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【令和7年度】農村プロデューサー養成講座 入門コース 第5回 地域づくり実践分野(1) 講師:暮らしの宿 福のや、代表 瀬川 知香 氏 |
「後継ぎのいるまちをつくる」ために
第一章:後継ぎのいる町を目指す「NPO法人頴娃おこそ会」
私は大阪の旅行会社勤務を経て、地方にもっと人が来る流れを作りたいという思いから、10年前に鹿児島県南九州市頴娃(えい)町に移住しました。頴娃町は、お茶の生産が盛んで美しい茶畑や海の景色が広がる町です。しかし10数年前までは、農業という地域に根付いた産業があったからか「観光で人を呼び込む」という発想があまりありませんでした。

私が職員として着任したNPO法人「頴娃おこそ会」は、そんな頴娃町で「後継ぎのいるまちをつくろう」を理念に活動する、まちづくりの中心的な組織です。ここで言う「後継ぎ」とは、血縁関係に限らず、この町に移り住みたいと思える人を温かく迎えられる空気感そのものを指します。会員は現在55人、20代から80代まで、移住者も地元事業者も一緒になって活動しており、30代の移住者である私が理事長を務めるなど、早い段階での世代交代を実現しているのが特徴です。
会の強みは、地域の方々が「外の力が必要だ」という認識を共有し、移住者を積極的にサポートしてくれる点にあります。また、会員それぞれの個性や得意分野を活かせるよう「プロジェクト制」を導入しており、一人ひとりが「自分ごと」としてまちづくりに関われる土壌が、組織の継続性を支えています。
第二章:官民連携による観光地づくり
景色はきれいでも観光地ではなかった頴娃町に、人の流れを創り出す。その挑戦は、町にある番所鼻(ばんどころばな)公園という絶景スポットから始まりました。頴娃おこそ会の「まずは自分たちでやってみよう」という精神のもと、行政に頼る前に手弁当で公園のシンボルとなる「幸せの鐘」を設置し、それをきっかけに少しずつ人の流入が増えてきました。

その後、民間が汗をかけて活動する姿を見た行政が、公園のハード整備に乗り出してくれました。行政が整備した美しい公園を、今度は民間が「番所絶景祭り」というイベントでPRし、新たなビジネスの可能性を探る。このように、民間がソフト面で挑戦し、行政がハード面で後押しするという理想的な官民連携のサイクルが生まれました。この時、民間と行政の間に立ち、熱意をもって汗をかいてくれる市の職員さんの存在が非常に大きかったと感じています。

この成功は町内にも広がり、茶畑が美しい大野岳(おおのだけ)でも、地元の茶農家の方々が中心となって展望台までの階段を「108段の茶寿階段」として整備するプロジェクトが始動。ここでも、民間がまず清掃活動などの小さな実践を続けた結果、行政のハード整備が実現しました。それぞれが役割を果たすこの連携が、頴娃町を訪れる価値のある場所、観光地へと変えていったのです。

第三章:空き家再生が生み出した、新たな挑戦の連鎖
観光地として人が訪れるようになると、次なるフェーズとして、その人の流れを商店街の活性化や農業振興へと繋げる「まちづくり」が本格化しました。その中心となったのが「空き家再生」です。
最初に取り組んだ築140年の書店の再生は、古家を維持する資金もノウハウもなく失敗に終わりました。施策には失敗が必ずあります。しかし、その熱意を見た先輩方が築100年の古民家を借りられるよう手配してくれ、今度は大学の建築学科の先生や学生も巻き込み、チャレンジショップ「塩や、」として再生させることに成功しました。この拠点ができたことで町に新しい交流が生まれ、「泊まる場所が欲しい」「食事処が欲しい」といった新たな需要が可視化されると同時に、「何かできるかも」という期待感が芽生えたのです。

