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父から継いだのは3500万円の借金。元会社員が赤字農家を5年で再生させた経営改革

相馬はじめ

ライター:

父から継いだのは3500万円の借金。元会社員が赤字農家を5年で再生させた経営改革

「農業は儲からない」「継いでも苦労するだけ」。農業界ではそんなネガティブなイメージが、深刻な担い手不足に拍車をかけています。そうした状況の中、自らの知識と工夫で道を切り拓いているのが、埼玉県久喜市の農家・鈴木修(すずき・おさむ)さんです。5年前、会社員だった彼が農家の父から継いだ会社は、3500万円の借金を抱えた赤字状態。決して恵まれているとは言えないスタートから、いかにして経営を立て直し、会社を再生させたのか。元会社員という視点から行われた経営改革について、話を聞きました。

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鈴木修さん・アイコン画像

鈴木修さん

年齢:49歳
農業生産法人「有限会社 鷲宮農業受託」代表
栽培規模:35ヘクタール
生産品目:米・小麦
趣味:登山(年4回)、筋トレ

引き継ぎなしの事業承継。これまで知らなかった実家の経営の実態

──鈴木さんはこれまで会社員として25年間勤務していたそうですね。その頃には、すでに実家の農業を継ぐ意志はありましたか。

実家の農業を継ぐことよりも、むしろ会社員として一生を終えることを考えていましたね。ただ前職で海外子会社のCFO(最高財務責任者)という立場を経験してから、自分の事業を持ちたいという気持ちが徐々に芽生え、広く浅くですが、経営にまつわる本を片手に勉強をするようになりました。
そして独立を構想していたとき、大きな転換期を迎えることになりました。病を患っていた父が闘病の末、他界したのです。
突然の別れに戸惑いましたが、それと同時に「父のやってきた農業をこれから誰が継ぐのか」という現実にも向き合わなければならなくなりました。
弟が一人いて、実家の農業の現場を担当しているのですが、経営まで継ぐことにはあまり乗り気ではなかったんです。
私自身は、農業といえば繁忙期の手伝いだけでほとんど経験はありません。しかし、自分の会社を持ちたいという目標があったため、業種は全く異なりますが、父の農業を継ぐことを決めました。

鈴木修さんが所有している乾燥機

──そのタイミングで、大きな決断を迫られたんですね。引き継ぎに関してはどうされましたか。

父の病状は重く、意思疎通が難しい状態であったため、引き継ぎはほぼありませんでした。
なので、まずはどういった経営状態にあるのかを調べるところから始めました。そして、調べるうちに約3500万円の借金があることが判明したのです。このことを知った当時は「どうすればいいのか」と、とても頭を悩ませました。ですが、そのような状態でも事業として伸びしろとなる点も多々ありました。

借金返済に向けてまずは経営の土台を盤石にすべく、これまでの体制を一度仕切り直すことにしました。
父が経営していた頃は総勢5人で仕事を回していたのですが、正直、作業量に対して人が余っていました。苦渋の決断だったのですが、3人体制で立て直すことに。
また、紙ベースでの事務作業をなくし、納品書やお客さんのリストなどの情報を集約してデータベースを構築。いつでも欲しい情報を持ってこれる仕組みを作りました。紙であれば探すのにもひと手間かかりますが、データベースであれば一瞬で探せます。その小さな積み重ねで大幅に作業を効率化できました。

販路を広げて自分が売り先を選べる状態に

倉庫で話をする鈴木修さん2

──借金の数字に驚きを隠せません。経営を見直す際は支出や手間の削減から着手するのが賢明であることが分かります。他に取り組まれたことはありますか。

商品の売り先を広げたことですね。父が経営していた頃の売り先は、JAだけでした。JAへの出荷は手間が少なく楽なのが魅力なのですが、単価が低い時期は利益を出すのが難しい。メインの作物が米や麦などの穀物であるから余計にですね。
それなら自分で売り先を広げるべきだと思い、Webサイトやフリマアプリを活用し始めました。ジモティーやメルカリなどです。
例えばジモティーなら商品を直接取りに来てくれる人が多いので、梱包や発送といった手間がありません。さらに購入してもらったお客さんを顧客へ昇華する入り口にもなります。
また米屋さんにも直接アプローチをかけて、つながりを作るようにも動きました。
販路を一つに絞らず、複数持つ。そうすることで、市場の動きを見ながら売り先を自分で選べるようになったのです。

