今回お話を聞いた農家
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株式会社くしまアオイファーム代表取締役社長 奈良迫洋介さん 1982年生まれ、鹿児島県出身。高校卒業後、美容師見習いやニュージーランドでのワーキングホリデーを経て、鹿児島大学を卒業。インドの現地企業で翻訳業務、東京の貿易商社で経営管理及び食品の輸出業務に従事した後、2016年くしまアオイファームへ入社。2020年9月より現職。 |
現場が語る値上がり“複合要因” 天候不順で二重苦
2025年のサツマイモ生産地では、春先から例年以上の高温と降雨不足が続いた。
奈良迫さんは「イモは植え付け直後の2週間で生きるか死ぬか(出来高)が決まります。今年は多くの地域で植え付け時期である5月中旬から空梅雨で30~45日間、十分な雨が降らず、思うように肥大しませんでした」と話す。例年であれば肥大が進む時期も、今年は成長を待つ期間が長引いたという。
気候変動が招くもう一つの影響が、サツマイモ特有の病害だ。特に基腐(もとぐされ)病は、近年全国の産地を悩ませている。
「30度を超えると、虫の発生や活動が一層多くなります。成長を待って収穫しようにも、夏場は病害虫との戦いになりますから、早く収穫しても土中で肥大させてもリスクはあります」
薬剤投入はコスト増につながる。しかし散布を怠れば収量が激減し、品質も落ちる。病害対策は避けられない負担だ。

くしまアオイファームの仕事風景
肥料・燃料・人件費……止まらないコスト上昇
生産現場にのしかかるのは、天候だけではない。
「肥料は1割弱、農薬はそれ以上の値上がりを感じています。法人としては賃上げも必要で、残業時間の管理も厳格化されました」
物流費も上昇が続く。
「他の生産者から、集荷する段階で10〜15%上がったという声もありますし、出荷先へ送る物流も当然上がっています」
加工や冷蔵保管、選果といった工程を自社で抱える同社でも、コスト管理は厳しさを増している。


数字だけでは見えない実態 用途ごとの供給構造
農林水産省の統計では、全国のサツマイモ生産量は約71万トン(令和5年)。
一見すると収穫量が上がっているように見えるが、奈良迫さんは「用途ごとの実態を見ないと誤解が生まれる」と指摘する。
「こうしたデータを見ると、『収穫量が増えているのに何故値上げをするのか』と思われるかもしれません。一見、収穫量が増えているように見えても、見た目が悪かったり、虫害があると加工用に回ります。全体の収穫量のうち、青果用、焼き芋用として使える品は限られます」
令和5年のデータでは、青果用は約38万トン(全体の5割超)。
「感覚的には令和6年は37万トンを下回ったように思う」と話し、加工・外食需要に応えることができる供給量が下がっている可能性を示した。
市場価格への影響は? “値段は据え置きだが量が変わる”

引用:令和5年産かんしょの作付面積及び収穫量(農林水産省)
では、消費者の買い物かごに届く価格はどう変わるのか。
「袋売りの場合、価格を上げるというより中身の量を調整するスーパーが多いのでは」と奈良迫さんは予測する。
例として、
• 500g 298円 → 350g 298円
• 350g 198円 → 250g商品を新設
といったイメージだ。
「消費者から見えにくい形ですが、実質的な値上げです。ただ、一気に大幅な上昇というより、じわじわ感じる形になるでしょう」
契約栽培と市場の関係 「高く売るために高く買う」
くしまアオイファームは、卸売市場に出荷せず、契約農家や自社農場から直接調達する体制をとる。「契約農家さんからの買い取り価格を上げれば、その分販売価格も上がります。高く売ろうというより、高く買わないと生産者が続けられない

くしまアオイファームの商品
という意識です」単に価格転嫁ではなく、産地維持のための価格設定だ。
北海道にも注目 “産地シフト”の兆し
本州・九州の高温化により、北日本でのサツマイモ作付けが増えている。
「北海道への注目度は高まっています。豊作の年もありますが、霜や遅霜のリスクがあり、安定供給には課題が残ります」
いわば国内産地の再編が進行中だ。
「5年後に産地が消える可能性も」 危機感と期待
奈良迫さんは、未来への大きな危機感を抱いている。
「対策が遅れれば、5年後に産地が一気に減る可能性もあります。今はまだ踏ん張っていますが、価格の先送りは産地の体力を奪う」
一方で、課題が顕在化した今こそ、技術革新や支援が広がるチャンスとも話す。
「正しい値決めと、生産者が続けられる環境作りが必要です。消費者にも、農産物の背景にある現実を知ってもらいたいです」
店頭の値札に変化がなかったとしても、内容量の調整や品質基準の変化など、消費者が気づきにくい形で影響が広がる可能性は高い。秋の味覚を手に取る際、“作り続けることの難しさ”にも思いを馳せたい。
















