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年収1,000万円も夢じゃない?!パートナー農業のスキームとは。高糖度中玉トマトを通年で出荷できる仕組み

鈴木 雄人

ライター:

年収1,000万円も夢じゃない?!パートナー農業のスキームとは。高糖度中玉トマトを通年で出荷できる仕組み

30アールで年収1,000万円を実現する生産者がいると聞いて、静岡県袋井市を訪れた。通年で平均糖度8度の中玉トマトを栽培するサンファーム中山株式会社だ。同社から独立した農家も年収1,000万円を実現できるという。その仕組みの中枢を担うのが株式会社HappyQualityである。代表取締役を務める宮地誠(みやち・まこと)さんに「年収1,000万円を実現できるビジネスモデル」について話を聞いた。

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通年出荷可能な高糖度・高栄養価のトマトで高収益を実現

静岡県袋井市で高糖度の中玉トマトを通年栽培するサンファーム中山株式会社。サンファーム中山が作るトマトは、「Hapitoma(ハピトマ)」と呼ばれ、生鮮食品では日本初のGABAとリコピン両方の機能性表示を取得しました。

中玉トマトは夏場の出荷ができない生産者がほとんどの中、平均糖度8度超えのトマトを通年出荷できる体制を敷いており、高糖度・高栄養価の中玉トマトとして唯一無二の立ち位置を作り上げています。

Hapitoma(ハピトマ)

そのハピトマの企画・開発、そして販売戦略のすべてを担うのが株式会社HappyQuality。元々、サンファーム中山は同社の農業生産を行う子会社として設立されましたが、現在はハピトマの生産者としてだけでなく、ハピトマ栽培で独立を目指す若者らの研修先としての役割も担っています。

同社では、サンファーム中山を含めた14軒のハピトマ生産者から1キロ当たり600円以上(生産する糖度の平均で変動)で全量を買い取り、糖度別(6度〜10度)に商品化。さらに、日本で唯一のリコピン含有量が分かる近赤外線を照射し計測する『光センサー選果機』を使用し、一粒ずつ糖度・形・リコピンを全量計測、選別しています。これにより、消費者の好みに合ったトマトを販売することが可能となっているほか、糖度×150円という形で、一般的なトマトよりも高い価格で販売されています。

これらの根幹にあるのが、「マーケットイン」での販売戦略。従来の農業は「作ったものをどう売るか」を考えるプロダクトアウト型に対し、HappyQualityは「消費者が買ってくれるものは何か」を起点に、作るべきものを決定しているといいます。テクノロジーを活用しながら、求められる農産物を誰でも安定して生産できるマニュアルにすることで、稼げる農業を実現しています。

そのためにも、同社では青果卸業以外にも、農業経営支援サービス(農業パートナーモデル)やアグリテック開発(AIを用いた製品開発)にも取り組んでいます。

日本で唯一、リコピン含有量が分かる選果機

業界の意識改革をするために独立

父の影響もあり、元々青果物卸売市場で働いていた宮地さん。そこで目の当たりにしたのは、本来あるべき姿が変わっていく農業界の現実でした。

「当時、本来はJAや市場が販売を担う存在だったのに、流通側の意識の低下によってその力が衰退し、生産者が自分で売らざるを得ない状況が生まれていました。生産者は良いものを作ることに、流通業者は1円でも高く売ることに集中する。この当たり前のことができなくなりつつありました」

流通側では、価格の決定権がある担当者が数字にこだわらないと生産者の手取りは増えません。しかし、ほとんどの社員が雇われであるからこそ、高く売るという意識は低下し、日々の業務をこなすといった思考に変わってしまっていたのです。

「意識改革さえできれば、農業はもっと良い産業になると考え、後輩などにも口を酸っぱくしてボールペンに命をかけろと話をしていました。しかし、市場で働いていては旧来の法律や商慣習に縛られ、業界は変わらないし、変えられない。口先だけの人間にはなりたくなかったので独立という道を選択しました」

ハピトマの品種は「フルティカ」

こうして始まった業界の意識改革。とはいえ、まずはビジネスを形にしなければ信用は生まれません。そこで、世の中に必要とされており、かつ売れる余地があるものを探して作るところから始まりました。

その中で転機となったのが、あるメロンの品評会後の懇親会だったといいます。

「懇親会には市場で働いていた時の知り合いも多く参加していて、何を作ったら買ってくれるか話をしました。そこで出た意見の一つに『年間平均糖度8度の中玉トマトを夏も含めて一年中作れるなら、1キロ800円で500トン買う』というものがありました。これに同調する声も多数あがり、その場で数量にして2,500トン、販売額にして20億円ものビジネスが口約束で成立しました」

しかし、当時の宮地さんはトマトの生産経験もなければ、栽培する畑もありませんでした。「作り方を教えてくれる人を探そう」と奔走していたところ、偶然出会ったのが当時静岡大学の生産現場で動きながら研究の手伝いをしていた、現在サンファーム中山の代表を務める玉井大悟(たまい・だいご)さんでした。

玉井さんに将来的な独立志向があったことも重なって、「君が誰でも作れるマニュアルを開発し、誰にでも広げられる先生になってほしい」と再現性の高いトマト栽培をHappyQualityに入社する形でスタート。そして、そのモデルを実践する生産法人としてサンファーム中山を設立しました。

当初は同社の子会社でしたが、VC(ベンチャーキャピタル)からの出資を機に、サンファーム中山の株式を玉井さんへ譲渡。資本関係を切り離し、現在は「完全な別会社」といいます。しかし、実際はハッピーグループの核として強固に連携し、ビジネスモデルを実践する最大のパートナーであり、新規就農者の研修の場、そして最新アグリテックの実証の場という重要な役割を担っています。

