プロセスにこそ意味がある、不耕起栽培の心地よさ
神奈川県茅ヶ崎市の里山で「はちいち農園」を営む衣川晃さんと木綿さん。二人は鎌一本を手に、土を耕さずに野菜を育てる「不耕起栽培」に取り組んでいます。
「この農法のプロセスが好きなんですよ」と晃さんは笑顔で語ります。雑草は根から抜かずに手作業で刈って、そのまま草マルチとして畑に戻す。こうして土中に炭素が土中に固定され、大気中のCO2が抑えられます。同時に生物多様性が守られ豊かな土壌が再生されていくのです。
はちいち農園の農地は約7アール。そのうち2アールは、4年前に地主さんから託され、コミュニティ農園として運営しています。提供するのは野菜そのものではなく育てるプロセス。現在25家族が参加し、共に育てた季節の恵みを分かち合っています。
「自分たちが心地よい方向へ進んでいったら、不耕起栽培になりました」と晃さん。元ミュージシャンとしてパンクロックシーンで活動し、14歳の頃から親しんだサーフィンを通じて自然への畏敬の念を培ってきました。
環境問題や気候変動、動物愛護の思いが深まるにつれて「何を食べて生きていくのか」という問いが沸き起こり、その答えが「野菜」を自分たちの手で育てることでした。きっかけは、知人のおじいさんの畑で体験したサトイモの収穫。熟練ファーマーの姿に憧れた二人は、畑の一角を間借りして家庭菜園からその一歩を踏み出しました。
「畑で採れた季節の野菜だけで日々の食が満たされるんです」と木綿さんは語ります。畑を持続させるため、二人は認定農業者の資格を取得。研修先の有機農家で1980年代の有機農業運動の話を聞き、その思想とパンクの精神に共通点を見出しました。そして、同門の久保寺農園さん(小田原市下曽我)が営む不耕起栽培の畑を見た瞬間、「これだ!」と確信したのでした。
土と生きるファーマーが愛用するワークウェアのあり方
二人が就農時から愛用しているのが、パタゴニアのワークウェアです。ちょうど日本で発売されたタイミングと就農の時期が重なりそのストーリーと共に歩んできました。
「ウェアに機能性がないとパフォーマンスが上がらないんですよ」と晃さん。研修時代に安価な雨合羽でずぶ濡れになり、服が乾かずに風邪を引いた経験から適切なウェアの重要性を痛感。すぐにパタゴニアのショップに駆け込んだといいます。「都内での打ち合わせにそのまま出かけられるデザイン性も実は機能のひとつ」と語ります。特にお気に入りは、ポケットが豊富で鍵や小物がしっかり収納できるベストです。

「ものをサッと取り出せるのでポケットは重宝します」と晃さん

下に着用しているのはパタゴニアのメンズ・ライト・ファリアーズ・シャツ。大きめに作られた襟を立てれば、首元の日焼け対策にも
二人が最も重視するのは耐久性です。「長く使えるタフな服は、結果として環境にもやさしい。同じ服を着倒すので、毎年買い替えるよりも経済的です」と晃さん。木綿さんが着用しているオーバーオール(オールシーズンズ・ヘンプ・キャンバス・ビブ・オーバーオール)は、膝の部分が二枚布になっていて、何度も地面に膝をついてもまったく擦り切れる気配がありません。「すごくハードに使っていますが何年も頑張ってくれています」と木綿さんは愛着を示します。

二枚布になっている膝部分

パタゴニアのウィメンズ・オールシーズンズ・ヘンプ・キャンバス・ビブ・オーバーオール(ショート)は、軽量ながら丈夫で農家の強い味方になっている
「ファッションに強いこだわりがあるわけではないけれど、農家としての理想はかっこつけなくてもかっこいい服です」と晃さん。服についた泥や繕ったステッチ、時間と共に深まる色褪せが、むしろ味わいになっていく。「そんな服を大切に思えるのは大事なことです」と木綿さんが言葉を重ねます。

