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収量5kg。無肥料・無農薬でゼロから始めた、小さな米作り

伊藤七

ライター:

連載企画:ずぼら女子の半農半X

収量5kg。無肥料・無農薬でゼロから始めた、小さな米作り

「畑だけじゃなくて、本当は田んぼもやりたい」「半農半Xの暮らしを本格化させたい」と思い続けて数年。2024年の春、ようやく米作りに着手できました。1aにも満たないほどの小さな土地で、機械は使わずに、無肥料・無農薬で、全て手作業で取り組みました。収穫できたお米は僅か5kgほどでしたが、何とか収穫にたどり着いたのは大きな経験です。本記事では、素人が米作りをする中で何に苦労したのか、何をきちんと学べば良かったのか、振り返ります。

野菜の栽培よりもハードルの高かった米作り

夫が購入したポツンと一軒家系の古民家

大学時代に農業プログラムに参加して以来、「いつか田んぼをやってみたい」「半農半Xには田んぼが欠かせない」と理想を描いてきました。

畑つきの家に住むことで家庭菜園は実現できましたが、田んぼとなるとまた話は別です。水の問題や地域の人との関係性も必要なので、気軽には挑戦できません。除草剤や農薬を一切使わないとなると、なおさらです。

そんな中、夫がポツンと一軒家系の古民家を購入。それに付随して、以前は田んぼだった土地が手に入りました。周りには田んぼが無いので、どんな方法で栽培しても人に迷惑を掛けません。こうして2024年、念願の稲作に取り組むことになりました。

100平方メートルに満たないサイズの田んぼ

田んぼらしくなった土地

田んぼの大きさは1aにも満たない程度でしたが、上手くいけば40~50kg程度の米が獲れる計算です。
「広すぎても管理が大変だろう」ということで、本当に米はできるのか?を実験するつもりでスタート。私達夫婦に加え、友人3人で作業しました。

除草剤・農薬・肥料などの資材を使わないことはもちろん、機械も使用せずに手作業で取り組みました。品種は千葉県の県開発オリジナル品種「粒すけ」、在来種の「朝日」、もち米の「緑米」の3種類。粒すけは近所の農家さんから苗の状態でもらい、朝日と緑米は夫の知人から種籾の状態で譲っていただきました。

いただいた種籾「朝日」「緑米」

いただいた苗「粒すけ」

3品種の栽培スケジュール

「粒すけ」、「朝日」、「緑米」の栽培スケジュールは以下の通りです。
● 土の準備:3~5月
● 田んぼの形ができる:4/13
● 稲の準備:5/6
● 田植え:6/13
● 収穫:粒すけは10/7、朝日・緑米は11/14
朝日や緑米は晩稲の品種です。そのため、我が家の田んぼ活動は一般的なスケジュールよりも1カ月〜1カ月半遅めでした。

そのため、遠方へドライブをする度に「他の田んぼはすっかり出穂しているな」「稲刈りも終わったんだな」と、置いてきぼりの気分になることが多々ありました。朝日や緑米は、栽培難易度や需要の面から、栽培している人はあまり多くないようです。

水や土の準備

我が家の米作りは、水や土を準備することから始まりました。

山から水を引いてくる

私達の場合、家の周辺には農家さんや居住している人が居ません。自由な方法で栽培できる半面、稲作をするための都合の良い水が無いのです。そのため、昔使っていた水源を山の中から探し、水を引っ張ってくるところから始めました。

山の所有者さんから許可を取り、水をいただくことに。水源は田んぼから300mほどの距離。田んぼよりも高い位置から水を引くことで、ポンプ無しで水を運ぶ狙いです。

友人から譲ってもらった塩ビ管と、ホームセンターで購入したポリエチレン管(100mで約2万円)を使用します。

田起こし・畦塗り・代かき

畔を作る友人

平らな土地を田んぼに変える作業を本格的に始めたのは、3月のこと。10年以上前は田んぼとして使われていた土地なので、ぬかるんでいました。田んぼの記憶があるように見えました。

普通の長靴では作業しにくく、体力が持っていかれました。
そこで購入したのが「アトム軽快ソフト先丸」という田植え用の長靴。ぬかるんだ場所でもスイスイと歩けるので、疲労感は段違いです。

快適に作業するための長靴

機械は持っていないので、鍬やスコップで畔を作ります。ぬかるんだ土を運んでは形成し、運んでは形成することを繰り返しました。鍬で内側から畔に圧力を掛けて、境目を滑らかにしていきます。大人4人で6時間ほど掛かったでしょうか。田んぼらしくなったことに感動を覚えました。

