山を拓き、畑から畜産へ、そして「事業」をつないできた家
綱田牧場の始まりは、初代が山を開き、土地に生業の基盤を築いたところにあります。二代目は畑作から畜産へと舵を切り、三代目が飲食の挑戦を始めました。山あり谷ありの経営を重ねながらも、「事業として続ける」という意思は一貫して受け継がれてきました。先代の背中を見てきた現代表の綱田圭吾さんは、「家業を継ぎ、地域の農業を守るために、未来に託せるカタチを残したい」と語ります。単に生産量を増やすことではなく、地域と産業の持続に直結する仕組みをつくる——その決意が現在の取り組みを押し出しています。

綱田牧場が掲げる理念は「お肉で世界を幸せにする」。その実現に向けた軸は三つです。まず、人にも地域にも“敬愛”をもって接すること。次に、考える前に小さくても一歩を踏み出す“行動”を大切にすること。そして、従来のやり方にとらわれず価値を生み直す“創造”を続けること。日々の飼養管理から販売の現場、地域との連携に至るまで、この三つの姿勢が細部に宿ります。
消費者ファーストを貫く、6次化の現場感
同牧場の大きな特徴は、生産から販売、さらに飲食の現場まで自ら関わっている点です。養豚の受託肥育で培った生産の精度を軸に、消費者の声が届く距離で商品づくりや売り方を磨く。飲食店を運営してきた経験が、部位ごとの使い勝手や提供の最適化にも活きています。今後は精肉加工場の設置を計画しており、対面販売の強化や、焼肉店舗のカット負担の軽減、さらには通販に最適化した体制づくりを進める方針です。「お肉をもっと身近に、もっとおいしく」——そのための導線を、地域の中に丁寧に組み込んでいきます。

地域資源を活かし切る、循環型の工夫 廃棄されるはずだった酒粕や、地域に根ざすイグサを飼料や敷料に活用する取り組みは、綱田牧場の“創造”の象徴です。地域の副産物を資源として循環させることで、廃棄の削減や環境負荷の低減に寄与するだけでなく、飼養環境の改善にもつながります。SDGsの観点からも、地域にあるものを地域で回す仕組みは持続可能性を高め、農業と暮らしの距離を縮めていきます。
学校給食へ無償提供。地域をつなぐ食育の架け橋
綱田牧場は、地域の学校給食へお肉を無償で提供する取り組みを続けています。子どもたちが日常の食事を通じて“地元の生産者”と出会うことは、食の安心につながるだけでなく、地域で育つ誇りにもなります。生産と消費の間にある壁を、日々の一皿でやさしく取り払っていく。こうした“顔の見える循環”は、地域を巻き込んだ取り組みとして広がり始めています。
次の一手は「精肉加工」と「第2店舗」。これからの綱田牧場が見据えるのは、精肉加工販売の本格展開と第2店舗への挑戦です。加工の工程を自社に取り込むことで、品質とスピード、提案力をさらに高める。店舗は“お肉の体験拠点”として、選ぶ楽しさや食べるよろこびを広げる場に。オンライン販売の強化も視野に入れ、地域から全国へと“芦北の味”を届けるための体制を整えていきます。
若手が挑戦しやすい土壌をつくる、地域のリーダーへ
綱田牧場が目指すのは、若い世代がチャレンジしやすい環境を地域に根づかせることです。若手農家の育成や地域ブランドの確立に力を注ぎ、農業を次の世代が選べる仕事にする。地域の農地や技術、雇用や食文化を守る——そのために必要な実務の仕組みづくりを、現実的な足取りで進めていきます。「生き残れる未来に託せる農業」を掲げる同牧場の歩みは、芦北の山里から、確かなうねりになりつつあります。


















