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「誰も農業を知らない2」著者に聞く【後編】農業の全貌ってのは誰にも分からない

相馬はじめ

ライター:

「誰も農業を知らない2」著者に聞く【後編】農業の全貌ってのは誰にも分からない

日本農業を取り巻く問題や課題を分かりやすく伝える「誰も農業を知らない2」の著者、有坪民雄(ありつぼ・たみお)さんに、農業法人で勤めた経歴を持つ筆者がインタビューしました。後編では農業の情報を集める時の考え方や、農業を始める前の心得などを聞いていきます。生産者はもちろん、新規就農を検討する人にも必見の内容です。前編「プロ農家が語る、日本農業の行く末」はこちら

【プロフィール】

有坪民雄さん プロフィール画像 アイコン

有坪民雄さん(ありつぼ・たみお)

1964年生まれ。兵庫県出身。
香川大学経済学部卒業後、大手コンサルティング企業である株式会社船井総合研究所に入社。7年間の勤務を経て、専業農家へ転身。現在は稲作(山田錦)と和牛飼育(三田牛)をメインに書籍の執筆も手掛ける。

情報は鵜呑みにせず自分で調べて考える

誰もが気軽にさまざまな情報にアクセスできる現代。正しい情報とそうでない情報を見分けることは非常に重要です。
著書「誰も農業を知らない2」(原書房)で「知るべき農業の現実を伝えている」という有坪民雄さんに、引き続き話を聞きました。
有坪民雄さん 写真4
──農業においても多くの情報があふれ交錯する現代、どのようにして情報収集するとよいでしょうか。

世の中にはデマが含まれる情報もあると分かった上で、集めるべきです。提供されている情報が意図せず間違っていることもあるでしょう。ネットの情報はもちろんですが、書籍や知り合いから得た情報であっても、自分なりに調べ直し、正しいかどうか確かめます。このひと手間をかけることで、真偽を見抜く力が養えます。得た情報を自分で調べて正しく理解する習慣があれば、「発達障害の原因はネオニコチノイドである」といったような、根拠のないおかしな話に惑わされることもありません。

──常に自分で調べる姿勢は、聞こえがよい情報や強い主張などに流されない防止策になりますね。他に農業の前提知識として、身につけるべきことはあるでしょうか。

農業に携わるなら、中学・高校で習う生物学と化学を復習しておくとよいでしょう。生物と化学の基礎を理解していれば、よく騒がれるラウンドアップが枯葉剤(※)とはまったく別の薬剤であり、安全性が高いものであると理解できます。
学校の勉強は役に立たないという意見もありますが、私はそんなことはないと思っています。昔勉強していなくても悔いる必要はなく、今が学習する最適のタイミングであると前向きに捉えましょう。学び直しの本や受験用の参考書などを手元において、拾い読みだけでもしてみてください。

※ ベトナム戦争で化学兵器として使われた除草剤のこと。人体にも有害な成分が含まれていた。

農業研修よりも先に自ら実践してみる。シミュレーションも欠かせない

有坪民雄さん 写真5
──農業の現場にいた僕にも刺さるお話です。農作業は数をこなして体で覚えやすい一方、知識や理論については自ら学び直す姿勢が大切ですね。これは農業研修を受ける人も知っておくべきことだと思います。

農業研修も“作業”に関しては一通り身につけられるかもしれません。しかし、独立就農するとなった時に作物が成長する理論や理屈を知らないと、痛い目に合う確率は高まります。研修を受けると農業を分かった気になりやすいので、注意が必要です。
個人的には研修を受ける前に、一度自分で作物を栽培してみるのがいいと思っています。プランターでも庭先でもかまいません。土が手に入る状況であれば、ピーマンを作ってみるのをおすすめします。ピーマンの苗木1本から2〜3キロ収穫できるくらいの栽培技術を身につけられたら、農業に本腰を入れてみてもいいでしょう。

──自分で一から作業工程を築くプロセスも体験できますし、費用をかけずにすむところもメリットですね。実際に就農するとなった場合に押さえておくべきポイントについても聞かせてください。

自己資金は最低でも800万円、できたら2000万円は用意してほしいです。新規就農する若手農家が困るのは大抵お金です。一回失敗しても耐えられるくらいの資金を蓄えておけば、夜逃げすることなく柔軟に方向転換できます。当然ですが、背水の陣のような状態で農業に挑戦するのはかなりリスキーなのでおすすめしません。
そして、資金を蓄えるのと同様、営農のシミュレーションをすることも欠かせません。就農希望者の経営計画書を目にする機会があるのですが、現実的な観点が抜けていることが多く見られます。「どこの産地で何を栽培したら、どれだけ経費がかかってどれくらいの利益が出るのか」と具体的に計画に落とし込むことも、就農前にやるべきです。
補助金や就農準備資金・経営開始資金などを利用する場合であってもそれには手を付けることなく、自己資金で始められるのが理想です。補助金はあくまで保険にしてほしいと思っています。就農にまつわる話は拙著「農業に転職! 就農は「経営計画」で9割決まる」(プレジデント社)で詳しく解説しているので、興味がある人は読んでみてください。

農業の全貌ってのは誰にも分からない

有坪民雄さん 写真6
──農業をする上で、行動を起こすことも大切ですが、その前に自分の状況や考えを整理することも同様に重要ですね。農業に精通している有坪さんでも、すべての実態をつかむのが難しいのが農業なのですよね。

前作「誰も農業を知らない」(原書房)でも述べているとおり、農業の全貌ってのは誰にも分かりません。農業をなりわいにする私自身も当然、そのうちの一人です。それだけ農業は広くて深い。
たとえば、JAをやり玉に挙げる記事についても、実際それを指摘するだけではしょうがないという面もあります。JAも農家のために一生懸命にやってくれていることもあるわけで、良い悪いと白黒つけるのは難しいのです。
また、農業へ携わったことがない方に限って「農業は遅れた産業だ」と主張することもあるわけで。このような意見に惑わされないためにも、多少なりとも本を読んだり勉強したりすることは欠かせません。
日本農業は今も刻々と変わっています。 その実態を知り向き合うことは、日本に住む私たち一人一人の課題であると言えるでしょう。

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