高温耐性・多収性にも着目、新時代の米銘柄20選

もはや亜熱帯ともいえる日本の気候。ここ4〜5年で夏場の平均気温は確実に上昇し、稲作を取り巻く環境は大きく変化しています。高温や水不足の影響で収量が落ち込む品種がある一方で、こうした厳しい条件下でも安定した収穫を実現する銘柄が注目を集めています。高温耐性と多収性を兼ね備えた品種は、まさに現代の気候に適応した新時代の米といえるでしょう。
本記事では、甘み(もっちりーあっさり)と硬さ(やわらかーしっかり)の二軸で20銘柄を分類。この食味チャートを道しるべに、山下さんには各銘柄のもっともおいしい食べ方や、日々の食卓での楽しみ方をご指南いただきました。
お好みの食味で選ぶもよし、お気に入りの料理に合わせて選ぶもよし。それでは早速、令和7年産の注目銘柄をご紹介していきましょう。
もっちりやわらか系銘柄米5選

やさしい粘りとふっくら感が魅力。味の濃いおかずを包み込み、魚料理に合うものから肉料理と好相性のものまで幅広くラインナップ。食べ慣れたコシヒカリ(新潟県産)と同じ食味に位置づけられ、家庭の食卓にも馴染みやすい一方で、それぞれの産地や開発背景が光ります。
ゆめぴりか(北海道)
甘く濃い味わいと粘りが特徴。やわらかいながらも粒の骨格はしっかりとしており、味の濃いおかずを包み込む力があります。ご飯のお供には、昆布などの佃煮が好相性。北海道が良食味米を目指して1980年に始めたプロジェクトから生まれ、1997年に交配、約10年の育成を経て誕生。2009年に優良品種として認定され、現在も北海道のみで栽培されているブランド米です。
だて正夢(宮城県)
もちもちとした食感で、噛むほどに甘みとうまみがあふれだします。まるでうるち米ともち米の“ハーフ”のような味わいで、すき焼きなど味の濃いおかずと相性抜群。良食味米を育んだ宮城県が、炊き上がりのもちもち感を徹底的に追求。12年の歳月をかけて育成し、2018年に誕生した注目のブランド米です。
福、笑い(福島県)
香りと甘み、ふくよかさが持ち味。大粒でバランスに優れ、納豆や山形の「だし」といった粘りのあるご飯のお供と一体感のあるおいしさを生み出します。コシヒカリ系統を母、ひとめぼれ系統を父に持ち、14年かけて開発。2019年には福島県の奨励品種になりました。GAP認証を取得した生産者だけが栽培でき、玄米タンパク質6.4%以下・ふるい目1.9ミリ以上という厳しい基準を満たした米のみが「福、笑い」を名乗ることができます。
にじのきらめき(茨城県ほか)
大粒で存在感のある「にじのきらめき」は、コシヒカリに匹敵する食味を持ちながら、高温耐性と多収性を備えた注目の新品種です。しっかりした粒感は、米粒と同じ大きさに挽いたハンバーグなどの肉料理と好相性。粒の一つひとつがほどよく主張し、食卓に新しい楽しみをもたらします。農研機構が気候変動に強い米として開発し、北関東を中心に栽培面積を広げています。
あきさかり(福井県)
「コシヒカリ」と「キヌヒカリ」の交配から生まれた、甘みともっちり食感が魅力の福井県産ブランド米。比較的、畜産堆肥が少ない地域ならではの特性で、収穫したての米に臭いが少ないのも特徴。ほどよい粘りと上品な味わいがあり、焼き魚や巻きずしなど魚との相性が抜群です。畜産が盛んでない地域ならではの特性として、収穫したての米に堆肥臭が少ないのも特徴。2009年に奨励品種に登録され、地元でも親しまれています。
もっちりしっかり系銘柄米10選

