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【令和7年度】農村プロデューサー養成講座 入門コース 第1回 地域づくり総論 講師:明治大学 農学部 教授 小田切 徳美 氏 |
農村プロデューサーとは?期待される機能
農村プロデューサーとは、地域の希望実現をサポートする人材です。期待される機能としては、地域に消えない火をともす「着火型」、地域に寄り添う「伴走型」、解決策を探る「解放探求型」、ネットワークを活かす「ハブ型」があり、この4つを兼ね備えた方を農村プロデューサーと呼んでいます。
現代の農村は、人の空洞化・土地(利用)の空洞化・ムラの空洞化という「3つの空洞化」が覆っていますが、その根底にはより深刻な「誇りの空洞化」が存在します。これは、住民が地域に住み続ける意味や意義を見失い、“あきらめ”の感情が地域で起こってしまっていることです。農村問題には、住民の意識が関係してその理解と対応が農村プロデュースには重要です。人々の心に再び火を灯し、誇りを再構築する「着火型」のアプローチが、これからの地域づくりにおいて重要となっています。

そもそも地域づくりとは?地域づくりの3つの本質
私たちが向き合う「地域づくり」とは、一体何なのでしょうか。それは、人口が減少するという現実を前提とした「持続的低密度居住地域の創造」に他なりません。人口が減るから消滅するというのではなく、人口密度が低くても、次の世代が豊かに暮らし続けられる新しい社会の仕組みを、そこに住む人々が主体となって創り出すこと。その原則として、「内発性」「多様性」「革新性」が重要であることが、各地の取り組みから明らかになっています。
これをより具体的に体系化したものが「人材」「コミュニティ」「仕事」の三本柱です。人材を育て、コミュニティを育み、仕事をつくる。この3つが好循環を生み出しながら一体的に進められていくことこそが、地域づくりの本質です。
地域づくりの実践的ポイント
約30年にわたる地域づくりの実践と研究から、その成功には5つの重要なポイントがあることが分かってきました。それは①新しい内発的発展、②関係人口、③地域内経済循環、④多業型経済、そして⑤プロセス重視です。中でも特に重要なのが「新しい内発的発展」「関係人口」「プロセス重視」の3つです。

新しい内発的発展と「関係人口」
まず「新しい内発的発展」とは、地域が内に閉じるのではなく、外部との積極的な交流をエネルギーに変えていく考え方です。外から来る人々が、地域住民が見過ごしていた資源の価値を”鏡”のように映し出す「交流の鏡効果」によって、内側から新たな活力が生まれます。
この重要な外部の力となるのが「関係人口」です。彼らは移住者でも観光客でもない、都市などに住みながら地域と継続的に関わる人々を指します。その背景には、SNSの発展や若者のライフスタイルの多様化や、地域との関係性自体に価値を見出す「関わり価値」という新しい価値観の登場があります。
しかし、関係人口を単に呼び込むだけでは「お客様」のままで、地域に深く溶け込むことはありません。彼らが真の協力者となるためには、地域住民と関係人口が共に汗を流せる「ごちゃまぜの場」が不可欠です。さまざまな方と連携して、一体感を育むことが、その力を最大限に引き出す鍵となります。
「プロセス重視」と当事者意識の醸成
もう一つの重要な要素が「プロセス重視」です。地域づくりでは、補助金獲得などをゴールと捉え、すぐに成果を求める傾向がありますが、それでは本質的な変化は生まれません。重要なのは、変化に至るまでの過程、すなわち「プロセス」そのものをデザインし、時間をかけて取り組むことです。
例としてあがるのが、新潟中越地震の復興過程です。拙速なV字回復を目指した地域よりも、住民との対話を重ね、小さなお祭りを復活させるなど、地道な「足し算の支援」で地域の土台を時間をかけて固めた地域こそが、その後の飛躍的な「掛け算の支援(事業導入など)」を成功させました。この時間のかかるプロセスこそが、地域づくりで最も大切な「当事者意識」を醸成します。
最終的な目的は、単なる課題解決ではなく、住民一人ひとりが「他人ごと」を「自分ごと(I)」として捉え、さらに「地域ごと(We)」へと意識を昇華させる「主体形成」にあります。そのための対話や試行錯誤の時間はコストではなく、未来への最も重要な「投資」なのです。
私たちが目指す地域像「にぎやかな過疎」とは
こうした地域づくりの実践が進む一方で、新たな課題も生まれています。それは、前向きな変化を遂げる地域と、停滞から抜け出せない地域の間に生まれる「むら・むら格差」です。面白い人や活動がある地域には移住者や関係人口が集まり、好循環が生まれる一方、そうでない地域との差は開いていく。これは、従来の都市と農村という地理的な格差とは質の異なる、根深い問題です。この格差の正の極に生まれるのが、私たちが目指すべき地域像「にぎやかな過疎」です。その本質は、多様な主体の“交錯(ごちゃまぜ)”にあります。
地域住民、移住者、関係人口、企業、NPO、大学といった様々な人々が入り乱れ、“わいわい・がやがや”している状態。人口は減っていても、人が人を呼び、仕事が仕事を生む好循環がそこにはあります。

この活気を生み出す「地域の縁側」のような場を創り出し、運営していくことこそ、農村プロデューサーの重要な機能です。多様な人々を巻き込み、未来への希望を仕掛けていってほしいと願います。
本レポートは令和7年7月4日に行われた「農村プロデューサー養成講座」入門コース 第1回 地域づくり総論(講師:小田切 徳美 氏)の講義を元に、一部内容を抜粋して編集しました。
農村プロデューサー養成講座 実践コースの参加者募集中!
入門コースを経て、さらなる現場力を身に付けるための実践的な研修コースです。地域の中での対話が求められる昨今、経験豊富な地域づくりのスペシャリストから、それらのノウハウも学ぶことができます。
| セミナー名 | 農村プロデューサー養成講座 実践コース |
|---|---|
| オンライン講義 開催日 | 1日目:令和7年9月10日(水)9:00~12:00 2日目:令和7年9月17日(水)9:00~12:00 ※両日の参加必須 |
| 対面講義 開催日 | 岡山会場:令和7年10月01日(水)~ 03日(金) 金沢会場:令和7年10月15日(水)~ 17日(金) 仙台会場:令和7年10月27日(月)~ 29日(水) 東京会場:令和7年11月10日(月)~ 12日(水) ※いずれか一つの会場に参加必須 |
| お申し込み方法 | \お申込みは、8月17日(日)まで!/ ★詳細は特設ページをご覧ください★ |
















