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大自然に潜む敵!マダニがもたらす感染症とその対策

伊藤七

ライター:

大自然に潜む敵!マダニがもたらす感染症とその対策

農作業や草刈り、山仕事などを日常的に行う方にとって、マダニの存在は決して無視できません。草むらや山中で作業していると、気づかないうちに衣服や皮膚にマダニが付着していることがあります。
「咬まれると危ないらしい」と聞いたことはあっても、具体的にどのような危険があるのか、どのように対処すればよいのかを知らない方もいらっしゃると思います。
この記事では、マダニの基本的な生態から感染症のリスク、咬まれたときの正しい対処法、農業の現場でできる実践的な対策まで、幅広く解説していきます。
屋外での活動が活発になるこの時期に改めてマダニの危険性について把握しておきましょう。

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■監修者プロフィール

遠藤夏日さん。2020年より有害鳥獣駆除に従事。イノシシを中心に年間約100頭の有害鳥獣を捕獲している。近年は、捕獲個体の肉・骨・皮の資源活用にも取り組み、命を無駄にしない持続可能な活動を目指している。

マダニとはどんな生物か?

マダニは山や草むらに生息し、動物の血を吸う生き物です。咬まれた際のかゆみや痛みは大きな問題にはなりませんが、死に至る可能性のある感染症を引き起こす点で警戒が必要です。

マダニの基本的な特徴と生態

マダニは8本の足を持ち、主に吸血によって成長していきます。肉眼でも確認でき、成長したダニは3~4mmほどの大きさです。吸血後は1cm以上に膨れ上がるため目につきやすく、「皮膚に黒いできものがあると思ったらマダニだった」という話はよく聞かれます。
動物や人の体温、呼気の二酸化炭素などに反応して近づいてくることがあるため、農作業の際には警戒が必要です。

マダニと一般的なダニの違い

マダニは、家庭にいるような小さなダニとはまったくの別物です。室内ダニはアレルゲンの原因となりますが、マダニはウイルスや細菌を媒介するという意味で、より深刻な健康被害をもたらします。

咬まれた際の痛みはほとんどありませんが、皮膚に深く口器(あご)を差し込んで吸血するため、簡単には取れないという厄介さがあります。

マダニの生息地と活動時期

マダニは、山林や草むら、畑の周囲、放棄地など、草が生い茂る場所に潜んでおり、特にシカやイノシシなどの生息エリアにはよく出てきます。とがった葉の先端などに潜み、通りかかった動物や人間に付着します。

活動が活発になるのは、春〜秋にかけての暖かい季節。特に4〜9月は繁殖も進み、個体数が増える傾向があります。秋冬でも完全にいなくなるわけではなく、温暖化の影響で冬場も見られる地域も出てきています。

どのようにして、人に寄生するのか

草むらで作業していると、靴や衣類にマダニが付着します。裾や首元などが開いていると、そこから侵入して皮膚に直接咬みつきます。
人間よりも背の高い植物が生い茂る場所で活動する場合は、マダニが上から降ってくる可能性もあります。足元だけでなく、全身にマダニが付着している可能性があるのです。
吸着する場所としては、足首やひざ下よりも、太ももや腰回りなどの柔らかくて血管の多い部分を狙って吸血するのが特徴です。

遠藤さんの奥さんは、旦那さんの衣服に付着していたマダニがいつの間にか身体に付着し、太ももの内側を咬まれたようです。
筆者の私自身も草むらに入ったあとにシャワーを浴びると、お腹を咬まれていることに気づいたことがあります。
よく、マダニには「露出している場所よりも柔らかい場所の方が刺されやすい」といいますが、こうした経験談からも明らかでしょう。

知らないと危険!マダニが媒介する感染症

マダニが警戒される大きな理由は、人間にとって有害な感染症を引き起こすためです。SFTS(重症熱性血小板減少症候群)や日本紅斑熱が代表的な例で、死に至る可能性もあることから情報を把握しておかなければなりません。

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)

SFTSとは「重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)」の略で、マダニが媒介するウイルス感染症の一つです。
日本では2013年に初の患者が報告され、主に西日本を中心とした地域で感染例が多く見られます。