噛むほどに甘みを感じる弾力があり、粒の存在感もしっかり。ご飯そのものが主役になるタイプです。濃い味付けのおかずや揚げ物、丼ものを力強く受け止め、食べ応えのある一膳を実現します。東北の産地から、関東、北陸、東海、そして南国・鹿児島まで、日本各地で開発された銘柄が勢ぞろい。なかには高温耐性や多収性を備えた新品種も多く、これからの気候や栽培条件に適応する“新時代の良食味米”として期待されます。
青天の霹靂(青森県)
ほどよいツヤとやわらかな白さに、上品な甘みが調和する青森県のオリジナル品種。粒の均一感が際立ち、粘りとキレのバランスが良く口に広がる新食感は、まさに“おかずいらず”。一汁三菜でご飯が主役になる存在です。「誰もが驚く旨さ」を目指して開発され、青森のブランド米として高い評価を得ています。
つや姫(山形県)
白くつややかな炊き上がりと整った粒立ちで高評価を得る「つや姫」。甘みが豊かで、うまみ成分であるグルタミン酸を多く含むため、同じくうまみ成分のイノシン酸が豊富な動物性食材との相性が抜群です。うなぎなどと合わせれば、口内調理でうまみが重なり合い格別の味わいに。100年前に庄内町の篤農家が育てた良食味米「亀ノ尾」の系譜を受け継ぎ、山形県立農業試験場庄内支場(当時)が開発した、山形県を代表する最上級米です。
雪若丸(山形県)
大粒でもっちりとした弾力のある食感と、際立つ白さとツヤ。時に「男らしい」と評される食べ応えのある食感が特徴です。具だくさんの太巻きも成形しやすく、口に入れたときの粒のほどけ具合も抜群。良食味米「つや姫」の弟分として育成され、2018年に本格デビューした山形県オリジナルのブランド米です。
天のつぶ(福島県)
福島県が15年かけて開発したオリジナル品種。しっかりとした粒立ちで噛むほど甘みが広がり、香り高くつややかで、冷めてもおいしいのが特長です。力強い粒感は、揚げ物の中でもパン粉のザクザク感が際立つフライと好相性。厚切りトンカツ定食で、その存在感を存分に味わえます。
ゆうだい21(栃木県)
宇都宮大学が育成した、国立大学発のブランド米。2010年の品種登録以降、数々の品評会で最高賞を受賞し、業界を席巻してきました。大粒で噛むほどに甘みが広がり、強い粘りと弾力を持ちながら冷めても変わらぬおいしさが特長。丼ものの具をしっかりと受け止めます。高温耐性にも優れることから、栽培面でも期待される存在です。
とちぎの星(栃木県)
ぷっくりと大粒で、豊かな甘さが際立ちます。粒の外はしっかり、中はやわらかい”逆アルデンテ”食感。おにぎりにすると表面は硬めで崩れにくく、形を保ちながらもほぐれやすいため、大粒の集合感を楽しめます(ちなみに俵形おにぎりは箸で食べるため、より粘りのある米が向くそうです)。栃木県農業試験場で開発され、2011年に登録申請されたオリジナル品種。暑さ・病気にも強く、栽培のしやすさでも期待の星です。
一番星(茨城県)
茨城県の早場米産地で、お盆前後に収穫できる極早生品種として誕生した県オリジナル米。大粒で粘りがあり、もちもちした食感が特徴です。“味の足し算”が得意なお米で、具材の風味をしっかり吸収するため「炊き込みごはん」に最適。夏の新米としていち早く出回り、季節の食材と合わせれば豊かな味わいを楽しめます。
ひゃくまん穀(石川県)
2019年にデビューした石川県のオリジナル品種。晩生ならではのゆっくりとした生育で、一粒一粒が際立つ大粒感とほどよい粘りのバランスが絶妙です。しっかりした食べ応えがあり、冷めてもおいしいのも特長。いわば「青天の霹靂」の大粒バージョンともいえるオールラウンドプレイヤーで、甘みが控えめなぶん、西日本風の白酢を使った握り寿司と好相性です。
女神のほほえみ(愛知県)
愛知県豊橋市で偶然発見された特別変異米から育成され、2018年に品種登録された東三河発のブランド米。奇跡のお米とも呼ばれ、今後の拡大が期待される注目品種です。大粒でほどよい粘りと甘みがあり、冷めてもおいしいのが特長。すっきりとした甘みをもつ白酢の握りに合わせれば、米の粒感とうまみが際立ちます。
あきほなみ(鹿児島県)
鹿児島県生まれの品種で、日本穀物検定協会「令和6年産米の食味ランキング」で前年に続き特Aを獲得した実力派。粒が大きく粘り強く、ほどよい硬さに香りとツヤも備えています。焼肉との相性は抜群で、黒豚やホルモン系のガツと合わせればご飯がどんどん進みます。出穂期が遅いため高温による品質低下を受けにくく、収量性にも優れることから、今後ますます期待される銘柄です。
あっさりやわらか系米銘柄2選

