コメ増産への政策転換
2025年、米の店頭売価の平均が4,000円/5kgを超え、前年比で2倍近い価格となったことから社会問題化した。2025年1月31日には、この事態に対して政府は「今の市況相場よりも安価な価格で、政府備蓄米(以降、備蓄米と記載)を市場に放出することを厭わない」とし、備蓄米の運用について見直しを行い、米の流通が滞っている場合にも放出できるようルールを変更した。そして、3月には競争入札によって売渡し先を決定する形で備蓄米の放出を行い、その後、随意契約にて小売業への直接の備蓄米の放出を行った。
備蓄米放出の背景は、コメ不足であった。政府も2025年の当初は「米はある。流通がスタックしていることが米価高騰の要因である」としていたが、7月下旬には「米が不足していた」ことを認めるに至った。そして、8月上旬には政策としてコメ増産へシフトしていくことが閣議決定された。
1970年から2017年まで減反施策が続き、2018年からは生産調整という名のもとにコメの生産は縮小を余儀なくされてきた。コメ増産への転換は5年続いた「コメを減らす」施策からの脱却であり、大きな転換点であると言えよう。
コメ増産における2つのアプローチ
コメの増産に向けたアプローチ方法は大きく2つある。
一つはコメを生産する面積を拡大することで、生産量を増やすアプローチである。これに向けて国は耕作放棄地の活用などをあげているが、そのためには基盤整備などが必要になる。また、飛び地の細かい田んぼを増やしても生産効率が大きく落ちてしまうため、面積拡大にあたっては圃場の集約・大規模化と合わせて進めていく必要がある。生産者個人で圃場を引き受け、拡大していくだけでは限界があるため、面積拡大・集約化については基盤整備も含めて、国や自治体の補助金等を上手く活用していく必要がある。
もう一つは、単位面積あたりのコメの生産量を増やす単収増加や、担い手1人あたりの生産量を高めるような生産性向上のアプローチである。このアプローチでは、多収品種の採用や、生産効率を高める技術の採用がポイントとなる。スマート農機の導入や、乾田直播、再生二期作などの取り組みが各地で進められている。このアプローチをとる場合、自分の圃場の状況(土壌の状況、水はけ、水路、1枚の大きさ、畦道…等)、経営の状況(モノ・ヒト・カネ)を的確に把握したうえで、適した技術を選択することがポイントとなる。また、農機・農法・IT技術について、自治体や各種団体等が実施している研修会等を通じて、しっかりと学ぶ方法を確立することも重要だろう。

コメ増産はすべきなのか?
ここまで、政府のコメ政策の増産への転換と、増産に向けた基本的なアプローチを紹介してきたが、コメ増産について生産者としては「コメが余って、また価格が大暴落するのではないか」という不安が拭いきれないだろう。令和7(2025)年産の新米は1俵30,000円程度の相場となっているが、今後、生産量が増え、需給が落ち着いてきたタイミングでは1俵20,000~25,000円程度の相場になる可能性がある。特に現在では、備蓄米の在庫が放出によって大幅に少なくなったことから、令和8~9年までは政府が備蓄米の買い入れ量をもって需給調整を行い、1俵2万円以上の相場を維持する可能性が高いと考えられる。しかし、コメの大増産が行われた場合、その後、大幅に供給が需要を上回り、1俵1万円台まで価格が下がる可能性もゼロではない。
では、生産者は「コメ増産への転換」が見込まれるなか、今後、どのように稲作経営を考えればよいだろうか?
その答えは、自社の稲作経営のビジネスモデルの確立である。自分たちは、「どのような顧客」をターゲットにして、「どのような品質の米」を、「どのような生産方法」で生産し、「どのように販売」して収益を上げていくのか、自社の稲作経営のビジネスモデルを明確化する必要がある。
例えば、有機にこだわった稲作を行う場合、マーケットの規模は小さいものの、ニッチなニーズに対応することで高単価販売できる可能性がある。そのため、ビジネスモデルとしては、「有機の米を求める顧客を開拓し、安定して高単価で販売できる体制を構築することで、増産による米価下落が起こったとしても影響を受けずに収益が確保できる」ような、少量販売ながらも高付加価値で販売することで収益を上げるモデルとなる。
真逆のビジネスモデルとして、大規模化を進めていくような経営方針の場合、「生産性を高めることで1俵あたりの生産にかかるコストを抑えることで、増産による米価下落が起こったとしても、下落した米価でも収益があがる」ような、薄利多売で生産量を増やしていくようなモデルとなる。

ビジネスモデルイメージ(作成:折笠俊輔)
自分の農業経営のビジョンや理念から、どのような需要に対応する稲作経営を行うのか、その場合に必要な技術や販路はどのようなものなのか、しっかりと考えてビジネスモデルを構築していく必要がある。このビジネスモデルの構築にあたっては、コメ政策が減産から増産に転換されたことで、今後、国や自治体による様々な補助制度の展開が見込まれるため、それを上手に活用していくことも考えたい。
今までのコメ生産は、減っていく需要に合わせて生産を減らす形での需給調整がなされていたため、人口が減っていき、高齢化が進む日本においては、規模縮小と衰退の未来しかなかった。今回、国として米の増産に舵を切ったことで、供給を絞る需給調整ではなく、需要を創造することによる需給調整となれば、コメ生産としても成長の道が開かれることになる。まさに今、コメ生産の大転換期を迎えつつある。大きな変化が起こる時には、大きなチャンスも転がっている。ぜひ、そのチャンスをものにして欲しい。
















