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【開催レポート】ふるさとへの誇りを繋いでいく ~令和7年度 農村プロデューサー養成講座 入門コース「地域づくり実践分野(2)」~

【開催レポート】ふるさとへの誇りを繋いでいく ~令和7年度 農村プロデューサー養成講座 入門コース「地域づくり実践分野(2)」~

地域への愛着と共感を持ち、地域住民の思いを汲み取りながら、地域の将来像やそこで暮らす人々の希望の実現に向けてサポートする人材である「農村プロデューサー」への成長を目指し、入門コースでは地域づくりに造詣の深い方々を講演者として招いて、農山漁村地域における創意工夫にあふれる地域づくりのプロセスの習得を目的とした講演を実施しています。
本レポートでは入門コース 第6回「地域づくり実践分野(2)」の講演内容を抜粋し掲載いたします。

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【令和7年度】農村プロデューサー養成講座
入門コース 第6回 地域づくり実践分野(2)
講師:プロジェクトおおわに事業協同組合 副理事長 相馬 康穫 氏

第一章:リゾート開発の失敗「元気がない町」

私は、青森県と秋田県の県境に位置する大鰐町で、酒屋を営んでいます。大鰐町は、800年の歴史を持つ温泉郷であり、江戸時代からの歴史がある大鰐温泉もやし、東北で3番目に古いスキー場、そして日本一と評されるリンゴの産地として知られています。しかし、昭和60年代から平成の初めにかけて、国のリゾート法に乗って開発した大規模なリゾート開発がバブル崩壊の煽りを受け、わずか7年で破綻しました。

この失敗により、町は「第2の夕張」「借金の町」と報道され、地域は自信を失いました。大人たちはこぞって子どもたちに「この町はもうダメだ。勉強して都会へ出ていいところで働いてくれ。帰ってきても仕事はないぞ」と言うのが口癖となり、町全体が負のスパイラルに陥っていました。このままでは町が本当に廃墟になってしまうという危機感から、2007年に私を含めた有志は地域おこしグループ「OH!!鰐 元気隊」を立ち上げ、町の再生に向けた活動を開始しました。立ち上げ当初にも関わらず、私たちの呼びかけに多くの町民に賛同いただき会員となってくれました。この力強いスタートが、私たちの原点です。

第二章:再生に向けて〜子どもたちへの意識改革〜

私たちが策定した12のアクションプランの核となったのが、小学生を対象としたふるさと教育「OH!!鰐元気隊キッズ」です。この活動は、子どもたちに「自分たちの町はダメじゃない」と気づいてもらうために始めました。今も続く息の長い取り組みです。

活動は、町内の清掃活動と野菜作りが中心です。活動中、私たち大人は「町の悪口は一切言わない」というルールを徹底し、大鰐の農産物や温泉がいかに素晴らしいか、町出身者が全国でいかに活躍しているかなど、夢と希望を与える話だけを子どもたちに語りかけます。そして、活動に真面目に参加した子どもたちへの”ご褒美”として、毎年秋に東京にある青森のアンテナショップで開催する「大鰐フェア」での販売体験に参加する権利が与えられます。

東京へ向かう前には、物流の仕組みや接客マナーを教え、人生で初めての名刺を作らせます。子どもたちは最初こそ恥ずかしがりますが、自分たちで作った野菜が売れる喜びを知ると、目を輝かせて販売接客に没頭します。そして活動のハイライトが、東京で活躍する青森県出身の著名人や大鰐を応援してくれている方を招いた「交流パーティー」です。子どもたちは、大手企業の社長や有名大学の副学長といった憧れの大人たちと名刺交換をし、「大鰐はすごい人たちに応援されているんだ」と実感します。

この経験を持ち帰った子どもたちが、家庭で「大鰐はダメな町じゃないよ!」と語ることで、今度は親たちの意識が変わります。「自分の子どもに何てことを言っていたんだろう」と、多くの親御さんから感謝と反省の手紙が届くようになりました。この地道な活動を通じて、町のムードは劇的に改善。元気隊キッズの卒業生たちは、ふるさとへの愛を胸に、Uターンして家業を継いだり、町役場で活躍したりと、次世代のリーダーとして町の再生を担い始めています。

