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果樹栽培を省力化するカギは樹勢にあり 主要作業時間を3~5割軽減するリンゴジョイントV字栽培とは

kawashima_reijiro

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果樹栽培を省力化するカギは樹勢にあり 主要作業時間を3~5割軽減するリンゴジョイントV字栽培とは

リンゴは収穫の機械化が難しい果樹だ。手作業による収穫は過酷でありながら、同時に繊細さも求められる。はしごに登り、下から木の内部に入り込み、一玉ずつ丁寧にもぎ取る必要があるため、現在までリンゴの機械収穫は実用化されていない。しかし別のアプローチで効率化を図る方法がある。「樹勢を工夫する」ことで、収穫を省力化する手段だ。その代表例が「リンゴジョイントV字栽培(以下リンゴJV栽培)」である。

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園地拡大を機にリンゴJV栽培に取り組む


リンゴJV栽培に宮城県でいち早く取り組んできたのが、登米市の千葉隼人(ちば・はやと)さん。奥様とご両親で1.5haの園地を管理し、そのうち約50aでJV栽培を導入している。栽培品種は20種以上。主力は「ふじ」だが、9月から11月末まで途切れなく収穫できるよう新品種にも挑戦している。

「祖父の代から70年近くリンゴを続けていて、私は3代目になります。私の代でリンゴを広げようと考えたとき、両親が続けてきた慣行樹形では、剪定に高い技術が求められるうえ、労働時間が長く過酷であることがネックになると考えました。将来を考えたとき、『このままでやり切れるのか……』と不安に感じたのです。そこで新たに省力樹形に挑戦しようと決断したのです」

収穫を含めた栽培管理の省力化と軽労化を実現

リンゴJV栽培はジョイント仕立ての一種で、側枝を斜立させて仕立てる栽培方式。ジョイント仕立てとは、主枝を片側一方向に水平誘引して、隣接樹と接ぎ木で連結させ、複数樹を直線状の集合樹に仕立てる方式で、神奈川県で開発された技術である。

千葉さんをサポートしている宮城県東部地方振興事務所登米地域事務所農業振興部先進技術班の技師・佐藤優衣(さとう・ゆい)さんが、取り組みの背景を教えてくれた。

宮城県農業・園芸総合研究所におけるリンゴJV栽培の試験例。千葉さんの園地では「ふじ」/M26で取り組んだ

「リンゴJV栽培は早期成園化や省力化・軽労化だけでなく、機械化やロボット化の可能性を高めるものです。宮城県農業・園芸総合研究所では、ジョイント仕立てをリンゴに適用すべく2009年から開発して来ました。それを県内で初めて実装してくれたのが、千葉さんなんですよ」

千葉さんが続けて、導入の経緯を説明してくれた。

「JV栽培を始めて今年で13年目になります。父が年に一度、宮城県農業・園芸総合研究所に講習に行っていたのですが、その時、講師の先生に見せてもらったのがJV栽培でした。丁度うちでリンゴを広げようとしていたタイミングでした」

2017年に初導入した圃場の、定植から7年目(2023年4月21日)の様子。V字に仕立てられた樹が直線的に植えられており、見るからに作業しやすそう!

同じ圃場の、定植から8年目、収穫期(2023年)の様子。列に向かって立てば自然と作業ができ、横に移動しながら作業できるから効率的だ

千葉さんがJV栽培を導入したのは2017年で、その時は10aの圃場で始めた。2022年には41aへ面積を広げ、その後更に9aを加えるなど着々と拡大している。

「収量が慣行樹形に劣らず安定している、という大前提のもとで、作業効率が良い! その効果はヒシヒシと感じていますね。収穫を手伝ってくれているパートさんが『楽しい!』と、時間を忘れて作業してくれています。慣行樹形では木をぐるっと回って収穫する必要がありますが、JV栽培では横に移動しながら収穫できます。はしごを使う機会も減り、危険も少ない。体感ですが、同じ年数の木なら収穫時間は半分ほどに短縮できると思います」(千葉さん)

摘果・防除・除草作業では、年間作業時間を約3割削減

収穫の効率化について手ごたえを語る千葉さんだが、このほかにも収穫物を集めやすく、運搬車の導入もしやすい点、園内での動線が直線的になるため、効率が格段に向上する点もメリットとしてあげた。

これを受けて佐藤さんは「JV栽培は、収穫以外の作業でも、省力化・軽労化を実現します。摘果・防除・除草作業については、年間作業時間を約3割削減できます。また、将来的には、自動運搬車・自動防除・自動除草を導入すれば、作業時間を最大5割削減できる可能性があります。樹形が平面的であるため無理な姿勢での作業が少なくなり、軽労化も実現します」と補足してくれた。

農業従事者の減少と高齢化が同時進行する農業生産の現場では、JV栽培が実現してくれる省力化と効率化は大きなメリットとなるに違いない。

もちろん課題もある。その1つが初期投資だ。佐藤さんによると、10a当たり約160万円(支持棚・苗木費用)が必要になるという。また、導入初年度に限ってだが、ジョイント作業が必要となる。こちらは10aあたり約12時間20分の作業時間を要する。また、リンゴは寿命が長く、樹の更新には数十年単位が必要となるが、JV栽培した木の寿命はまだ検証中であり、長期的な安定性は未知数でもある。

未収益期間が短いことも利点

登米市は宮城県内でもリンゴJV栽培の導入が比較的進んでおり、2023年時点でリンゴ園地25haのうち約1haがリンゴJV栽培であるという。佐藤さんは今後の普及に期待を寄せている。


「慣行樹形では安定収量まで定植から4~5年かかりますが、リンゴJV栽培では3年目から着果が開始し、4年目には安定収量に近づきます。新規参入者にとって未収益期間を短縮できるのは大きな利点です。リンゴJV栽培が参入障壁を下げると考えています。JV栽培を取り入れてリンゴを始めたいという人を支援して、登米のリンゴを盛り上げて行きたいです。ご興味を持たれた方は是非、宮城県農業・園芸総合研究所が作成した『リンゴジョイントV字樹省力栽培マニュアル(第2版)』を検索してみてください」

千葉さんは「樹形については新しい技術に挑戦していますが、美味しいリンゴを作る、という基本技術は先代から引き継いだもの。それを絶やすことなく次世代に継いで行きたいです。一方で、新しい品種が次々と出てきていますから、臆せず取り入れていきます。是非、登米のリンゴを手に取って欲しいです!」と意欲的だ。

リンゴの収穫は機械化が難しい。それでも、樹形を変えることで収穫を含めた作業の効率を高められることを、千葉さんの実践が示している。収穫にかかる時間は体感ベースだが、従来の約半分。主要作業も3割削減できる。さらに作業負担を減らす軽労化を実現しつつ、今後登場するであろうスマート農業機械との親和性も高い。課題は初期投資と長期安定性だが、後継者や労働者が不足する産地にとって、リンゴJV栽培は有力な選択肢となり得るはずだ。

登米のリンゴ樹園に広がる「V字の壁」は、省力化と持続可能な果樹経営を模索する生産者たちの希望となっている。

参考:リンゴジョイントV字樹省力栽培マニュアル(第2版)
画像提供:宮城県東部地方振興事務所登米地域事務所

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