資金調達の手伝いをしていると言います。売上規模が伸びてきて法人化を狙える生産者に関しては銀行の紹介も行っているそうです。紹介でもあり、一緒に商談にも参加するので飛び込みよりかは融資の部分でも話がしやすいといったこともあると言います。
野菜を販売する卸会社の一面を持ち、人材の確保や資金調達といったコンサルティングのような一面も持つ菜々屋。設立メンバーはどこを目指し、利益はどういった使い方をしているのでしょうか。
設立メンバーが菜々屋を通して目指す先とは
「菜々屋は利益を求めている会社ではなく、徳島の農業の発展を目指す会社です。そのためにも、売上をしっかり確保し、徳島県産の野菜を売っていく。また、これまでくすぶってきたような生産者や衰退している生産者も巻き込んで、徳島の農業全体で右肩下がりや平行線ではなく、なだらかで良いので右肩上がりに持っていく。どんなに小さいことでも下がっている部分があれば1つ1つ上向きになるように取り組んでいくだけです」(松原さん)
個々の利益のために始まった会社ではない菜々屋。そのため、営業利益は営業経費のほか、地域で需要のある機械を購入するなど、更なる徳島県の農業の発展のために使用されていると言います。最近では新たな挑戦も。
従来通りの山間地でのすだち栽培では市内から距離があること、収穫が斜面で安定しないことから平地の耕作放棄地への植え替えも進めています。空きつつある梨畑で残っている設備を活用した新たな徳島の名産品の創造であるアボカド栽培や電気代高騰によるソーラーシェアリングの検討、また資材高騰におけるグループでの対策への取り組みも開始しました。
これらの徳島農家が抱える課題を解決し、徳島の農業をより強いものにしていきたいといった思いがメンバー全員の共同認識だと言います。
多くの地域で徳島県と同様な課題がある現状です。菜々屋の取り組みは農業現場や生産者の課題、地域の課題を解決する手段になり得ると感じた取材でした。また、農業現場を深く知っている生産者が思いを持って立ち上げたグループであるからこそ、次の世代につながる農業とするためにブレずにここまで来られていると感じました。