田んぼらしくなっていく様子

その後は週1〜隔週で田んぼへ出向き、アメリカンレーキで代かきをしたり、雑草を抜いたり。雑草は田んぼにすき込み、栄養になるよう願いました。

獣よけ

ワイヤーメッシュやネットで田んぼを囲う

田んぼの周辺には、イノシシやシカ、サルが住んでいます。近所の方から「動物対策をしなければ米を食べられるだろう」と言われました。

電気柵を立てるのは難しそうなので、金属の柵を立てることに。

購入したものは、ワイヤーメッシュと結束バンドです。ワイヤーメッシュは、約100平方メートルの田んぼを囲う分で約1.5万円でした。

金属の杭を打ち、ワイヤーメッシュで囲います。ぬかるんだ中での作業は大変でしたが、結果的にほとんど動物に荒らされずに1年を終えることができました。

稲の準備(塩水選・消毒・育苗)

芽を出し始める

稲の準備をします。前年に地域の方から塩水選〜育苗の流れを教えていただいたので、思い出しながらの作業です。

塩水選

海水または2%(水10L当たり塩200g)の水で籾種を選別します。沈んだものを選び、浮いたものは捨てるという作業。実の詰まったものを選びます。

消毒

温度を確認しながら消毒作業

60度のお湯に10分間浸して消毒します。消毒液を使う場合が多いようですが、地域の方から教わった通りにお湯で消毒することに。

使ったものは、鍋、カセットコンロ、温度計、網。友人の子ども(小学校3年生)と一緒に楽しく作業しました。

浸水

芽を出すために浸水させます。目安は、水温が通算100度になるまで。水温が15度なら7日間、水温が12度なら8日間浸水します。

温度を測り続けられる温度計が無かったので、「去年はこれくらい芽が出たところで引き上げたな」という感覚でアバウトに管理することに。

育苗

育苗中

無事に芽が出てきたので、いよいよ土に種を寝かせます。用意したものは、育苗箱2枚、育苗箱用敷紙、稲育苗土。育苗を始めたのは5月です。大きなホームセンターでは既に稲育苗土は売り切れていましたが、近所の小さなホームセンターには在庫がありました。

通常は育苗箱を水を浸したプールに入れたり、ビニールハウスの中で育苗するものですが、自宅にはプールもビニールハウスもありません。頻繁に水を与えながら、普通の野菜のように育てていました。

水や栄養が足りなかったのか、途中で稲の先端が枯れることに。素人が自己流で栽培するのは良くないな、と反省しました。

田植え

田植えにこぎつける

大人4人で手植えをします。掛かった時間は約30分。あっという間に終了です。

日々の管理・除草

出穂したときは感動しました

日々の管理は、水の調整と雑草がメインです。

水の管理

300m先の山からホースをつないで水を引っ張ってきたため、途中で不具合が生じて、水が供給されていないことがありました。田んぼに行けるのは週1回程度だったので、不具合があってもすぐには対応できません。

雑草とり

生えてくるのは背の低い雑草

水を張ってからは、雑草はあまり生えてきませんでした。背の低いクレソンが生えていましたが、稲の生育の邪魔にはならないように感じます。雑草が少ない要因は、日当たりが微妙なことや、水が深かったこと、ぬかるんでいたことなどでしょうか。
前年に地域の方の田んぼに入った時は、もっと雑草や藻が多かった印象なので、田んぼによって個性があるものだなと実感します。

倒れた稲を起こす

倒れてしまった朝日

9~10月ごろの暴風雨で稲が倒れました。倒れたのは、主に朝日です。朝日は背が高いので倒れやすかったり、実が外れやすかったりするため、栽培が難しいようです。
つい「昔からあるナチュラルな品種が良いな」と欲張ってしまいましたが、品種改良されている育てやすい品種のありがたさを実感する機会になりました。
倒れた稲は麻紐で束ねて応急処置をしましたが、結果的には数百グラムしか収穫できませんでした。
品種の問題もありますが、土を乾かす「中干し」の工程が甘く、根の張りが弱かったことも一因のようです。

収穫

手刈りでも収穫可能

粒すけは10月7日、朝日と緑米は11月14日に収穫しました。朝日や緑米の収穫は、一般的な品種よりも遅めです。

収穫には手鎌を使用し、3人で作業しました。収量は、粒すけは5kg程度、朝日と緑米はそれぞれ1kgにも満たない量です。

実は収穫よりも、この後の脱穀〜精米の作業が大変でした。というのも、機械を持っていないからです。手作りの道具を使ったり、友人に機械を借りたりしました。

乾燥機が無いので軒下に稲を吊るす

脱穀

足踏み式の脱穀機

田んぼ仲間が持ってきてくれた機械や道具を使いました。まずは足踏み式の脱穀機。「原始的な見た目だな」と思いましたが、非常に便利な代物でした。実が奇麗に外れる瞬間は快感です。