木綿さんが繕ったステッチ
この日、晃さんは最近愛用しているデニム(ワーク・デニム・ファイブポケット・パンツ)を着用していましたが、長年着てきたシャツとも自然に馴染み、木綿さんの装いとも調和していました。
「心地よくて着ていたら、自然にかっこよく着れていました」と晃さん。パタゴニアのワークウェアには、心のままにただたどり着いた不耕起栽培に通じる価値観が宿っています。耐久性と機能性を兼ね備えた服を、愛着をもって着続けること。それもまた、二人が目指す環境再生型農業の一部なのです。

愛用のワークウェアが手作業の不耕起栽培をより快適かつ創造的にしてくれる

晃さんが着用するメンズ・ワーク・デニム・ファイブポケット・パンツ(ショート)。太ももあたりはゆったりと余裕ある作りとなっており、動きやすさ抜群
耐久性や快適さを追求したパタゴニアのワークウェア
パタゴニアは、地球をより良くするために働く人々に向けて、耐久性と機能性に優れ、時代を超えて使い続けられるワークウェアを製造しています。その一着一着が信頼できる工具のように日々の仕事をより快適で確実なものへと導きます。
その製品づくりには、素材選びの段階から、耐久性と環境負荷の低減を両立する姿勢が貫かれています。温暖な天候下での作業に欠かせない通気性を提供する「オールシーズンズ・ヘンプ・キャンバス」は、産業用ヘンプ、リサイクル・ポリエステル、オーガニック・コットンを絶妙なバランスで混紡した素材。産業用ヘンプは、天然繊維や合成繊維と交織することで強度を増し、優れた通気性、防臭性、耐摩耗性を発揮します。

ウィメンズ・ロングスリーブ・ワーク・ポケット・Tシャツはオールシーズン使えるパタゴニア・ワークウェアの定番製品

暑くなるこれからの季節にぴったりなメンズ・ワーク・ポケット・Tシャツ。産業用ヘンプの魅力を存分に楽しむことができる
ヘンプは環境配慮でも際立っています。他の作物よりも少ない水と肥料で育ち、地中深く根を伸ばして栄養分を吸い上げるため、表土を再生しながら栽培することができます。
「機能性や耐久性に惹かれてパタゴニアのウェアを選びましたが、同社が推進するリジェネラティブ・オーガニック(RO)が、自分たちの農業思想と重なることを知りました」と晃さん。ROは人間と動物がともに歩み、地球環境を健全な状態に回復させるためのシステムです。
耕さない畑の大豆で地球を冷やす「SOYSCREAM!!!」という叫び
「不耕起栽培を楽しむことからもう一歩踏み込んで、環境や未来に主体的にコミットしていきたいという気持ちが芽生えました」と晃さんは新たなビジョンを語ります。それが、不耕起栽培の大豆を原料とした「SOYSCREAM!!!(ソイスクリーム)」プロジェクトです。

プロジェクトのHP
大豆は日本全国で栽培でき保存性にも優れた作物。不耕起栽培で育てた大豆を買い取り、付加価値をつけて販売し、農家を支援するビジネスモデルで、不耕起の畑を増やして地球温暖化を抑制しようという挑戦です。「大豆製品はいろいろありますが、アイスクリームなら大人から子どもまで楽しめて、環境を難しく語らずとも、ポップなメッセージとして伝わります」と晃さんは目を輝かせます。
2022年、DIYで加工所に改装した民家を拠点に、株式会社SOYSCREAM JAPANを設立。晃さんがCEO、木綿さんがブランドマネージャーを務め、晃さんのように豆乳が苦手な人でもおいしく食べられるレシピを開発しました。2025年2月には直営店での販売もスタート。牛乳も卵も使用しないその味わいは驚くほど豊かで、結果的にヴィーガンやベジタリアンにも支持される商品となりました。
「アイスクリーム界のパタゴニアになりたいんです」と晃さんは熱を込めます。この活動に共感し、新たに大豆の不耕起栽培に取り組むファーマーの輪も徐々に広がっています。10年後には世界でムーブメントを起こすことが目標。そんな地球をより良くする挑戦に、パタゴニアのワークウェアが心地よく寄り添い続けています。
取材協力
株式会社SOYSCREAM JAPAN/茅ヶ崎はちいち農園
衣川晃さん 衣川木綿さん
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