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農業用のマルチとは? 基礎知識やメリット、種類、サイズ選びを解説

相馬はじめ

ライター:

農業用のマルチとは? 基礎知識やメリット、種類、サイズ選びを解説

畑の前を通る際に、黒いビニールが地面に張ってあるのを見かけたことはないでしょうか。その黒いビニールはマルチシート(通称:マルチ)と呼ばれ、農業では欠かせない資材の一つです。農業でマルチが使われる理由は、作物を雑草から守ることや土の保温・保湿、害虫対策などさまざまです。農業では定番資材となる農業用マルチの基礎知識やメリット・デメリット、種類による特徴の違いなどをお伝えします。

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農業のマルチとは?

農業のマルチとは?

農業用のマルチとは、雑草の防除や土の保温・保湿、病害虫対策などさまざまな効果がある農業資材で、作物の生育サポートや管理の負担を軽減するのに役立ちます

例えば畑にマルチを張ると、作物を植える部分以外は太陽光が遮られます。これにより、雑草の成長を抑えられるので、草取りの労力を減らすことができます。
マルチや張るための機械などのコストがかかるため、経費がかさむことも否めませんが、マルチはそれ以上の効果をもたらしてくれることから、農業界では欠かせない定番資材となっています。
より農業用マルチへの理解を深めるべく、次はメリットとデメリットをお伝えします。

農業でマルチを使うメリット5選

農業でマルチを使うメリット5選

農業でマルチを使う具体的なメリットは、以下の5つです。

作物を雑草から守る

農業でマルチを使う多くの目的は、草取りの手間を減らすことです。
一般的に用いられる黒色マルチは遮光性に優れており、雑草はマルチで覆われると光合成ができず、成長が抑制されます。
腰を痛めやすい草取り作業は、マルチを張るだけで大幅に改善できます。

土を保温・保湿する

土の保温・保湿に役立つ

マルチは土の温度や水分量を保つ役割があります。これにより急激な温度変化にも耐えうる栽培環境に近づけられます。乾燥しやすい畑でもマルチを用いれば土の水分蒸発を抑えられるので、生育を促すことができ収量アップも期待できるでしょう。

雨による土の跳ね返りを防ぐ

雨による土の跳ね返りは、作物への負担や病気になるリスクを高めます。土の中には灰色かび病や疫病、べと病などさまざまな病原菌が潜んでいるからです。マルチを張っていない場合、雨が強く降ると土は跳ね返り作物に付着し、その付着した土を介して、作物に悪影響を与えます。
マルチを張るだけでも作物が病気になるリスクを低減できるので、費用対効果は十分に望めるでしょう。

害虫を寄せつけない

害虫を寄せつけない効果もある

マルチの種類によっては、害虫を寄せつけないメリットもあります。これは白色や銀色のマルチが該当し、光を反射することで害虫を寄せつけない効果を持ちます。効果が期待できる害虫は、アブラムシ、アザミウマ、コナジラミなどです。
白色や銀色のマルチはイチゴやレタス、キュウリなど、さまざまな品目でも用いられています。

太陽熱を利用して土壌消毒ができる

マルチを使えば、太陽熱を利用して畑の土を消毒できます。この方法は「太陽熱消毒」と呼ばれ、透明なマルチを使って、気温が最も高くなる7〜8月に行うのが一般的です。透明マルチで地面を覆い、地温を50℃以上に一週間〜一カ月保つと、青枯病やセンチュウなどの病害虫や、雑草の種子を死滅させる効果が期待できます。
農薬を使わない方法のため、有機農業でも広く取り入れられています。

農業でマルチを使うデメリット

農業でマルチを使うデメリット

マルチは便利な農業資材である一方、次のようなデメリットもあります。

費用がかさむ

農業でマルチを使う場合は、費用がかさみます。種代や肥料代に加え、マルチ代もプラスされるからです。
また、マルチを張るための道具や機械を使用する場合はさらに費用がかかるので、そのことも頭に入れておかなければなりません。
しかし、その後の面倒な草取りから解放され、作物がすくすく育つのをサポートしてくれることを考えれば、十分に元が取れる投資と考えられるでしょう。

