肉厚で味が濃い、希少品種を含む色とりどりの品種数、日持ちが良い!3拍子そろった料理人が惚れ込む洋野菜

淀屋橋オドナマルシェのGreenGroove(グリーングルーヴ)の店舗
大阪府和泉市の標高約400mの山中にGreenGrooveのハウスがある。2.5反のハウスで約30種類の洋野菜を栽培しており、この他3反弱のハウスは肥料配合実験や新たな野菜の試験栽培などに活用している。

ヨーロピアンリーフミックス
中島さんは29歳の時、友人からベンチャー企業として水耕栽培の農業をしないかと誘われ、勤めていた電気機器メーカーの会社を辞めて農業の世界へ入った。今まで農業経験は無い中島さんだったが、水耕栽培に未来があると感じたそうだ。栽培方法は指導してくれるものと思っていたが、蓋(ふた)を開けてみると指導者はおらず手探りの日々。何度も失敗を重ねたそうだ。ある時、シェフに洋野菜を日本で作れないかと聞かれたのを機に、イタリアやフレンチレストランが多い大阪なら洋野菜には需要があると考え、ネットで手に入る限りの洋野菜の種を購入したそうだ。その数八十六品目というから驚きである。日本のように品種改良があまりされていない海外の種は野菜本来の力強さがあるという。栽培方法も何度も失敗を重ねながら独自に技術を磨いていった。
地元の野菜を集められます!
農場で栽培している洋野菜は、飲食店の販売が7、8割を占めているが、大阪市内の飲食店への配達は週に一度だけしかしていない。その代わり、淀屋橋の御堂筋沿いで毎週水曜日14時~19時に定期開催される「ほんまもんマルシェ(淀屋橋オドナマルシェ)」に料理人が引き取りに来てくれる。販売している野菜は、自身の野菜だけでなく、近隣農家の野菜も取り扱っており、その種類は百アイテムを超える。全て中島さんがより優った野菜ばかりだ。取材当日は顔ぶれはしろ菜、わさび菜、キャベツ、芽キャベツ、菊菜、ミニトマト、ピーチかぶ、もものすけ(かぶ)、にんじん(イエロー)、にんじん(パープル)、ラディッシュ、カリフラワー(パープル)、スナップえんどう、キクラゲ、アイスプラント、フェンネル、ゆず、レモンなどなど、そして一番人気のGreenGrooveの「ヨーロピアンリーフミックス」だ。
今日はどんな野菜に出会えるのかとワクワクしにやってくるお客さんも多い。
こうした近隣農家の野菜を販売することになったきっかけは、独立前、販売に苦戦していた2010年のことである。新鮮な野菜が不足していた東京でのマルシェ出店だった。このとき、自身が栽培している洋野菜だけでなく近隣農家の野菜を持ち込んだ。東日本大震災の影響で東京では新鮮な野菜を求める人が多く、て大阪の農家から直接運ばれてきた新鮮で生産者の分かる野菜は飛ぶように売れ、リピーターも多く付いた。
このことが契機となり、大阪で開始された都市型マルシェでもより優りの近隣農家の野菜を販売するように。今まで飲食店に少量でも配達していたが、シェフが買い求めに来てくれるようになったのだ。

近隣農家の野菜を販売している淀屋橋オドナマルシェ
中島さんは、2014年に友人から事業を引き継ぎ、GreenGrooveを設立。知名度のアップを図るために和泉市の4Hクラブ(農業青年クラブ)に入り、次第に他の農家とも交流を深めていった。
現在は、2.5反のハウスで約30種類の洋野菜を栽培している。ハウスの中に入ると、通常の水耕栽培のハウスとはちょっと趣が違った。地面の上で水耕栽培が行われていた。栽培システムは全て自作で、地面に近い方が品質の良いものができるという。水は、自作の雨水をプールに貯めたものを使用するなどコスト削減にも取り組んでいる。

