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香川、宮崎、福井の3拠点でキャベツを栽培。就農時1ヘクタールだった畑は今や、計100ヘクタール超の大規模農業法人へ

香川、宮崎、福井の3拠点でキャベツを栽培。就農時1ヘクタールだった畑は今や、計100ヘクタール超の大規模農業法人へ

長年にわたって農業経営をしていると、さまざまな課題に直面する。収入が安定しない、物流費の高騰、新しい畑が手に入らない、台風などへのリスクヘッジと枚挙にいとまがない。こうした課題を、栽培拠点を複数持つことで解決している農業法人がある。香川県三豊市に本社を構える株式会社H.A.S.E.だ。

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3拠点でおこなう加工・業務用野菜の生産

香川県三豊市にある株式会社H.A.S.E.。同社は、日本一のキャベツ農家を目指し、メイン品目であるキャベツを中心に、玉レタス、グリーンリーフ、サニーレタスなどの葉物野菜や青ネギ、トウモロコシなど複数の野菜を栽培しています。

中でも主力のキャベツは香川県のほか、宮崎県西都市で20ヘクタール、福井県あわら市で25ヘクタールの自社農場を保有しており、3拠点合わせて約75ヘクタールと国内でも有数の栽培面積を誇ります。

株式会社H.A.S.E.キャベツ畑

加工・業務用向けの契約販売が多く、キャベツの場合は約7割が加工・業務用向け。残り3割を市場に出荷しているといいます。代表の長谷川和也(はせがわ・かずや)さんは「元々、市場向けの比率が多かったのですが、近年の市場相場の乱高下が激しい中で安定的な経営を維持するために加工・業務用向けの割合が多い現在の形に変わっていきました」と話します。

栽培面積を増やすごとに見えてきた農業の課題

長谷川さんは22歳の時、兼業農家だった両親を手伝う形で農業の世界に足を踏み入れました。三豊市は昔からキャベツの産地だったこともあり、両親からは特にキャベツ栽培について教わったといいます。

当時の栽培面積は約1ヘクタール。長谷川さんは専業農家として規模を拡大していこうと、30歳の時に法人化しました。その後は規模拡大を繰り返してきた同社ですが、道中では多くの課題に直面したといいます。

初めに感じた課題は、畑の小ささ。香川県の中でもキャベツ栽培が盛んな三豊市の畑でも、1枚あたりの面積は約10アール。それに比べ、他の産地は50アールがざらで、大きい畑だと数ヘクタールにもなります。加工・業務用向けの場合、どれだけ効率よく栽培できるかが重要となってくる中で、畑が小さく機械化できないのは効率の部分で致命的でした。

三豊市の畑風景

天候に左右されるリスクも無視できません。契約販売をしている以上、天気が悪かったから物がありませんでは済みません。また、企業として雇用を生んでいる以上支払わなければならないお金があります。これらを守るためにも、「農業は天候に左右されるのは致し方ない」で済ませることはできないのです。

もう一つが、運賃です。香川という立地では、必然と国内のメイン消費地である関東や関西、九州に対して距離があるので物流費がかさみます。価格勝負になった時に、物流費が高いことは大きなアドバンテージとなってしまい、販路を広げることも容易ではありません。

更に近年は、2024年問題に伴った物流費の高騰やドライバー不足といった問題もあり、運送業者に依頼さえすれば運んでくれる、というわけではないのが現状です。ドライバーは過度な残業ができないため、遠方に運ぶことができる業者は限られてしまいます。

トラックに積まれたキャベツ

これらの課題を解決すべく、悩んだ末にたどり着いたのが香川以外での農業生産でした。

具体的には、香川よりも畑一枚あたりの面積が広いこと、香川と気候や所在地が大きく違い天候などのリスクが分散できること、四国からは納品しづらい地域であること、といった観点から他産地での生産を模索したといいます。

課題を解決すべく多拠点でのキャベツ栽培に挑戦

他産地での生産を検討していた時に、宮崎県のJAで他県からの農業参入を募集していたことを知りました。そこで応募したところ、希望が通り、2018年より宮崎県西都市で生産が始まったといいます。その後、2021年には農林中央金庫より、福井県あわら市で営んできた農業法人がやめるという話をもらい、買収という形であわら市でのキャベツ栽培が始まりました。