第三章:再生に向けて〜事業活動による地域活性化〜

子どもたちとの活動と並行して、大人たちも町の経済を立て直すべく動き出しました。町の中心施設でありながら赤字経営に陥っていた地域交流センター「鰐come(ワニカム)」の指定管理者に、私たちは「指定管理料ゼロ」という厳しい条件にも関わらず手を挙げました。「この施設を失えば、町は本当に終わる」という一心で、「OH!!鰐 元気隊」から発起人と出資者合わせて9人で事業協同組合を設立し、人生をかけた挑戦が始まったのです。

徹底した社員教育と「おもてなし」の心、そして業者に頼らない手作りのイベント運営で、初年度に奇跡的な黒字化を達成しました。特に私たちが重視したのは、常にお客様を飽きさせない工夫です。毎月のように店舗の改装や模様替えを行い、訪れるたびに新しい発見があるような空間づくりを心がけました。この姿勢がリピーターを呼び、東日本大震災やコロナ禍で二度の経営危機に見舞われながらも、色んな方から協力を得ながら、その度に乗り越え、今では全国から視察や企業体験が訪れる施設へと成長したのです。

この鰐comeを拠点に展開したのが、地域内の経済循環を生み出す「コミュニティビジネス」です。私たちは、規格外でこれまで廃棄されていた農産物(B品・C品)に価値を見出し、全国の飲食店への販路を開拓しました。当初協力してくれた農家は少数でしたが、実績を上げるにつれ協力農家は100軒に増え、売り上げは年間5,000万円を超えています。破棄する生産物から生みだされた、この「新しいお金」が、農家の農機具購入や自宅のリフォーム、地元商店での買い物につながり、町全体の商工業を潤す好循環を生み出しているのです。

さらに、町の宝である400年の歴史を持つ「大鰐温泉もやし」の維持再生にも取り組みました。

「大鰐温泉もやし」は生産手法が一子相伝の掟があったため後継者が途絶えかけていましたが、組合を説得して新規就農者の育成を開始。私たちが育成した生産者も加わり、生産体制を再構築しました。徹底したブランディングと販路開拓の結果、「日本一高くて美味しいもやし」として全国に知られ、生産が追いつかないほどの人気を博しています。伝統を守るだけでなく、時代に合わせて変革することで、新たな価値と雇用を生み出したのです。

第四章:活動を通して町おこしに重要なこと

15年以上にわたる挑戦を通じて、町おこしに不可欠なことがいくつか見えてきました。一つは商売十訓にもある「創意を尊びつつ、良いことは真似てよし」という考え方です。全国の成功事例から謙虚に学び、自分たちの地域に合わせて実践する。私たちが開催している手作りの花火大会も、東京の花火屋さんの取り組みを学んだことから始まりました。

次に、「おもてなし」の徹底です。お客様一人ひとりの名前を覚え、心からの感謝を伝える。私が30年間、毎日3枚のお礼状を書き続けているのも、一度きりの名刺交換を一生のご縁に変えるためです。この地道な積み重ねが、企業の協力や全国からの応援につながっています。

そして何より重要なのが、子どもたちの世代から、ふるさとへの誇りと愛情を育むことです。大人が町の未来を諦めたら、その町に未来はありません。私たちは、自分たちの町は素晴らしいのだと胸を張って語り、その思いを次世代に繋いでいく必要があります。私たちの活動は、オセロゲームのようなものです。少し油断すれば黒にひっくり返される。町が真っ白になるまで、私たちは挑戦を続けていきます。

これから農村プロデューサーを目指す皆さんにお伝えしたいのは、町おこしは「総力戦」であり、その原動力は「人」であるということです。私たちの原点は、町の未来を諦めた大人たちの言葉から、子どもたちの心を守りたいという一心でした。どんなに厳しい状況でも、まずは足元にある宝を磨き、謙虚に学び、そして何より次世代にふるさとへの誇りを繋いでいくこと。その地道な活動が、やがて地域全体の意識を変え、大きなうねりを生み出します。皆さんの熱意と行動が、未来のふるさとを創るのです。

本レポートは令和7年8月8日に行われた「農村プロデューサー養成講座」入門コース 第6回 地域づくり実践分野(2)(講師:相馬 康穫 氏)の講義を元に、一部内容を抜粋して編集しました。

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