張る作業工程が増える

張る作業工程が増える

マルチを活用するには、「マルチ張り」の作業工程が必ず伴います。具体的には畑にラインを引いて、マルチを張るといった作業です。マルチを張る時は、トラクターや管理機で行うことが一般的であり、それを畑に持っていくのもまた手間になります。
そのためスムーズな業務体制の実現には、マルチ張りを想定した作業の段取りを構築することが欠かせません

使用後の処理に手間がかかる

マルチは役目を終えたら、畑から剥がして処分する必要があります。地面からマルチを剥がす作業はなかなかの重労働。そして農業で使われるマルチは産業廃棄物に該当するので、むやみに燃やしたりゴミ置き場に放置したりすることはできません。地域によって決められた処分方法に従う必要があり、費用もかかります。
ただ技術の進歩により、現在は土に還る生分解性のマルチが一般化しているので、処分する手間をかけたくないなら、生分解性マルチを選ぶと良いでしょう。

農業マルチの種類一覧

農業マルチの種類一覧

ここまで農業で使われるマルチの基礎知識からメリット・デメリットをお伝えしました。
マルチにも多様な種類があることにも少し触れてきましたが、改めて現在主流の農業マルチの種類や、それぞれの特徴についても紹介します。

メジャーで安価な「黒色マルチ」

畑で最もよく目にするのが、黒色マルチです。多くの農家や家庭菜園者でも愛用される定番品であり、安く手に入るため、マルチを初めて使う方にもおすすめ
黒色マルチは太陽光を遮断するため、雑草の防除に効果抜群です。面倒な草取りの手間を大幅に減らしてくれます。さらに地温と水分をほどよく保ってくれるので、作物の成長にもプラスに働きます。

高温下で活躍する「白色マルチ」

白色マルチ

真夏の強い日差しは、作物の根にとって大きなストレスになります。そんな時に活躍するのが、表面が白色のマルチです。
白色マルチは、光を反射する性質を利用して夏の畑の温度が上がりすぎるのを防ぎつつ、雑草抑制や保湿といったマルチの基本性能も得られる、夏シーズンの強い味方
なお、商品によっては裏面が黒い「白黒ダブルマルチ」もありますが、必ず白い面を上にして張りましょう。ちなみに白黒ダブルマルチは、防草効果が向上した白色マルチとなっています。

土壌消毒ができる「透明マルチ」

透明マルチは作物の生育を促すほか、土壌消毒にも用いられるマルチです。太陽光を通して地温を上昇させることで、土の中に潜む病原菌や害虫、雑草の種子を駆逐します。
7〜8月の強い日差しを利用すれば、土壌の温度を50℃以上まで高めることが可能です。透明マルチを張ったら、一週間以上はその状態をキープするのが理想です。これにより、連作障害の原因となる病原菌やネコブセンチュウなどの害虫を死滅させることに期待できます。

害虫を寄せつけない「銀色マルチ」

銀色マルチ

キラキラと光る銀色マルチは、光の反射を利用して、アブラムシやアザミウマなどの害虫を寄せ付けにくくする特徴を持ちます。ウイルス病を媒介する害虫対策として、効果は期待大です。
他のマルチに比べて少し値は張りますが、無農薬・減農薬栽培をする方にも頼りやすいアイテムと言えるでしょう。

田植えにも使える「紙マルチ」

紙マルチの特徴は、使用後に剥がす手間なくそのまま土と一緒に耕せることです。水稲栽培でも利用でき、真夏の田んぼのつらい草取りから解放されることが、実現しつつあります。
その効果はこれまでのマルチと同様で、地面を覆って光を遮ることで雑草の成長をしっかり抑えてくれます。除草剤をまく費用や手間を考慮すれば、紙マルチを検討するのも賢明な選択でしょう。

費用をかけずに活用できる自然派「草マルチ」

草マルチ

刈り取った草や稲わら、麦わらは、マルチとしても利用できます。この方法の総称は草マルチと呼ばれ、お金をかけずにできるマルチングです。
草マルチのやり方は、作物の株周りに雑草を敷き詰めるだけです。
ただし種をつけた草や地下茎で増えるスギナやドクダミなど雑草は、かえって逆効果になるので注意してください。
自然を生かした栽培をしてみたい人は、草マルチを活用してみましょう。