症状

感染から数日後、発熱や嘔吐、下痢、食欲不振といった症状が現れます。頭痛や筋肉痛、意識障害が起きることもあり、体調の急変には十分注意しなければなりません。

潜伏期間

潜伏期間は6日から14日程度とされており、感染から症状が出るまでにやや時間があります。この間は自覚症状がなく、健康に見えることから、発症まで気づきにくい傾向があります。
特にマダニが出るような屋外で活動した場合は、体調の変化を意識的に観察し、異変があれば早めに受診することが大切です。

重症化の可能性

SFTSの致死率は高く、国内では10〜30%前後と報告されています。特に高齢者や基礎疾患のある方は重症化のリスクが大きく、命に関わることもあるため、感染予防が何より重要です。
現在、SFTSに対する特効薬やワクチンは存在しておらず、対症療法が中心となります。そのため、特にリスクの高い方はマダニに咬まれないための予防行動が大切です。

日本紅斑熱

日本紅斑熱はマダニが媒介する感染症で、西日本を中心に一定数の患者が報告されています。
感染源となるのは「日本紅斑熱リケッチア」と呼ばれる病原体で、マダニが保有している場合、吸血によって人に感染が広がります。
早期に診断され、適切な治療が施されれば回復が見込まれる病気ですが、重症化すると命に関わることもあります。

症状

日本紅斑熱の主な症状は、高熱と全身に広がる発疹、そして頭痛です。咬まれた箇所には「刺し口」と呼ばれる黒いかさぶたのような痕が見られるのが特徴です。
発熱や発疹が目立つため、風邪との違いに気づきやすいものの、咬まれたことに気づかない場合は診断が遅れることもあります。

潜伏期間

潜伏期間は2日から8日程度とされており、比較的短いスパンで発症します。マダニに咬まれた記憶がある人は、1週間ほどは体調の変化に注意を払いましょう。
早めに医療機関を受診し、適切な抗菌薬による治療を受けることで、重症化を防ぐことができます。

重症化の可能性

日本紅斑熱の致死率は、適切な治療を行えばそう高いものではありません。とはいえ、高齢者や持病のある方では重篤な合併症を引き起こす恐れがあるため、安心はできません。
何よりも重要なのは、早期発見・早期治療です。発疹や高熱が続くときは、迷わず医療機関に相談してください。

マダニに咬まれたら?正しい対処法

マダニに咬まれたことに気づいたら、皮膚科などの専門機関で除去してもらうことが基本です。自己処理をすると、かえって状態を悪化させることがあります。よほど慣れている方以外は自己処理せずに病院へ行くことをおすすめします。

絶対にやってはいけないのは無理に引き剥がすこと

マダニに咬まれた際、つい指で取ろうとしたり、爪で引きはがそうとしたりしてしまう方がいます。しかし、これが最もやってはいけない行為です。
マダニの口器が体内に残ってしまい、化膿したり、体液が逆流して感染症に罹患したりするリスクが上がってしまうからです。
マダニに咬まれると焦るかもしれませんが、落ち着いて病院で診てもらいましょう。

受診の目安と経過観察

咬まれた直後には特に変化がなくても、時間が経ってから体調に異変が現れる場合があります。咬まれてから数日間は体温や咬まれた部分の腫れ、赤みの様子などをチェックしておくとよいでしょう。
病院に行った際は「マダニに咬まれた」「マダニに咬まれた可能性がある」と伝えましょう。すべての医師がマダニ関連の感染症に詳しいわけではありませんが、申告することで適切な処置につながります。

咬まれた後の注意点

可能であれば、マダニ本体を保存しておくと、種類の特定に役立ちます。ガーゼに包む、チャック袋に入れて冷蔵庫で保管するなどして、受診時に医師へ見せてください。
また、日記のように体調の変化を記録しておくと、症状の把握や経過の説明に役立ちます。

農業現場でできるマダニ対策

マダニ対策には、服装の工夫と虫よけ剤の活用が効果的です。適切に工夫することにより、マダニに咬まれる可能性を下げることが可能です。

また、山や草むらから帰ったあとは屋内にマダニを持ち込ませないよう気を付けたり、ペットを介して被害に遭わないようにしたり、さまざまな部分に気を配らなければなりません。