軽やかな口当たりで食べやすく、毎日の食卓に取り入れやすい。炊き上がりはつややかで、噛むほどにやさしい甘みが広がります。雑穀や玄米をブレンドしても調和が際立つタイプ、粉ものとの“ダブル炭水化物”に好相性のタイプ、それぞれに個性が光る2銘柄です。
銀河のしずく(岩手県)
岩手県の気候風土に合わせて開発され、2015年に奨励品種として登録された県オリジナル米。炊き上がりは白くつややかで、軽やかな食感とほどよい硬さを持ち、噛むほどに甘みが広がります。よく咀嚼して味わいたいからこそ、雑穀や玄米をブレンドしても調和が際立ち、健康志向の食卓にもなじみます。
おいでまい(香川県)
香川県農業試験場が地元の気候・風土に合わせて開発し、2014年に品種登録された県オリジナル米。高温耐性があり、粒ぞろいで白くつややか。甘みとうまみを備えながらも粘り気は控えめで、ほどよいライト感が食べやすさを生み出します。粉ものとの“ダブル炭水化物”にも好相性で、お好み焼き定食や香川らしいうどん定食で双方が主役を務めます。
あっさりしっかり系米銘柄3選

白くつややかで粒感がしっかり立ち、冷めてもおいしさが続く「あっさりしっかり系」。軽やかな甘みと引き締まった食感で、ご飯単体でも存在感を放ちます。米から調理する中華粥やリゾット、冷めてもおいしい弁当や寿司まで料理の幅を広げてくれるタイプです。さらに日本酒と合わせて余韻を楽しめる銘柄も魅力です。
ななつぼし(北海道)
北海道を代表するブランド米で、道内作付けの半分を占める品種。あっさりとした甘みとほどよい粘りがあり、冷めてもおいしいのが特長です。しっかりとした粒感があるため、米がご飯に変わる瞬間の水分をたっぷり含んだ「煮えばな」は格別。中華粥など米から調理する料理で深みを増し、少なめの水で硬めに炊いておけば再加熱時に味がなじみやすく、リゾットにも向いています。
まっしぐら(青森県)
青森の気候に合わせて開発され、県内全域で広く栽培される主要銘柄。粒ぞろいでハリがあり、収量性やブレンド適性にも優れた頼れるブランド米です。適度な弾力と粘りをもち、さっぱりとした味わいながら食べ応えも十分。時間が経っても固まりにくいためお弁当に最適で、日の丸弁当や幕の内弁当ではおかずやご飯のお供を引き立てます。
富富富(ふふふ/富山県)
富山県がコシヒカリをベースに改良を重ね、2020年に登録したブランド米。夏の高温や病気、倒伏に強い栽培特性を備えた、将来性豊かな品種です。噛むほどに甘みとうまみが広がり、雪解けのように口の中でほどける食感が魅力。冷めても硬くならずおいしさが続き、咀嚼を楽しむ地鶏や親鳥の焼き鳥丼、きじ丼と好相性です。余韻には米の風味が心地よく残り、日本酒と一緒にじっくり味わいたい銘柄米です。
個性豊かな銘柄新米、器との組み合わせで魅力を引き出す

日本各地から出そろった20の銘柄米。新米の季節は、さまざまな品種を試せる絶好のチャンスです。米価の高騰で以前より割高に感じられるかもしれませんが、本記事の食味チャートをヒントに「マイ・フェイバリット・ライス」を見つけてみませんか。
なかでも「にじのきらめき」「ゆうだい21」「とちぎの星」「天のつぶ」は、未来志向の高温耐性品種として特筆すべき存在です。病気に強く良食味を実現したこれらの品種に加え、南国・鹿児島生まれの「あきほなみ」も大いに注目されています。いずれも粒が大きく、しっかりとした食べ応えが魅力的です。
食味チャートにおいて「もっちり」と「あっさり」の境界付近に位置する銘柄は、ブレンド米の素材としても優秀です。なかでも「しっかり」寄りの品種はブレンド時の調和性に優れ、「やわらか」寄りの品種は個性を際立たせる効果があります。これは、今年から大手コンビニチェーンで米のブレンドマスターを務める山下さんならではの、実践に裏打ちされた貴重な見解です。

さらに新米をおいしくいただくために、ぜひ試していただきたいのが器選びです。ポイントは、炊いたご飯が茶碗から離れやすいかどうかにあります。
もっちりやわらか系には、釉薬をしっかりと施した唐津焼がおすすめ。ふっくらとした食感が一層引き立ちます。その対極のあっさりしっかり系になるほど、漆器や木製の器と好相性。すっきりとした後味と調和します。今回数多くの銘柄が挙がったもっちりしっかり系なら、滑らかな磁器の有田焼が最適。端正な仕上がりで、しっかりとした食感を上品に演出します。その対極のあっさりやわらか系は、焼き締めの備前焼で軽やかさを表現。素朴な風合いが米本来の味わいを際立たせます。
器との相性まで加味して丁寧にいただけば、令和7年産新米の魅力を一層堪能できるはずです。今年だからこそ味わえる、特別な新米体験をぜひお楽しみください。
監修:山下治男(お米のやました山下食糧株式会社 代表取締役社長)

















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