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希少な有機イチゴは香りづくりから始まる

希少な有機イチゴは香りづくりから始まる

全国の農場を渡り歩くフリーランス農家・コバマツです。今回訪れたのは、京都府八幡市で“香りから設計する野菜づくり”に取り組む「かみむら農園」。有機JAS認証のイチゴを栽培する、全国でも希少な“有機イチゴ農家”として注目を集めています。「おいしさ」を突き詰めた先にたどり着いた、独自の有機農業の世界をのぞいてきました。

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「おいしい」に感動し、有機農家の道へ

「かみむら農園」の代表である上村慎二(かみむら・しんじ)さんは京都府八幡市の95アールの畑で有機農業を営み、イチゴの他、オクラ、ホウレンソウ、ニンジン、ダイコンなどの野菜も育てています。

中でも注目を集めているのが、有機イチゴ栽培。冬の収入源として200株から始めたイチゴは、今では1万2000株にまで拡大し、全国でも珍しい「有機イチゴ農家」として注目されています。

農業を志したのは35歳のとき。大阪で板前やトラック運転手、カーディーラーの営業マンをしながら、「いつか自分で商売をしたい」と考えていました。ある日、妻の実家で義父が家庭菜園で作ったナスを振る舞ってくれ、その味に感動。「自分もおいしい野菜を育てて人に感動を届けたい」と農家になる決意をしました。
役場に紹介してもらった有機農業の第一人者・上田吉輝(うえだ・よしてる)さん(故人)のもとに弟子入りし、植物性肥料を使った栽培技術を学び、2010年に独立就農しました。
最初は慣行栽培、有機栽培などの違いも分からなかったそうですが、師匠の作る野菜がおいしく、自分も有機栽培を極めていこうと決意。以降、野菜の「味」を軸に農業に取り組んできました。

これまでに、日本有機農業普及協会(JOFA)主催の「オーガニック・エコフェスタ 栄養価コンテスト」にて、大根部門で最優秀賞を2度受賞。イチゴやホウレンソウでもファイナリストに選出されるなど、その実績は全国的にも高く評価されています。

現在は、株式会社マイファームが運営する「アグリイノベーション大学校(関西校・京都農場)」で講師としても活動中。自身の経験をもとに、理論だけでなく畑での実践を通して次世代の担い手を育成しています。

希少な“オーガニックイチゴ”

農園のブランドイチゴ「瑠璃(るり)の宝箱」

上村さんの代名詞ともいえる、有機JAS認証のイチゴ栽培。上村さんは全国でも希少な「有機イチゴ農家」として注目されています。

就農当初はトマトやナスも手がけていましたが、ナス科の野菜にアレルギーがあることが判明し、栽培を断念。他の品目を探して、イチゴ栽培に挑戦することを決めました。
「栽培が難しいとは思っておらず、“大丈夫だろう”と思って始めました」(上村さん)。しかし現実は甘くなく、病害虫の被害は深刻で、最初はアブラムシも多く苦労の連続。
そこで対策として、有機JAS認証を受けた自然由来の農薬を導入しました。中でも、ククメリスカブリダニ剤という、害虫の天敵である昆虫を利用した農業資材や、ミヤコバンカーという天敵資材も活用。他にもアブラムシの天敵のテントウムシやアカメ、アブラバチも活用しています。

イチゴの有機栽培が難しいとされる理由は、「有機栽培でやるなら農薬は使ってはいけない」という固定観念があるからではないか、と上村さんは言います。
しかし、有機JAS認証の自然由来の農薬はあります。固定観念にとらわれず、実践や勉強を積み重ねることが、病害虫に負けない希少なイチゴ作りへとつながっています。

肥料の香りが、野菜の味を変える──おいしさを引き出す土づくり

土耕栽培でつくる上村さんのイチゴは一つ一つ違う味。飽きずに食べ続けられるイチゴ作りを心掛けているそうです

一般的に“おいしさ”は糖度や酸味などの数値で評価されがちですが、上村さんは「味わいはもっと多層的なもの」だと語ります。甘みや酸味が単独で感じられると一瞬で消えるけれど、それが重なり合い、さらに香りやコク、雑味が加わると、味は螺旋(らせん)状に広がり、余韻として長く残る。この“余韻の長さ”こそが本当のおいしさだと考えているそうです。
そのおいしさを作っているのが、香りから設計する堆肥(たいひ)づくりだと話します。

「肥料の香りが土の香りになり、それが作物の味や香りにも影響する」と上村さん。「香りの良い肥料を入れると、作物の香りや味にも影響する。逆に、においの強い動物性堆肥を使えば、作物にも違和感のある香りやにおいが移る」と考えているそうです。実際、夏場に香りが弱くなったオクラに、香りの強い圧搾油かすを追肥したところ、数日で香りが戻ったという経験もあるといいます。

豆腐店から出るおからと、米屋から出る米ぬかをラクトバチルス菌を使って発酵させた肥料

使用する肥料はすべて植物性。豆腐店から出る国産大豆100%・防腐剤不使用のおからや、腐葉土、なたね油かす、米ぬかなどを自ら発酵させたものです。最近では竹のチップを混ぜるなど、香りと土壌への影響について試行錯誤を続けています。

食べ物は、味だけじゃなく香りも重要だと実感した取材でした

科学的に証明されているわけではありませんが、「作物は香りも吸収しているのではないか」という仮説を基に、肥料の香りから、おいしいを追求しています。

実際に農場でイチゴを試食しましたが、花のような香りがふわっと広がり、一粒ごとに味も香りも違っていて、本当においしいイチゴでした。

今後の展望について

今後は、地域の耕作放棄地を引き継ぎながら、上村さん自身が師匠から教わった有機農業の技術を次世代に継承していくことを目指しているそうです。「教わった技術を絶やさず、未来につなげたい」という強い思いから、現在も新規就農希望者の育成に取り組んでおり、今後は研修生の受け入れにも一層力を入れていく計画です。
「自分の農業を追求するだけではなく、師匠の技術や、地域の農業を残していくことが自分の大切な使命だと思っています」と上村さんは話してくれました。

取材後記

「香りづくりから始まる野菜づくり」。それは、数値では語れない“おいしさ”を突き詰める、職人のような探求です。さらに、「有機栽培=農薬は使ってはいけない」と一概に言わず、自然由来の資材を上手に使いこなすことで、有機栽培の中でも難しいとされるイチゴ栽培を実現できているのだなと思いました。 “自分なりの有機農業”の形を、自分の農場だけにとどまらず、多くの人に継承していきたいという思いも印象的でした。

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