友人お手製の千歯扱き「ぶっ扱き」

こちらは友人お手製の道具「ぶっ扱(ぶっこき)」。千歯扱きを手作りしたものです。竹の隙間に稲を差し込み、ザザザーっと手前に引いて使います。

友人いわく「食べ物を栽培するのは自給自足の基本だけど、食べれるように加工できないと意味が無いなと思って、道具も自給してみた」とのこと。

廃材を適当なサイズに切って、ネジで固定してフレームを組み立て。竹は竹割機で割ったあと長さをそろえて、電動カンナで幅もそろえて薄くして、紐(ひも)で束ねてフレームに取り付けました。5時間掛けて「千歯扱き」を製作したそうです。

選別

友人が持ってきてくれた米選機

中身の詰まっていないものを飛ばしたり、混入してしまった草を取り除きます。

機械を使わない方法も試行錯誤してみる

扇風機やサーキュレーター、ブロワーの風を使いながら手作業でも取り組んでみました。

時間が掛かる上に、どこまで選別したら良いのか分かりにくいので、手作業で選別するのはおすすめできません。

籾摺り・精米

籾を除去する作業です。コイン精米機で対応可能だったので、コイン精米機を使いました。籾摺りができるコイン精米機は多くありません。千葉では、八千代市と鋸南町に「籾摺りOK」のコイン精米機を見つけました。

初めての米作りの良かった点

可愛く思える米たち

良かった点は、合計5kgとは言え、どの品種の米も収穫できたことです。最低限のやり方は押さえたことと、植物や動物の糞などの栄養が長年蓄積されていたことが要因だと思います。

水を使わせてくれる近所の方、米を分けてくれた方、一緒に作業してくれた友人たち、ことあるごとに気に掛けてくれた農家さんたちのお陰です。

初めての米作りの良くなかった点

良くなかった点は5つあります。

1.稲を枯らした

もう終わりかと思うほど干からびた稲

発芽してから田植えをするまでの間に稲の上部を枯らしてしまいました。理由は恐らく、育苗箱をプールに浸けておかなかったことや、風通しが悪かったことです。

自宅と田んぼが離れていることを理由に、通常の野菜のような扱いで育てていました。置き場所も木の椅子の上だったので、風通しが悪かったと思います。

次回は大きなバケツやビニールシートに水を張り、プールを作ってから育苗したいです。

2.水の供給が不安定

山の水を引いているため、供給が不安定で、意図せずカラカラになる時期がありました。

水の安定的な供給については、改善の余地ありです。

3.中干しをしなかった

「中干し」と呼ばれる工程のやり方やタイミングがいまいち分からず、きちんとした「中干し」をしませんでした。

「水が供給されず、カラカラになったことが中干しのような役割になっているだろう」と決め付けて、きちんと中干しをしなかったのです。

これが「稲が倒れる」というトラブルにもつながります。

4.稲が倒れた

秋の暴風雨で朝日が倒れました。朝日は背が高いので倒れやすく、また籾が外れやすい特徴があります。稲作の知識の浅い素人にとっては難しい品種だったようです。

5.機械が無いことで膨大な時間と人手を要した

機械を持っていないので、収穫した後の作業に時間が掛かりました。普通は機械を使う工程を手作業でしたり、友人を頼ったりしました。

人に機械を借りると品種が混ざるので気を遣います。また、晩稲の品種は一般的な品種に比べると収穫時期がズレており、既に農作業が一段落した人さんから機械を借りるのは申し訳なく思います。

次回からは中古の機械を用意するか、そうでなければ近所の人と品種を合わせて、周りと同じタイミングで収穫し、機械を使わせていただく必要があると感じました。

中古の機械を探してみると、3万円前後で販売されています。たった5kgのために購入するには高額ですが、稲作を本格化させる際には購入しないといけません。

この他、収穫量が少なかった要因としては、大きく下記が考えられます。

● 育苗中に稲を枯らしてしまった
● 日当たりが悪かった
● 品種の問題で難易度が高かった
● 中干しを軽視した
● 水が足りずに干上がってしまった

農家さんからは「日当たりが悪いので、改善した方が良いな」と言われたので、日当たりは改善の優先度が高いのだと認識しています。

まとめ

知識も経験も不足した素人でも、何とか米を収穫することができました。しかし、上手くいった場合の想定収量の1/10程度でした。今年は収量を増やして、米の自給率を上げられたらと思います。

いくら米が高い時代とは言え、「労力を考えると、アルバイトをしてお米を買った方が安い」という結果になりました。しかし「やろうと思えば自分たちで米を作れる」という安心感や充実感はお金には換算できません。

今はまだ半農半Xの暮らしに憧れている段階です。少しずつ暮らしの自給率を高めて、納得感のある暮らしに近付いていければと思います。

参考:土を乾かす「中干し」 | 田んぼの管理と被害対策 | お米ができるまで

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