マダニが付着しにくい服装と装備を徹底する

マダニ対策の基本は「寄せ付けない・入り込ませない」服装。具体的には、下記の対策が効果的です。

● 上着やズボンは明るい色にして、付着を発見しやすくする
● ズボンの裾は靴の中に入れ、シャツもズボンに入れるなど、隙間をなくす
● 素材はナイロン系などのツルツルしたものを選び、マダニが登りにくいようにする
● 首元や手首、足首などの露出部分はタオルや手袋で覆うようにする
● フードの中にマダニがいないか確認する
● マダニが付着していないかチェックするときは、二人以上で行う

いくら気を付けても刺される可能性はありますが、被害を最小限にするための努力は不可欠です。

効果的な虫よけ剤を活用する

服装による対策が基本ですが、虫よけ剤も補助的に活用することをおすすめします。
市販の虫よけ剤のなかでも、「ディート」「イカリジン」が含まれた製品が効果的です。
ディートは30%濃度のもの、イカリジンは15%濃度のものが高い忌避効果を示します。しかし、肌が弱い方や小さなお子様には使えないものもあるので、説明書をきちんと確認しましょう。
虫よけスプレーは作業前に衣服と肌の両方にしっかり吹きかけ、数時間おきにこまめに塗り直すのが理想的です。

山から帰宅したあとは家の中にマダニを入れない工夫を

帰宅後は、衣類を玄関先で軽くはたいてから屋内に入るようにしましょう。「ビニール袋に衣類を入れ、しばらく観察していたら、口の方に向かってマダニが這い上がってきた」という話もあります。マダニが酸素のある方に向かってくるのでしょう。
マダニ対策を徹底したい方は、いったん服をビニール袋の中に入れてみると安心かもしれません。
また、別の洗濯機で洗うなど、日常にマダニを持ち込まないための工夫も大切です。古い洗濯機を屋外に設置して農作業専用の洗濯機にしたり、二層式洗濯機を使ったりしている方もいます。

帰宅後はすぐに入浴する

入浴することで身体をよくチェックできます。シャワーを浴びる際にマダニに咬まれていることに気づく人も多いので、帰宅後はできるだけすぐに入浴し、マダニのチェックをしましょう。

マダニは手や足など分かりやすいところだけでなく、太ももの内側やお腹を咬んでいる場合もあります。身体を綺麗にしながらマダニをチェックして、早期発見に努めましょう。

犬・猫などペットを通じた感染に気を付ける

ペットに付着したマダニが人に移るケースもあります。散歩や屋外活動から帰宅したら、犬や猫の全身をチェックする習慣を持ちましょう。
動物用のマダニ忌避薬やスポットタイプの薬剤を活用することで、予防効果が期待できます。

マダニが増えている?被害の現状と背景

環境省の報告などによると、SFTSの患者数は年々増加傾向にあり、実際の致死率は27%です。特に西日本で多く見られ、地域性があることが分かります。
SFTSの患者が増加している背景には、温暖化による活動期間の拡大や、放棄地・里山の管理不足、野生動物の増加などが影響していると考えられています。

地域での対策と情報共有

地域単位での草刈りや草地管理は、マダニの生息地を減らすために有効です。また、保健所や市町村が発信する感染情報や注意喚起をこまめに確認し、被害の「見える化」に協力することも大切です。

個人としてできる備え

野外活動を行うときは、常に予防を意識することが第一です。それでも咬まれてしまった場合は、焦らず正しい対処法を思い出し、落ち着いて対応するようにしましょう。

おわりに

マダニに咬まれると感染症を引き起こす可能性があるため、「ただの虫刺され」ととらえてはいけません。農業や林業、登山など自然と触れ合う機会が多い人にとっては、日常に潜むリスクといえるでしょう。
しかし、正しい知識と装備、日々の予防策を身につけることで、被害を大幅に減らすことが可能です。今後も気候や環境の変化によって、マダニ被害は変動していくと考えられます。
常に最新の情報を得ながら、自分と家族、仲間の安全を守りながら活動していきましょう。

参考

厚生労働省 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について

日本紅斑熱について
ダニ媒介感染症
東京都健康安全研究センター
国立感染症研究所 SFTSの最新の状況について

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