【プロフィール】
清水寅さん
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ねぎびとカンパニー株式会社 代表取締役 1980年長崎県生まれ。高校卒業後、金融系の会社に就職し、20代でグループ会社7社の社長を歴任。2011年より山形県天童市にてネギ農家を始める。2014年に法人化。1本1万円のネギ「モナリザ」など、贈答用ネギでブランド化。2019年に山形県ベストアグリ賞受賞。著書に『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』(2020年・講談社+α新書)。 |
木下太一郎さん
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株式会社ムソー 代表取締役会長 1990年に創業。食品輸送に取り組み、本社は愛知県。主に青果物を扱い、現在は全国9拠点。社名のムソーは「夢想」より。「全ての社員が夢を持ち、それを一生想い続けられる会社 そして、成長し続けられる会社を作りたい」という意味が込められている。 |
横山拓哉
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株式会社マイナビ 農業活性事業部 事業部長 北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。 |
農業の物流課題
横山:今日はねぎびとカンパニーの清水さんと、物流会社のムソーの木下さんに来ていただきました。(清水)寅さんは15年ほど前に異業種からネギ農家となり、さらに葱出荷組合zero(ゼロ)の立ち上げから物流にも取り組み始めましたよね。
清水:今でこそ複数の物流網がありますが、最初は東京までの1便しかありませんでした。近場の運送会社に「冷蔵便に空きは無いですか?」などと聞いて隙間に積んでもらうところからスタートしました。
横山:そんな中で、ムソーの木下さんとはどのように出会ったのですか。
清水:最初は何気なくムソーを使っていたんですよ。
木下:当社は北関東営業所に依頼をいただいたんですよね。営業所長から「清水社長と会う機会を持てた」と聞き、私もぜひお会いしたいということで山形に行きました。
横山:当時の印象はいかがでしたか。
清水:大きな物流会社の会長ですから、現場視点ではないのではと思っていたんですよ。だけど話をすると、よく分かっている。すっかり意気投合して、僕のアイデアを話したところ「一緒にやろう」ということになりました。
木下:青果物は旬でたくさん収穫できる時期に値段が下がり、量が減ると値段は上がります。この相場価格で取引をしていると生産者は振り回される面がある。清水社長とは初めて会ったときから「自分たちが相場価格のアブソーバー(衝撃吸収)役になりたい」という話をしていました。
清水:要は生産原価を割らずに一定の利益を出せる固定価格で流通させましょうよと。そうすれば農家も数字が合うし、僕はネギ農家ですから、ネギの数字は分かっているんですよ。
木下:これはコメでもやっていることですからね。「5キロいくらが妥当か」という議論と、まったく一緒だと僕は思っています。

相場価格から固定価格にしていくメリット
横山:消費者側のメリットではどうでしょう。
清水:消費者側も価格が安定しますよね。100円の時もあれば急に300円になったりと大幅に変動することがなくなります。
横山:同じように販売店や飲食店でも、年間の仕入れリスクは大きく軽減しますよね。
清水:そのとおりです。
木下:外食に使われている輸入野菜も、生産者が利益を取れるようになれば国産へのシフトもできると思います。
横山:生産者も企業も消費者にもメリットがある取り組みに感じますが、まだ火起こしの段階だと思います。現状は両社の扱う大量のネギでも、日本全体での流通量から見れば数パーセントかと思います。大事な活動だと思いますが、改革を広げにくいのではないでしょうか。
清水:流通量としてはまだ難しいところはあります。けれど僕らがやることで、他社も必然的にやり始めますよ。JAも固定価格を始めましたし、いろいろなところが少しずつ動き始めていますよ。
木下:風向きが変わってきていると感じますね。
清水:おそらく、葱出荷組合zeroでは2030年に栽培面積600ヘクタールを超えてくる。そうするとかなりの物流量になってくる。僕らのやることがトレンドになってきますよ。昔みたいに「安く仕入れて高く売る」ことはできない。「年間での利益率がこれだけ確保される」ということを重視する時代だと思っています。

葱出荷組合zeroのメンバーと清水社長
農業界と物流業界の共通点
横山:木下さんに伺いたいのですが、物流業界は人手不足や燃料高騰などの課題を耳にしますが、実際はいかがですか。
木下:「人材がいない」という点は農業界と一緒ですね。法律や制度が変わり、「やった分だけ稼げる」という時代でもなくなったため、トラックに乗ろうという若い子たちが減りました。人が減ればトラックの稼働率が下がります。僕が仕事を始めた1990年代は、とにかくトラックが車庫に止まっている時間がなかった。けれど、いま重視されるのは積載量。要は、1台にいかにきちんと多くの荷物を積むか。
そこで注目したのが青果物です。青果物は流通過程での温度管理に課題がある。トラックでは冷蔵で輸送しても、降ろす場所は常温だったり。夜中でも20度を超えるような暑いところに商品が置かれるわけです。それを僕ら物流側で流通・保管を改善すれば、今よりも鮮度を保てます。
運べるものを増やすことで積載効率も改善できる。青果物は今一番運ぶべきものだと思い、輸送を増やしています。2021年には九州産野菜の流通・販売を担えるように、株式会社ファスという別会社を宮崎県に立ち上げました。