需要に応える形で、私も自宅の一部を宿にしたり、協力隊制度で移住してきた仲間たちが新たなビジネスを始めたりと、小さな挑戦が次々と生まれていきました。しかし、移住希望者が増えるにつれ「借りられる家がない」という壁にぶつかります。空き家はあっても、所有者が町外にいて貸し出しに不安を感じていたり、荷物が残っていたりと、課題は山積みでした。
そこで私たちNPOが間に入り、家主と移住希望者をつなぎ、地元の工務店と協力して改修までをワンストップで担う仕組みを構築。単なる物件紹介ではなく、家主さんの不安に寄り添い、信頼関係を築くソフト面のサポートを丁寧に行うことで、「あのNPOになら」と貸してくれる人が増えていきました。空き家のビフォーアフターという見た目の変化以上に、こうした改修前後の関係づくりが最も重要です。現在、私も築60年の空き家を改修した一棟貸しの宿を運営しており、観光客だけでなく、町出身者の「帰省」の拠点としても利用されています。

第四章:持続可能なまちづくりに大切なこと
頴娃おこそ会の地道な活動と行政との連携によって耕された土壌の上で、私たち移住者は新しい仕事や暮らしを創り出してきました。しかし、活動が外向きに加速する中で、地域住民との間に距離が生まれる瞬間もありました。その体験から、私たちは地域住民向けのイベントを定期的に開くなど、常に「内」と「外」のバランスを取りながら活動することの重要性を感じています。
またビジネス目線もまちづくりにおいては重要です。非営利の活動だけでは持続できないという現実から、宿泊や体験観光といった営利事業を担う株式会社を設立。長期的な視点が必要な地域活動はNPO、スピード感が求められるビジネスは株式会社という「両輪」で活動を進めています。

私自身、農村プロデューサー養成講座の卒業生ですが、この講座で得た全国の仲間との繋がりは、今の活動の大きな支えです。そして何より、地域の活性化には多様な人々が関わるからこそ、その「人」と「人」、「人とコト」を丁寧につないでいくプロデューサー的な役割が不可欠である、という視点を身につけることができました。まちづくりは「みんな」でやるものですが、その「みんな」とは一人ひとりの異なる個人の集合体です。それぞれの得意なことを持ち寄れる環境を作り、広い視点で物事を捉える感覚が重要になります。
私たちは行政に頼るだけでなく「まずは自分たちでやってみよう」というDIYマインドを持ち、行政の方々には、そんな民間の挑戦を面白がり、後押ししていただきたいと願っています。地域活性は一つのチャレンジ、一人の思い、やり方次第で、地域を輝かせる可能性が十分にあります。そう信じて、これからも挑戦を続けていきます。
本レポートは令和7年8月1日に行われた「農村プロデューサー養成講座」入門コース 第5回 地域づくり実践分野(1)(講師:瀬川 知香 氏)の講義を元に、一部内容を抜粋して編集しました。
農村プロデューサー養成講座 実践コースの参加者追加募集中!
入門コースを経て、さらなる現場力を身に付けるための実践的な研修コースです。地域の中での対話が求められる昨今、経験豊富な地域づくりのスペシャリストから、それらのノウハウも学ぶことができます。
| セミナー名 | 農村プロデューサー養成講座 実践コース |
|---|---|
| オンライン講義 開催日 | 1日目:令和7年9月10日(水)9:00~12:00 2日目:令和7年9月17日(水)9:00~12:00 ※両日の参加必須 |
| 対面講義 開催日 | 岡山会場:令和7年10月01日(水)~ 03日(金) 金沢会場:令和7年10月15日(水)~ 17日(金) 仙台会場:令和7年10月27日(月)~ 29日(水) 東京会場:令和7年11月10日(月)~ 12日(水) ※いずれか一つの会場に参加必須 |
| お申し込み方法 | \追加募集のお申込みは、8月24日(日)まで!/ ★詳細は特設ページをご覧ください★ |
















