“にし阿波”地域は、徳島県屈指の養鶏の産地
にし阿波と呼ばれる徳島県西部で、地域の基幹産業として発展してきた養鶏業。その背景には、稲作には不向きの中山間地という地域特性があります。1960年代に入り、日本でのブロイラー産業の普及とともに、山間の狭小地でも鶏舎が建てられることから参入する農家が増え、徳島県が全国のブロイラー生産量3位となった時期もありました。

にし阿波の閑静な山間に鶏舎が点在
とはいえ、小規模農家が多いため、他県で平坦な土地を活かした大規模経営の他県産地が増えてくると、生産量での勝負が難しくなっていきます。そこで、県を挙げて付加価値の高い地鶏の開発に取り組んで生まれたのが“阿波尾鶏”。旨味と歯ごたえのバランスのよさが人気となり、25年以上にわたって地鶏生産量日本一を誇っています。その約半分を生産しているのがにし阿波地域。養鶏業は同地域の農林水産業産出額の5割以上を占めており、まさに地域を支える産業なのです。
「将来に向けて更なる発展を目指していますが、一番の課題は担い手の減少です」
こう語るのは、にし阿波のつるぎ町で鶏肉の生産・加工を行う貞光食糧工業株式会社の代表取締役社長・辻貴博(つじたかひろ)さん。生産者の高齢化や後継者不足は全国的に共通する課題ですが、小規模鶏舎ゆえの作業効率の悪さや、飼育管理の負担からくる労働時間の長さなども、新たな担い手のハードルを上げている要素だといいます。

貞光食糧工業の3代目社長を務める辻貴博さん
就農希望者に寄り添う、充実した研修システム
そこで、にし阿波地域の養鶏業の活性化のために、2024年に設立されたのが「にし阿波・山のチキンファーム構想コンソーシアム」。貞光食糧工業などの民間事業者や県民局、市町など官民が連携し、地域が一体となり課題解決に向けて取り組み始めました。
人づくりのメインとなるのは、養鶏組合員の直営農場での研修を通じた、きめ細やかなサポート体制。まずは事前相談で何でも聞いてもらい、養鶏業に興味をもった人は1週間程度の飼養体験で適性を確認できます。本格的に取り組んでみたいと思ったら、農場で2〜3年間かけて飼育管理方法を習得。この研修期間は雇用就農となるので、給与を得ながら学ぶことができます。
「その後は、そのまま雇用就農で社員として働くこともできますし、独立希望の方もコンソーシアムでサポートします。ノウハウの提供はもちろん、資金面でも不安なく取り組んでいただけるような体制を整えています」と語る辻さん。鶏舎を建てるにはかなりの資金が必要になるため、貞光食糧工業などがもつ鶏舎をリースし、委託飼育契約という形で養鶏に専念してもらえるようにするとのこと。
作業の効率化や省力化に関しては、スマート技術の導入に向けた取組が進められています。
「昨年度から、温度や湿度など、環境データを測定できるセンサー機器を鶏舎内に設置し、スマートフォンを介してリアルタイムで把握できるようなシステムが導入されつつあります。遠隔監視ができれば大幅な省力化につながりますし、窓に自動カーテンを導入すれば遠隔操作の開閉による温度調節も可能です。現在、スマート飼育管理技術の確立に向け、県の農林水産総合技術支援センターを中心に取り組んでいます」と、コンソーシアムの事務局を担う県西部県民局の新居宏延(にいひろのぶ)さんは解説します。

県西部県民局の新居宏延さん(右)と國見吉広(くにみよしひろ)さん(左)
さらにコンソーシアムでは、加工品の開発や輸出も視野に入れた新たな販路開拓についても取り組む予定。生産から販売まで一貫したサプライチェーンの強化に取り組むことで、持続可能な養鶏業の発展を目指したいと、辻さんも國見さんも力強く語ってくれました。
頑張った分だけ、成果がダイレクトに返ってくる仕事
では、長年この地域で養鶏業に携わってきた辻さん、ずばり養鶏の魅力って何でしょう?
「雇用就農のかたちも安定していますが、独立すると自分の頑張りがダイレクトに収入につながるのが最大の魅力ではないでしょうか。生き物が相手なので、鶏がいかに暮らしやすく成長しやすい環境をつくるかがキモなのですが、そこが農家の皆さんの工夫のしどころで、大きなやりがいにつながる部分だと思います」
委託飼育契約は、ヒナと餌を会社側が供給し、農家が規定の日数まで育てて会社に出荷。ヒナ代や餌代などは経費として差し引かれ、代金が支払われる仕組みです。そのため、いかに死亡羽数を減らし、餌代を抑えて効果的な給餌で大きな体重の鶏を育てるかが大切。独立就農だと自由に飼育管理の工夫ができて、それが収入に直結するところが醍醐味だといいます。
鶏が大きく育った時のうれしさは格別!
コンソーシアムの取り組みに先駆けて独立を果たし、着実に収入を増やしている若手養鶏家がいると聞き、話を聞いてみました。道路工事関係の会社員から養鶏業という未知の世界に飛び込んだ、田中豪さんです。
「会社員時代は転勤族だったため、1か所に定住したかったのと、義父から養鶏業の魅力を聞いたのがきっかけです」