糖度でサイズが変わるのでハピトマには規格がない

展開するハピトマ栽培について

HappyQualityが目指すのは、経験や勘だけに頼らない、科学的根拠に基づいた農業です。栽培手法の根幹には、再現性を高めるための明確なロジックがあります。

はじめに、栽培には土ではなくロックウールという人工培地を選択。「土壌は微生物などの影響で環境が常に変動し、再現性を確保するのが難しい。まずは無機質なロックウールを使い、植物が必要とする水と肥料だけを精密に与えることで、誰がやっても同じ結果を出せる仕組みを確立したかった」と宮地さんは言います。

さらに、その精密な管理を支えるのが独自開発のアグリテックです。

例えば、AI灌水システム「Happy潅水」。ハウス内に設置したカメラがトマトの僅かな「しおれ」をAIで検知するこのシステムにより、植物が本当に水を欲しがっている最適なタイミングで自動的に水や肥料を与えることができます。

また、スマートフォンに取り付ける気孔スコープ「Stomata Scope」により、葉の裏にある気孔の開閉状態を観察できるデバイス。植物の光合成の状態や健康状態を直接「見る」ことで、より精緻な管理を可能にしています。

「これらのテクノロジーは、人が植物の言葉を理解するための『翻訳コンニャク』のようなもの。植物の状態をデータとして可視化することで、経験の浅い生産者でもトップレベルの栽培を実現できます」

サンファーム中山の圃場

年収1,000万円を実現するビジネスモデルとは

生産者側を見てみると、平均収量は10アール当たり約11トン。1キロあたり600円以上で全量買い取りになるので、660万円の売上になります。国内の施設園芸で多い30アール規模で経営をすると、売上は1,980万円。そこから経費などを差し引くと、多少の変動はあるものの、約1,000万円が所得として手元に残る計算だといいます。

実際に、サンファーム中山では約200トンを生産し約1億2,000万円を売り上げるほか、パートナー農家の中には10アールあたり16トン(売上960万円)を達成する生産者もいます。さらに、この研修制度を経て独立した生産者も、着実に成果を上げているといいます。ある生産者は、4年間サンファーム中山で研修したのちに13アールのハウスで独立。1年目から黒字化を達成し、2年目には約700万円の収入を得るまでに成長しました。今後は、年収2,000万円を目標に拡大の方向で動いているそうです。

HappyQualityが提案するビジネスモデル(ホームページより)

この背景には生産者が栽培に集中できるよう、徹底したサポート体制でバックアップしています。

生産以外の作業からの解放

栽培に必要な苗や肥料などの資材、さらには収穫に使うコンテナや出荷用の段ボールまで、すべてを用意。生産者は収穫したトマトを選果場へ運ぶだけで、時間のかかる選別や箱詰め作業は不要です。これにより、日々の栽培管理という最も重要な業務にすべての時間を注ぐことができます。

販売リスクからの解放

パートナー農家が生産したトマトは、1キロあたり600円以上(B品は1キロあたり300円)で全量買い取り。市場価格の変動や販路開拓の心配から解放され、安定した収益基盤が確立されます。

再現性の高い栽培技術の提供

テクノロジーを活用し、ハピトマの栽培をマニュアル化。スタッフによる栽培指導や圃場視察により安定生産をサポートしています。これにより、誰でも高品質のトマト栽培が可能となります。

給与を得ながら学べる研修制度

独立希望者は、まずサンファーム中山で給与を得ながら実践的な技術を習得することを推奨しています。年に4回栽培する多回転方式と、特性の違う14のハウスで経験を積むため、1年間で多くの経験値を得ることが可能な環境となっています。

低い初期投資

新設ハウスではなく、中古ハウスの活用を推奨。独立時の初期費用を大幅に抑えることができます。実際に、サンファーム中山や独立した生産者も中古ハウスを活用して栽培をしています。もちろん、10アール当たり11トン、売上660万円も中古ハウスでの数値を元に計算しています。

サンファーム中山で働く、将来的に独立希望の高橋さん(右)と川添さん(左)

需要に応えるべく、他県での展開も見据える

この革新的なビジネスモデルには国内外から大きな期待が寄せられています。宮地さんは今後の展望を次のように語ります。

お話を聞かせていただいた宮地さん

「元々、2,500トン20億円の注文から始まったこのビジネスですが、現在の全体の生産量は約470トン。今なお多くの注文をお断りしている状況です。まずはこの需要に応えるため、生産量を現在の5〜6倍にまで引き上げることが急務です。そのためにも、研修制度を通じて新たな作り手を育てると同時に、既存のパートナー農家さんにも規模拡大を促していきたいと考えています」

さらに、将来的には他県での展開も見据えています。

「静岡県外からも『ハピトマを作りたい』というお声は多数いただいています。しかし、リコピンまで測れる特殊な選果機が、現状では袋井市にしかありません。このボトルネックを解消するため、今後は他の主要なエリアにも選果場を建設していく計画です。生産拠点と選果場をセットで展開することで、全国どこでもこのビジネスモデルが実践できる体制を整えていきます」

宮地さんの農業界の意識改革を掲げて走り出した挑戦。現在は、生産者を増やし、売上も確保できるまでに成長しました。ここから、生産量を増やし、拠点を広げ、日本の農業の意識改革がされる日は遠くないでしょう。

取材協力

Happy Quality

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