流通の仕組みに風穴を明ける!
横山:両社がタッグを組んで挑戦しようとしている内容を教えてください。
清水:ネギの新たな物流ネットワークの構築です。ネギは長距離輸送によって先端の「葉」と呼ばれる部分が少し枯れてしまう。多くの人が食べずに捨てる部分なのに、葉が少し枯れるだけで流通できなくなっている。
今は、長距離輸送に懸念があるので関東の市場に送られて、供給過多となり値段が下がる。これを解決するためには、送った先で葉の部分をカットして全国に流通させること。これによって価格の安定を実現させたい。
横山:カットによるデメリットは無いのですか?
清水:無いです。段ボール代も安くなりますし、メリットしかありません。
木下:家庭で切って捨てる必要がなくなるので、家庭ゴミが減るという利点もありますよね。小売業者が課題とメリットを理解して積極的に扱うようになれば、生産者の手取りも増えていきます。僕も清水社長の知恵を聞きながら、これは他の青果物にも応用できると思っているんですよ。
清水:段ボールも小さくて済むし、積裁効率も上がるんです。例えばの話ですが、10トン車で2,000ケース載るところを、葉を切って2,300ケース載せたら物流コストも下がるじゃないですか。
横山:物流コストが下がれば、小売価格の抑制にもつながりますよね。カットする作業費の分はどうですか。
木下:もちろん作業費はかかるでしょうけれど、それ以上に価格の安定が大事だと思っています。相場価格で「昨日は1000円」「今日は3000円」とやっているより、常に安定した価格で動くほうが試算しやすい。だからこそ僕は、備蓄用の冷蔵庫や輸送の仕方などもチャレンジしようと。また野菜の売り場を持っているので、そこでカットしたネギを出してお客様の反応を見てみようと。今朝も実はそういう話をしてきました。「試してみよう」と。
産地の課題解決も実現する
横山:具体的に北海道の函館から九州だと、どのようになるのですか。
木下:僕はエア(空輸)で考えています。
横山:なるほど。空輸のほうが早い分だけ葉を枯らさずに届けられるのではないですか。
清水:やってみないと分からないところがある。エア問題があるんですよ。「空港では何時間置かれるのか」とか。
木下:トラックなら自分たちが積んだものが動き出す。でもエアは時間軸が違うので、清水社長の言うとおり、やってみなきゃ分からない。
横山:例えば「九州は青ネギ」というイメージもあります。そのような文化を持つ地域へ白ネギは受け入れられそうなものでしょうか。
清水:確かに昔はあまり無かったんですよね。でも、この5年ぐらいでやはり量は増えていますよ。だって僕らが出荷しているので。確かに西側は「冬は2Lサイズが欲しい」など文化は違います。ただ白ネギのシェア率は増えてきています。大分県の産地でも頑張って作っていますけれど、夏はどうしても難しい。さらに今は気候の問題でどんどん作りづらくなっています。だからこそ僕らがそこに供給をしていこう対談時の「ひろゆきがネギは全部中国産でよいね、とか勝手に言われると終わり」という発言からボカしてます。
清水:だからもしも影響力のあるタレントが「もう全て海外産でいい」などと言い出したらおしまいですよ。問題がぐちゃぐちゃになってしまう。今回の取り組みは、北から南へと届けると輸送距離が延びるという点では値段は上がる。けれど段ボール代を削り、積載率を高めることで相殺されると考えています。
横山:消費者を主語にしても、今回の両社の取り組みには価値があると思います。私としては長期的目線で見たときに食料安全保障は大事だと考えています。不確実性のある中でのリスクヘッジの観点で、国内での生産力や消費力、国力をどれだけ養うかは必要不可欠。ましてや農家が減ることはもう分かっている。子供や孫たちが将来、食べ物の心配なく暮らしていけるようにするためにも大事です。
清水:長期トレンドで考えて会話をしないとダメですよね。簡単に「輸入すればいいじゃん」ではない。世界の人口は100億に向かっていくわけで、おそらく食べ物の取り合いになるわけですよ。輸入できなくなれば、どうするのか。農地が荒れて、作る人も居なくなったときに、簡単に作れるものではない。

目指す世界
横山:最後に、お二人が将来的に目指しているものを聞かせてください。
木下:信頼しているお客様からは「国産の農家との契約や、仕入れを強くしないとダメだ」という声がどんどん出てきています。輸入に頼り過ぎるのではなく、国内でできるものは国内で生産すべきだと思っています。何より消費者には「日本の野菜はやっぱり美味しいな」という感覚が、必ずあると思っています。だからこそ僕ら生産者がせっかく一生懸命作った物を、いかにきちんと届けるか。そこで価格を安定させる仕組みを作りたいと思って、ここ数年やっています。
清水:短期的には、ネギの生産量を増やさなきゃいけない。1人当たりが作れる量を増やしていく仕組みを作っていくこと。そして新規就農者の参入障壁を下げるために、教えてもらえる環境をつくる。葱出荷組合zeroは、知識も、技術も、購買も共有しています。僕はいろんな講習会をしていますが、最近は1年目の参加者が多い。「なぜネギを始めるのか」と聞くと「他の野菜だと教えてくれる場が無いから」と言います。
長期的には、zeroで扱う量を増やすこと。物流量を増やし、輸送便を増やすことで物流費は下がりますし、僕の目指している単価の安定にたどり着けると思っています。
横山:お二人の挑戦が、どう農業や物流を変えていくのか。今から楽しみです!
(編集協力:三坂輝プロダクション)



