長崎出身で現在28歳の田中豪さん
妻となる女性の実家がつるぎ町で養鶏業を営んでおり、結婚を機に会社を辞めて徳島へ。頑張った分だけ自分に返ってくるという部分に田中さんも魅力を感じ、将来的な独立を前提に貞光食糧工業に入社しました。一般的には2〜3年かかるという研修を、わずか半年で修了したというところに、田中さんの本気度が伺えます。その後は半年間、義父の養鶏場を手伝い、少しずつ鶏舎を任されるようになりました。今年の4月に全鶏舎を引き継ぎ、現在は年間3万羽を育てています。

現在は、鶏の様子を見ただけで調子の善し悪しが分かるという田中さん
「鶏が心地よく過ごせるための環境づくりが大事なので、鶏の様子は日々きちんと見るようにしています。一番たいへんなのは温度管理ですね」と語る田中さん。猛暑が続く近年の夏は、鶏舎の窓のカーテンを全開にしたうえで、扇風機を回したり鶏に水をかけて体感温度を下げたりといった工夫が欠かせません。冬はガス暖房で鶏舎を温めながら、換気もしっかり行う必要があります。適温を保つのは簡単ではありませんが、田中さんは細やかなケアで成績を伸ばし続けています。

真夏は鶏舎の窓のカーテンを開けっ放しにして外の風を取り入れます
「いい環境がつくれた結果、鶏たちが大きく育った時は、ガッツポーズが出るくらいうれしいですね!」という田中さん、収入は会社員時代を大きく超えたといいます。育てているのはブロイラーと、より風味のよいブロイラーを目指してこだわりの餌で育てる“地養鶏”の2種類。どちらも出荷までの育成日数が50日弱で、現在の年間回転数は5回ですが、6回転している先輩農家もいるそうなので、今後の頑張り次第でさらに出荷羽数を増やすこともできそうだといいます。
では、田中さんの1日のタイムスケジュールを聞いてみましょう。
「大体5時に起きて6時頃に鶏舎に着き、まずは鶏の様子をチェック。その後は、温度が鶏に合っているかを見回りしながら、鶏舎内にトラブルがないかも確認します」
床が糞で湿っていたら、敷き詰めてあるチップの上下を返したり新たなチップを足したりして、衛生管理を行います。さらに、出荷後で空になった鶏舎があれば、水洗いなどの掃除を行うことも。こうした作業の合間にも、時間があれば1日5〜6回は鶏の様子をチェックするといいます。そんな細やかな管理が、鶏の健やかな成長につながっているのでしょう。

餌や水は自動で供給されるシステム。温度チェックや床チップの返しなどの環境整備は手間を惜しみません
夜の状況も推測しながら環境を整えているため、仕事を終えるのは16時30分頃。その後は保育園に子どもを迎えに行き、仕事の終わりが遅い妻に代わって夕食も田中さんがつくるそう。自分の時間も過ごしつつ、21時30分頃に就寝という、充実したワークライフバランスです。今春から1人雇用したことで休日もとれるようになったという田中さん、コンソーシアムによるスマート技術が導入されれば、さらに効率化が図れそうだと期待を寄せています。
「将来はもっと規模を拡大して法人化し、若い人たちが充実して働ける環境をつくりたい。養鶏は頑張り次第で収入も休みも増やせる仕事。チャレンジ精神のある人には楽しいと思うので、もっともっと若い仲間が増えてほしいです。」
気軽にトライできるインターンシップを実施中
現在コンソーシアムでは、今年の12月まで、飼養体験よりさらに気軽にトライできる「にし阿波養鶏業インターンシップ」の参加者を募集中。養鶏に興味がある人を対象に、1〜3日間程度の短期間、養鶏農場での仕事を体験してもらうというもので、体験料は無料です。
交通費や食事代などは自己負担となりますが、現地での宿泊は農家民宿などを提供し、1泊5000円の宿泊費を補助。「のどかなにし阿波地域の雰囲気や、食の豊かさも味わってもらいたい。お米や野菜、もちろん鶏肉も美味しいですよ!」と辻さん。体験型旅行感覚で養鶏の世界を知ることができる格好の機会ですので、関心のある人はぜひ応募してみてはいかがでしょうか。
【お問い合わせ】
徳島県西部総合県民局農林水産部<美馬>農業支援担当
にし阿波・山のチキンファーム構想コンソーシアム事務局
〒779-3602
徳島県美馬市脇町大字猪尻字建神社下南73
TEL:0883-53-2312
FAX:0883-53-2085
E-mail:seibu_nrs_mm@pref.tokushima.lg.jp