効率良く安定的な供給が可能に

では、多拠点での農業生産はこれまでの課題をどう解決していったのでしょうか。

1枚あたりの畑の面積が西都市では50アールから4ヘクタール、あわら市では全てが50アールとなっており、三豊市では畑が狭く導入の難しかった大型機械の導入が可能となりました。一つ一つの機械が大型化したことで、効率のいいキャベツ栽培が実現できたといいます。

また、生産地が分かれたことで台風などの天候被害に対してもリスク分散をすることができているといいます。

実際、2024年の4月から5月にかけて天候が不安定だったことから、全国的に深刻なキャベツ不足に陥りました。同社の西都市での生産も同様にできが良くなかったのですが、あわら市の秋冬分のキャベツの調子がよかったことから供給を止めることなく販売ができたそうです。

多拠点での生産によって販路も拡大

農業界では野菜を売買する場合、着値といった運送費を元々含んだ金額でやり取りをすることが一般的です。同社では、販路に合わせて近場の運賃の安い農場からの出荷が可能となるので、輸送費などのコストを抑えることができます。

更には、香川県からだと運びづらかった名古屋や静岡といった地域への販売も、あわら市の農場から出荷することで可能になりました。これまでは、香川県の運送業者に断られることが多かった地域(四国から出るトラックはあっても帰りに運ぶ荷物がないため運送業者も片道の運賃のみになるため)でしたが、名古屋や静岡方面には福井県からの輸送便が多いことから、あわら市の農場からの納品が可能になったそうです。

多拠点で見えてくる新たな課題

課題を解決すべく取り組んできた多拠点での生産。しかし、取り組み始めたことで新たに見えてきた課題もあるといいます。

新たな環境での生産技術

20年以上キャベツ栽培をしてきた長谷川さんですが、他産地では土も違えば、天候も違うので、品質の面で納得のいく栽培ができなかったといいます。現在も、農協の普及員や親交のある生産者に相談しながら、安定した品質のキャベツ生産を試行錯誤しているそうです。

また、当面の間は宮崎県と福井県の畑の品質が香川県と同じレベルになるまで加工・業務用向け専用として運用し、品質の安定している香川県のキャベツを市場や量販店といった販路につなげていくといいます。

人材の確保

現在、長年やってきた香川県の農場では全てを任せることのできる人材が育っているので香川県は長谷川さんが居なくてもまわるようになっています。ただ、宮崎県と福井県に関しては現地で採用した人材を育てるため、長谷川さんが住み込みで地域に入って農業を営む必要があるといいます。

また、3年目を迎える福井県では米どころということもあり、キャベツ栽培の時期が水稲の作業の時期と重なるので、野菜の生産をする人材が香川県や宮崎県に比べて集まりづらいといった問題もあるそうです。

<キャプション>福井県あわら市の畑

人間関係の構築

新たな土地での新規就農では必ず通る、地域の人との人間関係の構築。これは、多拠点での農業生産においても必ず必要になるといいます。農協や銀行から紹介してもらえるのは最初の土地だけなので、自力で畑を増やす必要があります。

長谷川さんも地域の集まりなどに積極的に参加するところから始めたといいます。6年目と3年目を迎えるようになってようやく空いた畑の話をもらえるようになってきたそうです。

また、他県に新たに二つほど農場を増やしたいと話す長谷川さんですが、多拠点での農業生産において見た方がいいポイントとして「大きな農業法人がいない地域を選択すべき」といいます。

「いい条件の土地は、既存の農業法人がある場合そちらに流れていく。新規でこういった地域に入って良い土地を譲ってもらえるまでにはかなりの年数と地域貢献が必要となってきます。それならば、元々ライバルが居ない地域を狙うべきです」(長谷川さん)

多拠点での農業生産の次の展開とは

「今後は新たな農場として高冷地での夏場のキャベツ栽培に取り組んでいきたい。通年で供給できることは多くの取引先にとって必要とされていることでもあると思う。あとは、日本一のキャベツ農家を目指しているから、キャベツだけで150ヘクタール作っていく予定です」と長谷川さん。

取材時の長谷川さん

これまでパンクしないように、夏の次への仕込みの時期と秋から春の栽培時期が同じになる地域で農地を探してきた長谷川さん。数年が経過し、3拠点での生産が落ち着いてきたことから、次のステップを見据えているといいます。

狙うは、150ヘクタールにも及ぶ多拠点での一年を通したキャベツ栽培で、日本一のキャベツ農家になること。22歳の時に1ヘクタールから始まり、現在44歳で100倍の100ヘクタールを超えました。日本一のキャベツ農家になる日はそう遠くはありません。

取材協力

株式会社H.A.S.E.

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