農業マルチのサイズと選び方

農業マルチのサイズと選び方

農業用のマルチは豊富な種類があることに加え、サイズもさまざまです。
使うマルチのサイズは栽培する品目や作型、作付などによっても異なるので、選ぶときの目安についてもお伝えします。

幅の決め方

マルチの幅を決めるときの基本は、立てる畝幅よりも広めのサイズを選ぶことです。
畝幅と同じサイズのマルチを買ってしまうと、土で覆う部分が足りず、予定している作付が成立しなくなります。
一般に流通している農業用のマルチ幅は95センチから135センチ、150センチ、180センチ、などさまざま。
例えば95センチ幅のマルチを使うなら、立てる畝幅は50〜60センチ辺りが適切でしょう。
マルチのサイズを選ぶ際は、栽培する品目や作型の畝に適した幅に合わせることが重要です。

長さの目安

長さの目安

マルチは長さも多種多様です。
短いものでは10メートルから始まり、50メートル、100メートル、200メートルと長いものまであります。
庭先での家庭菜園や貸し農園なら10メートルもあれば十分足りますが、農家は100メートル単位のマルチを使うことが一般的です。
マルチの長さは、自分の栽培規模に合わせて選びましょう

厚みの選び方

マルチは商品によっても厚みがそれぞれ異なります。
薄いものでは0.01ミリから厚いものでは0.07ミリまであるので、使用目的やコストなどに合わせて柔軟な選択が可能です。
マルチを用いて作物を育てるなら、厚み0.015〜0.03ミリの範囲で選べば問題ないでしょう。期待している防草効果や土の保湿など、十分にその恩恵を受けられます。

農業マルチの張り方

農業マルチの張り方

マルチの張り方は農家によっても異なりますが、ここでは露地栽培にて行われるマルチの張り方を紹介します。
マルチを張るときのおおまかな流れは、以下のとおりです。

①畑にラインを引く

マルチを畑に張るときは、まっすぐ、かつ等間隔に張っていくことが大切です。見た目だけでなく、植え付けや管理作業の効率を左右するからです。
そのためマルチを張る前には、基準となるライン引きから始まります。
準備する道具は、2本の杭とヒモ。おおまかな流れは次のとおりです。

  1. スタート地点に1本目の杭を打つ
  2. ゴール地点に2本目の杭を打つ
  3. 1本目の杭にヒモを結び、ピンと張って2本目の杭に結ぶ
  4. ヒモの上を歩いてラインを付ける

スタート地点に1本目の杭を打つ
ゴール地点に2本目の杭を打つ
1本目の杭にヒモを結び、ピンと張って2本目の杭に結ぶ
ヒモの上を歩いてラインを付ける

また上記以外にも線引き器を使って歩きながらラインを引く方法や、マルチ張り機を使いながらラインを引く方法などもあります。

②マルチ張り機を使って張る

マルチ張り機を使って張る

次は畑に引いたラインを目印に、マルチ張り機を使ってマルチを張ります。
マルチ張り機を畝のスタート地点に設置したら、機械にマルチをセットして作業開始です。
マルチ張り機の多くは、後ろ向きに進みます。畑に付けたラインを目視しながら、曲がらないようにまっすぐ張っていきます
ちなみにマルチを張るタイミングは、畑の土が乾燥しすぎたり湿りすぎたりしていない時が理想です。

③スコップで土をかける

マルチを張った後は、スコップを使って土をかけていきます。重しとしての役割です。
マルチの上に土をかけないと風に飛ばされやすくなるので、この一手間が大切。
土をかけるときはなるべく等間隔にかけることを意識します。また、かける土が多すぎるとそこからも草が生えるので、かけすぎないこともポイントです。

農業マルチのまとめ

農業で使われるマルチは、作物の安定した生産に大きく寄与する重要な資材です。
マルチの種類によっても、それぞれが持つ効果は異なります。マルチを使う場合は自分の目的にあった種類を選び、費用などをシミュレーションした上で活用するのが良いでしょう。
マルチは作物の成長をサポートするだけでなく、栽培管理を容易にしてくれる頼れる農業資材です。

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