──ジモティーやメルカリにはそういった活用法があったのですね。お客さんのリストを取るのにも使えるアプローチです。これらの手法だけで借金は返済できたのでしょうか。

経費削減、販路拡大しても、経営を立て直すにはまだまだ遠いです。
そこで作物の生産だけでなく、現在の経営の柱となる、農作業の受託にも力を入れるようになりました。
農作業の受託自体は父の代からやっていたのですが、より専念するように動き始めました。
対応可能な農作業は、耕うんや代かき、草刈り、稲の刈り取りなど多岐にわたります。また、埼玉県久喜市中心にはなってしまいますが、農地の管理も受けています。
そしてこの受託業は、会社全体の売り上げの半分を担う重要な収入源にまで成長しました。
その結果、3500万円あった借金は、2022年に550万円、2023年に950万円、2024年に950万円と立て続けに返済でき、残りの1050万円は今年で完済予定です。

──生産と受託業の2本柱により完済目前までたどり着いたのですね。うまく軌道に乗せられているなと感じます。

日々トライ&エラーの繰り返しですね。
一時期、6次産業の一環として米粉販売に踏み込もうとしたことがありましたが、シミュレーションしてみると、設備投資に最低でも100万円以上かかることから、事業化は断念しました。
また父の代からそばを作っていたのですが、こちらも採算のめどが立たず撤退しています。
さらに経営者として、私の役員報酬はもっとも低い金額に設定しています。借金の返済も重要ですが、それ以上に一緒に仕事をしてくれているスタッフの給料に還元したいと考えているからです。
会社の福利厚生としても、夏場のファン付き作業服の支給や、冷蔵庫の飲み物を自由に飲める体制を整えています。
会社員経験しかなかった私が、こうして経営を続けていられるのは、間違いなく今のスタッフのおかげです。彼らの支えがなければ、今の経営は成り立ちません。

担い手になったことで感じた、継がせる人・継ぐ人に伝えたいこと

倉庫で話をする鈴木修さん

──自らの役員報酬を削ってまで経営を良くしたという覚悟が感じ取れます。これから事業を継がせる・継ぐ立場にある人に伝えたいことはありますか。

正直な話、私が経営を立て直せたのは、自由にやらせてもらえたからだと思っています。
父からの引き継ぎがなかったのはもちろん大変でしたが、自分の納得がいく形でいろいろなことに挑戦できているのが大きいです。仮に父と一緒に経営していたのなら、衝突し疲弊していたかもしれません。
これから継ぐ意志のある人は、視野を広く持ちつつ、身近な人を助けることが経営を上向きにしてくれるカギであることを頭の片隅に入れておいてほしいです。
農作物を作って売るだけでなく、自分が持っているスキルや得意を生かして人助けをしていると、いずれそのことが新たな実を結ぶきっかけとなります。

鈴木修さんと所有しているトラクター

──継がせる人は極力見守る。継ぐ人は生産だけに固執せず、困っている人を助けることが大切になるのですね。鈴木さんは、これからどのような経営をしていきたいと考えていますか?

現在は作物の付加価値を高めることよりも、規模拡大を目指しています。
保有している圃場(ほじょう)は昨年27ヘクタールだったのですが、今年に入ってすでに35ヘクタールにまで拡大しています。やはり農地の管理が困難な人が年々増えているんですね。そのような困りごとを抱えている人の受け皿にもなりたいんです。
そして将来的には農業をやりたい若者を受け入れて、独立をサポートするような仕組みを作りたいと画策しています。独立した新規就農者に農機具を貸し出すなどして、地域の農業全体を活性化したいです。
農業を経営していく上で、目の前の経費や売り上げと向き合うことも大切ですが、それに加えて困っている人を助ける、他者貢献を忘れずにこれからも活動していきたいです。

有限会社 鷲宮農業受託

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