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米流通の専門家が断言。「8月には5キロの価格が3000円」、「2025年産米も必ず値下がりする」

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米流通の専門家が断言。「8月には5キロの価格が3000円」、「2025年産米も必ず値下がりする」

農水省が発表している米のスーパーでの小売価格(全国POSデータ:2025年6月23日掲載)によると、本稿を執筆する6月26日時点での米価は前週から256円下がったものの、3,920円/5Kgと依然高水準。これは前年同月比で1,772円増(78.4%増)である。このほか、備蓄米の放出やMA米(SBS米)の前倒し放出の発表、概算金の廃止が議論されるなど、米を巡る情勢は日々刻々と変化している。2024年産米のこれからと、2025年産米が出てきた後の米価はどうなって行くのだろうか?米流通の専門家でフリージャーナリスト・熊野孝文(くまの・たかふみ)さんに、見通しを聞いた。

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暴騰していた米価が遂に下がり始めた!

農水省「スーパーでの販売数量・価格の推移(KSP-POSデータ全国)(令和7年6月23日)」より転載。

2023年夏、スーパーの棚から米が消えた。以降も米価は徐々に上昇を始め、それから約2年が経とうとする2025年6月下旬のスーパーでの店頭価格は4000円弱となっている。

2025年5月上旬の4,285円を境に、遂に米価が下がり始めた。銘柄米(緑の折れ線)も下落しているが、主には競争入札の備蓄米と、随意契約の備蓄米が店頭に並んだことが効いてきている。

一方、米生産者が気になるのは、銘柄米の米価に違いない。多くの米生産者は、現在の米価が妥当だとは考えていないように思う。筆者の知る米生産者の声を総合すると「さすがに今の米価は高すぎるし、値上がりが急過ぎた」、「生産費の上昇に見合う程度には上がって欲しいが、現在の価格は消費者に納得して貰えない」、「私達はこれからも米を生産し続けるのだから、安心して作り続けられる環境にして欲しい」との意見が多くを占める。現在のような米価の暴騰と不透明な先行きにも、不満・不安を抱いている米生産者が多いのだ。

「7月から米価が下がる」と言い切る理由

未曾有の高米価はこれから、どうなって行くのだろう? 教えてくれたのは、米専門紙の記者を経て米専門のフリージャーナリストとして米流通の現場を40年以上にわたって取材を続けてきた熊野孝文(くまの・たかふみ)さん。著作に『ブランド米開発競争―美味いコメ作りの舞台裏』(中央公論新社)などがある、この道の専門家だ。

2025年(令和7年)産米が市場に出てくる2025年秋頃までの米価の動向についてうかがうと、熊野さんは舌鋒鋭く断言した。

「必ず下がる、と見ています。というのも、既にスポット市場において、銘柄米の価格が暴落と言っていい状態にあります。一部のメディアでは、スポット市場は小規模だから米価全体には影響しない、と報道していますが、それは誤りです。米価に関心を持っている人は必ずスポット価格をウォッチしていますし、スポット市場は米価全体に影響を与えるだけの規模をもっています。スポット市場に出てくるのは、実需との契約が済んでいない米ですが、これまで絶対量が不足していました。だからスポット取引価格が50,000円/5kg(玄米)なんていう高値をつけていました」

日本農産市場の直近(2025年6月25日現在)の動向を確認してみたところ、銘柄米は3万円台前半で取引されており、同社東北支社の「ズルズルと値を下げており底が見えない状況」というコメントが、ホームページに記載されていた。

ここで熊野さんは、米価が上がった背景について話を進めた。

「令和5年(2023年)産米が猛暑の影響により白濁米が多かったとか、ふるいの網目の大きさの問題により精米した際に量が減ってしまったことなどが、まことしやかに言われています。また、新規買取業者が劇的に多く参入した、消費者への直販が増えた、インバウンドの影響などとも言われていますが、いずれも見当違い。単純に、米が足りていなかったのです。民間在庫量を見れば、米が足りていなかったことが、誰にでも分かりますよ」


農水省が公開している資料「米をめぐる状況について(令和7年5月)」に、6月末在庫の推移が掲載されている。それを見ると、2024年6月末、2025年6月末(見通し)は、他の年と比較して民間在庫量が極めて少ないことが分かる。

「JAや卸は売先と年間契約を交わしている場合が多いですから、米が足りなければ出荷を絞らざるを得ません。すると、米が欲しい人は沢山いるわけですから、当然米価は上がっていきます。売り先との契約を履行しようにも、十分に米を集荷できなかった業者は、スポット市場で米を集めようとします。米の絶対量が足りていないわけですから、高値でも取引が成立したという構図です」


そこに突然、備蓄米が大量に放出されたことで量が足りるようになり、これまでのような高値がつかなくなっていったと、熊野さんは言葉を続ける。「これによって、銘柄米のスポット取引価格が暴落しているというのが現状。“悪貨が良貨を駆逐する”ではありませんが、現在のスポット市場を見る限り、米価は近い将来必ず安くなる、と断言できます。スポット取引価格は1万円以上も暴落しているのですから」

