テクノロジーで挑む有機農業
愛知県で有機ミニトマトを栽培する株式会社トクイテンは、AIを搭載したロボットでミニトマトを自動収穫するほか、他社に類を見ない農業を展開しています。その革新的な取り組みは各方面から高く評価されており、2024年には農林水産省の中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3基金事業)に採択されるなど、大きな期待が寄せられています。
現在の栽培面積は約20アール。生産量にして年間約15トンを上げられていますが、さらなる拡大を目指し、1ヘクタールの新農場設立を進めています。完成すれば年間100トン近い収量が見込まれるといいます。来期には10アールあたり10トンの収量目標も視野に入ってきました。
同社が栽培する有機ミニトマトの価値は、価格にも表れています。6月頃の市場では、一般的なミニトマトが1キロ600円前後であるのに対し、同社の有機ミニトマトは1キロ1500円から2000円で取引されています。

トクイテンの有機ミニトマト
元IT社長の農業への挑戦
高専からIT分野で起業し売却
「昔は、農業は儲からないし、若者がやる仕事ではないと思っていました」
意外にも、代表の豊吉氏は最初から農業に関心があったわけではありませんでした。高専時代にロボコンで全国準優勝を果たし、プログラミングの才能を開花させると、ITの世界へ進みました。約7年の個人事業主を経験したのち、2011年にクラウド請求書サービス「Misoca」を立ち上げ、20万以上の事業者が利用するサービスに成長させ、2016年に大手企業へ売却するという成功を収めました。
そんな豊吉さんの人生を変えたのが、知人の農家が水やりに困っていた中で自動の灌水器で課題を解決した経験でした。「現場を見てみると、基本的な『水やり』すら自動化されておらず、大変な手間がかかっていることに衝撃を受けました。ここに自分のITやロボットの技術を活かせば、農業はもっと良くなるんじゃないか」。そう直感した豊吉さんは、農業大学校で一から栽培を学び、2021年に株式会社トクイテンを創業しました。

ヘタが取れやすい品種を選択
時代の流れから有機農業を選択
政府が推し進める「みどりの食料システム戦略」の耕地面積に占める有機農業の取組面積を25%(100万ヘクタール)に拡大する流れと手間がかかる有機農業こそロボットによる自動化と相性が良いということから、自分が取り組むべきテーマだと確信したといいます。その中で、市場規模が大きく、かつ作業工数の多さが課題だったミニトマトを選択。栽培は9月に苗を植え、12月から翌年6月まで収穫が続きます。
しかし、開発の道のりは困難の連続だといいます。ビニールハウス特有の熱や太陽光、砂埃は精密機械の天敵です。さらに大きな壁は、農業界の「常識」でした。ロボットが収穫しやすいようにヘタを取ると、市場では「規格外」として扱われてしまいます。
トクイテンでは、自らスーパーに足を運び営業することで、「ヘタがない方が調理しやすくゴミも出ないし、実は長持ちする」とその価値を伝え続けました。その熱意が実を結び、「ヘタなしトマト」は今や同社の強みとなっています。

ヘタなしのミニトマト
AI×ロボット×農業の現在地
進化し続ける収穫ロボット
現在、農場では自社開発のAIロボットが活躍しています。当初はアームで掴むトング式を試しましたが、収穫スピードに限界がありました。試行錯誤の末にたどり着いたのが、現在の「吸引式」です。弱すぎては実が取れず、強すぎては割れてしまうため、アームを回転させながら吸引するなど独自の工夫を凝らし、実を傷つけずに収穫する技術を確立しました。
現在のロボットは4時間の連続稼働により、人間の約半分ほどの収穫スピードを実現するところまできているといいます。夜間でも自らのライトで照らして収穫できるため、天候などに左右されず安定した稼働が可能になります。
「『1台あたり1時間で10kg、農場で2台を稼働させ1日で80kgを収穫する』これが2026年3月までの具体的な目標です。足回り(レール間の自動移動)やバッテリー、吸引機の改良も進めており、収穫という有機農業における一番の難関は乗り越えつつあります」

ミニトマトの収穫ロボット
農業の「やり方」そのものをデザインする
「農業が好きで始めても、儲からなければ持続できません。暑い中、重労働がしたくて農業をやるわけでもない。そんな大変な作業を自動化し、人間は『どうすればもっと美味しくなるか』『どうやって価値を伝えるか』といった創造的な部分に時間を使うことがロボットで可能になります」
豊吉さんが目指すのは、今ある作業を単純にロボットに置き換えるのではありません。「この作業は、やり方を変えればそもそも必要ないのでは?」と、本質から問います。
「農家さんに要望を聞くと『この作業をやってくれるロボットが欲しい』という答えになりがちです。しかし、我々が本当にやるべきなのは、その大変な作業自体がなくなるような、農業のやり方そのものを作ること。だからこそ、自社で生産を行いながら、農業全体を見直していく必要があるのです」

ミニトマトの収穫ロボット
トクイテンが目指す農業×ロボット×AIの未来
トクイテンの挑戦は、収穫の自動化に留まりません。
「販売よりも、今は栽培の技術を高めたい」と豊吉さんは語ります。実際、現在の15トンの収量も、約2割は病気によって失われているといいます。この課題に対し、豊吉さん自身が栽培の最前線に立つのではなく、自身より経験豊富な栽培のプロフェッショナルを採用し、チームで技術向上に取り組む体制を整えました。
将来的には、同社が開発したロボットや栽培ノウハウを一つのパッケージにし、農業に新しく挑戦したい企業などへ提供していくことを目指しているといいます。すでにいくつもの企業が興味を示し、実験的に同社の農場で生産に取り組みます。
そして、収穫の次に見据えるのは「選果」の自動化です。新設される1ヘクタールの広大な農場は、生産能力を飛躍させるだけでなく、選果ロボットを開発・設置するためのスペースも確保してくれます。

取材時の豊吉さん
「最終的には、IPO(株式上場)も目指しています。そうして会社を大きくすることで、日本の農業に良い影響を与えられるスタートラインに立てると思っています」
元IT社長が描く、テクノロジーとデータが実現する未来の農場。それは、単に楽をするための農業ではありません。人間がより創造性を発揮し、「儲かる農業」を持続可能にするための、新しい農業の形です。トクイテンの挑戦が、日本の農業に新しい時代を創り出していくのではないでしょうか。
















