産地が育てる味。阿蘇・高森というフィールド
標高のある高森は、昼夜の寒暖差が大きく、果実の糖度を乗せやすい土地柄です。カルデラ由来の水と空気、そして風土が、皮薄で甘みと酸味のバランスがよいミニトマトを育てます。阿蘇の草原文化とともにある暮らしは、農と地域の距離が近いのも特徴。季節の移ろいを肌で感じながら、土と向き合うものづくりが日常に根づいています。
「人、土、いろんなものを追求・研究していく」。屋号に研究所を掲げた背景には、現場で仮説を立て、検証し、改善を続けるものづくりの姿勢があります。父の大玉トマトからバトンを受けた谷川さんは、阿蘇の環境に適したミニトマトに特化。地域の農家と手を携え、出荷会社を立ち上げるなど、産地全体で品質と供給力を磨いてきました。 創業の根には「阿蘇というブランドを生かし、通年で動く産地体制をつくりたい」という視点があります。旬のリズムを大切にしながらも、いつものおいしさを失わない。谷川トマト研究所の研究は、その両立のために続いています。

阿蘇の草原と畑をつなぐ、循環の土づくり。気候変動時代の栽培環境を整える
同園を語る上で欠かせないのが、阿蘇の草原維持活動と連動した堆肥づくりです。地域で採草された茅(かや)を原料に堆肥化し、畑へ戻す。草原と農地をつなぐ循環の仕組みは、土の団粒化を促し、根張りを良くし、結果として果実の味に還元されます。有機・特別栽培の考え方をベースに、資材選びや防除も“必要最小限で効果的に”。“旬”を支えるのは、見えないところで積み重ねられる基礎の仕事だと、同園は考えています。
近年は、準高冷地の阿蘇でも夏秋栽培の難易度が上がっています。高温ストレスへの対策や、作業の安全性を高めるための環境整備は待ったなし。「ピンチはチャンス」という言葉通り、同園はさらに栽培環境の整備を進め、収量と品質のブレを抑える取り組みに力を入れていきます。高齢化が進む地域で、戻って農業をしたい人の背中を押せるモデルをつくること。それが谷川トマト研究所のビジョンです。
地域連携で磨く、品質と安定供給
生産者間の横の連携は、谷川トマト研究所の強みのひとつです。共通の基準と記録の徹底、目合わせのための情報共有、産地としての一体感が、安定供給を可能にします。今期からは、熊本発の青果企業・果実堂と栽培出荷の業務提携もスタート。品質基準や出荷設計の高度化に取り組みながら、阿蘇のミニトマトをより確かなかたちで届ける体制づくりを進めています。

「旬を大事にしながら安定をつくる。それが消費者の信頼につながり、産地の誇りにもなる」と谷川さん。単なるたくさんつくるのではなく、同じ基準でつくり続けるための仕組みに、力を注いでいます。
人づくりは、産地づくり
名の通り、谷川トマト研究所では人づくりにも力を入れています。多様なバックグラウンドのメンバーが集い、互いに学び合う空気があります。地域の若い担い手や研修生の受け入れにも前向きで、作業の意味から伝える丁寧な指導が行われます。季節の動きや気温に合わせて仕事の組み立てを工夫するなど、現場の知恵を共有する文化が根づいているのも魅力です。谷川さんは40代の折り返しを迎え、地域の役回りも増える世代に。「一人でできることは限られているけれど、出荷会社の仲間や周囲の農家と協力すれば、産地としての力になる」と語ります。人が育つほど、産地は強くなる——同園の“人づくり”は、そのまま地域の未来づくりです。

阿蘇から、次の一歩を阿蘇の草原と畑がつながる循環の土。産地連携で磨いた安定供給。そして、日々の仮説検証で旬をつくる現場力。谷川トマト研究所は、ミニトマトという小さな果実に、阿蘇の大きな物語を宿らせます。阿蘇・高森のフィールドで研ぎ澄まされる味と仕組み。その進化は、これからも続きます。
農園データ
企業名:谷川トマト研究所
所在地:熊本県阿蘇郡高森町高森537
主な生産品目:ミニトマト
主な取り組み:有機・特別栽培、阿蘇の茅を使った堆肥による土づくり、地域連携・地域貢献、研修受け入れ

