自作の雨水を貯めるプール
「1反当たりの売上高は高いと思います」と中島さん。これを実現できた理由の一つに、商品単価が高いことが挙げられる。ヒット商品を作ることで価格決定権を持つことができたことが大きい。1反当たり約1,000万円の売上があるという。売上の9割を占めているのはロシアンケールやスイスチャード、フェンネルなどの珍しいサラダ用の野菜を10種以上使用した「ヨーロピアンリーフミックス」である。最初に生えた葉だけを使用し、肉厚で味が濃い、希少品種を含む色とりどりの品種数、日持ちが良い!の3拍子そろった料理人が惚れ込む洋野菜は、飲食店に好評で安定した顧客が付いている。中島さんは新芽を収穫した後は全て植え替えている。

地面設置の低床栽培ベッド
「ヨーロピアンリーフミックス」の特徴は、肉厚で葉の味が濃い。10種類それぞれの味がしっかり主張している。レストランにとっては盛り付けたとき、少量でも盛り付けが決まる。しかも日持ちも味も良いとくれば、飲食店にとっての利点が多い。だから多くの飲食店のシェフは、1週間のまとめ買いで段ボールいっぱいの量を購入する。ときどき、こういったサラダミックスを購入して、日持ちがしないことにがっかりしたことがあるが、この「ヨーロピアンリーフミックス」は1週間超えても青々とした状態のままである。
コロナ禍で売上げが8割減!
レストランへの納入が当時9割を占めていた中島さんにとって飲食店の営業自粛が続いたコロナ禍はかなりの窮地に追い込まれた。
「あのままやったらたぶん、潰れてた」と中島さん。売上げが8割減という非常事態になった中島さんは今まで配達に行っていなかった大阪市内の飲食店に配達に行き、現状や情報を集めはじめた。自分の野菜を売るだけでなく、地元の野菜を集めるルートを持っている中島さんには、ドライブスルーで買える八百屋への出荷、野菜加工場併設のレストラン、無印良品や百貨店での産直ブースの設置など、さまざまな計画が舞い込んだ。
2020年の夏ごろからは、直売所や百貨店、スーパーなどの売上がかなり伸び、コロナ前の状態に戻ったわけではないが、売上も落ち着いてきたそうだ。
「結局、コロナ禍が落ち着き始めたころには着手した計画は頓挫していったんですが、知り合いもネットワークも広がりました。ただ、この頃から今まで使用していた配合肥料が手に入らなくなってきたんです」と中島さんは当時を振り返る。
「成分が1種類だけ含まれている肥料である単肥は購入できました。今まで使用していた肥料を変えのは怖いことだったんですが、単肥を使いこなして野菜に合わせて肥料の調合ができれば、より良いものにでき、次にステージに行けます。いろんな試験を繰り返して及第点だと思えるようになるには2年ほど掛かりました」
時代のニーズに合わせた無駄のないハウスを考案中
「ヨーロピアンリーフミックス」には、顧客が付いており、生産が追い付いていない状況だという。人件費、資材などの高騰が悩ましく、栽培面積を増やすより、効率を上げるために水耕システムのリニューアルを計画中だ。そこでどんな野菜を育てようとしているのだろうか。
「実家に帰るたびに母親が「ヨーロピアンリーフミックス」は葉っぱが大きいから大きな口を開けないといけないので食べにくいと言うんです。もっと小さいの作ってと言うんですよ」
レストランからも同様の声が聞こえてきた。中島さんは、しっかり肉厚で食べ応えのあるサイズの小さいものを栽培しようと計画中だ。
「結構実験的なハウスを作るつもりなんです。これから作ろうと思っている野菜に特化した面積当たりの売り上げも考えつつ、作業量が減るハウス設計を考えて作ろうと思っています」
中島さんは、時代が要求するものを考えながら常に新しいことに挑戦し続けている。
写真提供 中島光博さん