当業者が先物市場を活用して利益を得る方法

まずは、コメの当業者、特にコメの生産者が先物市場を利用する場合の要点について述べたい。アメリカで農業経営者を志す人は、大学で農業経営を学ぶ際に穀物取引や先物市場取引を学ぶ。その教材はA4版800ページもあり、先物市場を利用した価格変動のリスクヘッジや先物市場で売り買いして利益を得る方法として「ベーシス取引」のことが書かれている。
アメリカにはコメの先物市場もあり、コメ農家がこの先物市場をどう利用しているかが記された本では、農協がコメの販売のプロを雇って、そのプロが先物市場を活用するというスタイルがとられているという。もちろんコメの生産者自ら先物市場を利用することもある。ベーシス取引などと記すと続きを読みたくなくなってしまうかもしれないが、これは「現物価格と先物価格の価格差(ベーシス)を利用して利益を得る取引方法で、裁定取引ともいう」ということで、現物(コメ)を生産している生産者にとっては「最も確実に利益を上げる方法」である。

わかりやすく説明すると「価格差」を決定する要素としては「空間」と「時間」と「物質」の3つがある。その3つを、事例を挙げて解説する。
まずは「空間」について。これは距離を利用して差益を得る方法だ。例えば、秋田県産のあきたこまち(以下、あきたこまち)が秋田県で1俵2万5000円で買えたとして、東京都では2万6000円で売れることが確実であれば、秋田から東京までの運賃1俵600円を差し引いた400円が利益になる。これは空間を利用した利ザヤ稼ぎ「鞘取り」ということになる。
続いての「時間」を活用した利ザヤ稼ぎとはつまり、こういうことだ。先物市場では将来受け渡しされる取引が行われているので、例えば2か月先のあきたこまちの価格が現在より1000円高い価格で取引されている場合、今時点で現物を買った上で2か月先の先物市場で売れば、その期間にかかる保管料や金利が2ヶ月で500円かかったとしても、1俵あたり500円の利ザヤを稼げるという計算が立つ。
最後に「物質」。現物が持つそのものの価値ということで、あきたこまちに限らず、全てのコメは品位によってその価値が変わってくる。最もポピュラーな検査格付けでは1等と2等の格差は現在のところ400円に設定されているが、この格差は不変ではない。等級間格差(品位格差)は、需給がタイト化すると縮小し、需給が緩和すると拡大する傾向がある。また、同じコシヒカリであっても産地によって大きな価格差がある。
ブランド力によって価格差が生じるという点で、このブランド力の格差を図ることはかなり難しい。端的に言えば、市場で取引される各産地銘柄の価格がブランド力の差と言い換えることが出来る。この格差も需給がタイト化すると縮小し、緩和すると拡大するという傾向がある。この銘柄間格差を利用して試験上場中に先物市場を活用していた外資系商社もいた。その手法はかなり複雑なのでここでは割愛する。
要するにコメと言う現物を生産したり、所有したりできる当業者は「ベーシス取引」を行うことによって確実に先物市場で利益を得ることが出来るのである。
商先業者に口座を開設して証拠金を預託する
では、実際にコメの生産者Aさんが堂島取引所のコメ指数先物取引に参加し、メリットを受けるにはどのようにすれば良いのか示したい。
まず、コメ指数先物取引に参加するには、堂島取引所がコメ指数先物取引を認めた商品先物取引業者(受託取引参加者)に取引口座を開設して、取引に必要な証拠金を預け入れることで取引が可能になる。現在、コメ指数先物取引に参加できる商品取引先物業者は、コムテック、岡地、北辰物産、サンワード証券、日産証券、SBI証券、岡安商事の7社である。それぞれの会社のホームページにコメ指数先物取引に参加できるようになるまでの口座開設などの手順が具体的に示されている。口座開設申請者の資産や組織形態などの審査もあるので、口座開設までは2週間ほどかかる。

口座が開設されたらその口座に証拠金を振り込む。1枚当たり最低でも10万円の証拠金が必要になるが、7月末現在、コメ指数先物の10月限の価格は1俵2万9750円なので1枚50俵では139万7500円の代金が必要だ。先物取引では丸代金の1部を証拠金として預ければ取引が可能になる。ただし、証拠金の預入額は先物取引で売り買いされるコメの価格によって違ってくるので、余裕を持った資金を準備しておいた方が良い。
口座を開設し、証拠金も預け入れたところで、実際に商先業者に注文を入れることになるが、商先業者の担当者に注文する対面とネット上で注文する2種類の方法がある。現在、10月限は2万9750円だが、2万8000円になったら売るという指値をすることも可能だ。生産者Aさんは令和7年産米を1500俵生産する計画で、そのうち3分の1の500俵をコメ指数先物取引市場で2万8000円で売ったとすると、1枚は50俵なので10枚になり、1400万円の所得が確定する。
リスクヘッジの基本的な考え方
ここで最大の問題になるのが、第一回の記事で触れたように堂島取引所で売買されているのは「コメ指数先物」であるということ。試験上場中のコメ先物取引では「新潟コシヒカリ」「秋田あきたこまち」と言った商品があり、新潟や秋田のコメ生産者は自身が生産したコシヒカリやあきたこまちを納会で現物を渡せばそのまま丸代金を得ることが出来たが、指数取引ではそういうわけにはいかない。
しかし、試験上場中の先物取引では、新潟や秋田以外の生産者は納会で現物を渡すことが出来ないので、特定産地の銘柄しかリスクヘッジ出来ないということにもなる。堂島コメ指数先物取引は全国で生産されるコメの平均価格を売買対象としているので、全国の生産者が利用できる。
その場合、納会で現物を渡すという発想ではなく、納会前に堂島取引所が示す最終決済価格で売り玉を買い戻して手仕舞うことによって清算することになる。今年7月に新穀限月の10月限を2万8000円で売りヘッジしたとして、3ケ月を経て10月限が当限に廻って来た時、豊作傾向で2万5000円まで値下がりした場合、2万8000円で売りヘッジしたものを2万5000円で買い戻せば1俵3000円の利益を得ることが出来、10枚では150万円の利益になる。これによって生産者は将来価格の値下がりに備えられるというのが、先物取引のリスクヘッジの基本的な考え方である。
ただ、コメの生産者のみならず、流通業者、需要者の中にもコメ指数先物取引であっても現物の受け渡しが可能になるようにして欲しいという要望が強いことから、現在、堂島取引所でそれが可能になるように制度設計の改正に着手しているので、より現物取扱業者の利便性が高まることになると予想される。

