なお、熊野さんによると、今小売店の店頭に並んでいるのは、当然のことながら過去に値決めされたもの。現在のスポット取引価格が小売価格に反映されるには、早くても2週間くらいかかるという。つまり「7月には米が値下がりする」ということだ。


熊野さんは2025年産米が出てくるまでの見通しについて、以下のように展望した。

「小売店では、店頭で売れ行きが悪いと、基本的には値下げします。ご存じの通り、精米した米は長期保存には向かないため、売り切る必要があるからです。卸に戻す場合もあり、それらは業務用として売られて行きますが、それには手間もコストも掛かる。だから一般的には値下げする、という選択がされるのです。このため、結論を言えば、7月には店頭価格の値下がりが本格化し、8月になると全体の米価は3,000円を切る可能性すらあります」

米流通の裏話。備蓄米の影響は

熊野さんによると、スポット取引では玄米価格が1万円以上も下がっているという。現に、直近(2025年6月下旬)で熊野さんが取材したスポット取引の現場では、3万円で売りに出た銘柄米に買い手がつかなかったという。

「考えられない状況です。少し前まで4万円を越えていた銘柄米ですよ。3万円でも買い手がつかないということは、今後もっと下がるということ。米業者は民間在庫量が不足していることを把握して、それに備えていたところに、突如備蓄米が90万tも売却されることになったのですから、それは市場がおかしくもなります」

また熊野さんは、米価が下がるであろう別の要因として、輸入米の存在もあげた。商社が関税を払って輸入したカルロースなどの外国産米が今、滞留しているのだという。

「これまでは、カルロースなどを関税を払って輸入しても、小売で3,000円/5kgで売れていました。商社は契約が取れたから輸入したのに、備蓄米が出てきたことで、小売側からのキャンセルが相次いで困っているのです。こうした輸入米が今後、大幅に値下げされるのは確実でしょう」

熊野さんの話を聞いて、筆者は衝撃を受けた。これまでの農水省の発表を読んだ限り、筆者は、備蓄米が放出されたことで民間在庫量が適切になり、需要と供給のバランスがとれた。だから2025年度米が出てくる前の7月と8月の小売価格は、備蓄米は安価に販売され、銘柄米はその影響で漸減する程度。二極化するものと考えていた。ところが米流通の現場では、まったく違う肌感覚なのだ。

2025年産米は9月以降2,000円台/5kgになる可能性あり!

「2025年7月から米価が下がる」という話の次こそが本丸。特に米生産者にとって気になるのは、2025年(令和7年)産米の価格動向だろう。

状況を整理しておこう。もう備蓄米はなくなった。また熊野さんの説明を聞く限り、商社などが関税を払って輸入米を入れることは、2025年産米の作況がよほど悪くない限り、考えにくい。価格を下押しする要因として残るのは、小泉農水大臣が進めているSBS米の前倒しで、9月の3万tを皮切りに、合計10万tが入ってくる見通しだ。どのくらいの早さで店頭に並ぶかによるが、これが新米が出る時期の全体の米価を抑える可能性がある。

一方、多くの産地では、2025年産米の概算金を、過去最高に設定している模様である。2024年産米の集荷で苦戦したことから、前年比2~3割増に概算金を設定したうえで、最低保証までつけているJAもあるようだ。

概算金は集荷業者から見れば、仕入れ値にあたる。仕入れ値が高ければ自ずと相対取引価格も高くなり、それに連れて小売価格も高くなる。作況が平年並みであるならば、2025年産米の小売価格は下がらない。筆者は、そう考えている。ところが、熊野さんの答えは全く違った。

「これまでは確かに、概算金が一つの指標となっていました。しかし2025年産米からは、そうならないのではないか、と私は考えています。現在、JA系統の集荷シェアは1/3を切っており、もう米価をコントロールする力がなくなってきていると見ています。これまでは大手商社と全農とが通年契約をしていましたが、2025年産米からは大手商社が単位農協との直接契約を進めています。2024年産米の集荷にあたって、例えばとあるディスカウントストアは、自力で集荷業者を組織して、米を集めました。これに負けじと、商社なども必死になって米を集めているのです」

集荷競争になるならば、新米の米価は維持されるのではないか? 

「そうはならない、というのが私の考えです。平年並みに採れるという前提のもとに予想しますと、2025年産米は、スポット取引価格で言えば、少なくとも3万円台。2万円台になることもあり得るでしょう。新米の取引会は例年、千葉で8月に開催されるのですが、その新米の価格です。小売価格で言えば、出始めこそ3,000円台/5kg後半になるものの、本格的に新米が出回り始める9月以降には2,000円台/5kgまで下がると予想しています。ただし、新米が暴落したら小泉農相が政府買い入れを実施する可能性もあるので、その判断により変わって来るとは思います」

2025年産米が平年並みにできれば、民間在庫量は適正に保たれる。むしろSBS米の前倒し放出を含めれば、ダブつく状況すらあり得る。またJAの影響を受けない商系に直接大量の米が流れることから、米価は概算金に左右されず、市場メカニズムに沿って下落基調となる。これが熊野さんの読みだ。

この辺りの、米の価格がどうやって決まるのか、現在の米市場の問題点や、熊野さんが考える米市場の正しい姿については次回お届けしたい。

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