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【写真で解説】苗木家が教える挿し木(挿し芽)大全集。挿し穂の作り方や植物を増やすコツなど徹底解説

【写真で解説】苗木家が教える挿し木(挿し芽)大全集。挿し穂の作り方や植物を増やすコツなど徹底解説

多くの植物は、枝一本から発根させて増やすことが可能である。これが「挿し木(挿し芽)」と呼ばれる繁殖方法で、タネを使わずに親株と同じ性質を持つ個体が得られるという驚くべき増やし方である。樹種によっては効率的に増やす手段として有効で、園芸や果樹栽培の現場でも広く取り入れられている。筆者は沖縄県で苗木屋をしているが、挿し木で多くの植物を増やしている。今回の記事では、挿し木の仕組みや増やせる作物、成功させるためのコツなどについて、初心者にも分かりやすく解説していく。

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挿し木とは?

挿し木などの栄養繁殖とタネから増やす種子繁殖の違い

挿し木などの栄養繁殖とタネから増やす種子繁殖の違い

挿し木とは、親株の枝や茎、葉などの栄養器官の一部を切り取り、それを土や水に挿して新たに根を出させる繁殖方法である。主に野菜などで用いられる種子繁殖(実生)と異なり、遺伝的に親株と同一のクローン個体を得られるため、果樹や観葉植物、花卉などで広く利用されている。

アボカドの挿し木

アボカドの挿し木、発根した様子も確認できる

商業的な目的で果樹を増やす場合は、親の品種と同じ個体を増やす必要があるため、必ずと言って良いほど「挿し木」などの栄養繁殖(他にも接木や取り木という方法もある)で増やされる。また、栄養繁殖で増やしたものは、種子繁殖に比べて開花・結実が早いという利点もある。

種子から増やすのはあまり技術も必要とせず、たくさんの個体が作れて良いが、親の持つ品質とは異なったものが出てくるため、果樹や観葉植物などでは基本的には使用されていない。ただし、種子繁殖でも、パパイアのように開花結実が早くて、品質がほぼ変わらないものや、ランブータンなどのように、国内では生産されておらず、外国から種子を輸入するしかないほどの珍しい樹種などは、種子繁殖で増やしても価値がある。

色々な種類のパパイア

色々な種類のパパイア

ランブータンという珍しい果樹の実生繁殖

タイから輸入したランブータンのタネを撒いた実生苗

挿し木で発根する仕組み

植物は自身が必要なものを再生・形成できる能力に優れており、挿し木で発根する仕組みも、どこからでも根っこをつくれる「不定根」を形成する能力に基づいている。

挿し木の場合、切り取られた枝が根っこを作るべく、下の図のように基部の方で、根っこのもとになる根源体というものが作られる。これは、枝の内部の栄養状態や、残された葉が光合成を行えるのか、植物ホルモンのオーキシンなどを作れるのかにも大きく依存するのだが、それらがうまく機能していると、栄養が根源体の形成に使われる。

主に切断面近くの師部や形成層付近で細胞分裂が活発化し、不定根が分化する。この時、切断面にはカルス(癒傷組織)が形成されるが、カルスは傷口を防ぐ役割であり、発根にはあまり関係がない。

挿し木の仕組みのイラスト

挿し木の仕組みのイラスト

パッションフルーツの挿し木をする前の様子(左上)と発根した様子

パッションフルーツの挿し木をする前の様子(左上)と発根した様子

挿し木の種類

挿し木には、枝の硬さや成熟度、樹種の生理特性によっていくつかの分類がある。
それぞれに最適な時期・環境条件があり、植物の種類によって成功率が大きく変わる。

緑枝挿し(軟枝挿し)

マンゴーの緑枝挿しの様子

マンゴーの緑枝挿しの様子

その年に伸びた柔らかい新梢を用いる方法。細胞の分裂能力が高く、カルス形成や不定根の発生が早いのが特徴である。

ただし、柔らかい組織は蒸散が激しく乾燥しやすいため、高湿度(70~90%)環境下で管理することが必要。熱帯果樹など常緑の果樹はこの方法がやりやすく、筆者も好んで緑枝挿しをしている。

硬枝挿し(休眠枝挿し)

落葉果樹などの、落葉期の完全に硬化した枝を用いる方法である。樹液の流動が少ない12月から2月の冬季に採取した枝を使い、3月頃に挿し木を行う。
その間、乾燥を防ぐために新聞紙などで包み密閉し、冷蔵庫の野菜室などで保存する。多くの樹種でできるが、ブドウやイチジクなどで一般的な方法である。また、キャッサバなども硬化した太い枝を直接畑に挿すという方法で増やされる。

Screenshot

イチジクの発根の様子

マルチを敷いた畑に、太く硬化したキャッサバの枝を挿す様子

マルチを敷いた畑に、太く硬化したキャッサバの枝を挿す様子

半熟枝挿し

新梢がやや硬化した半成熟状態の枝を使う挿し木で、木本植物や果樹類に広く応用される。枝の表皮が薄くコルク化し始めた段階が最適で、軟枝よりも乾燥に強く、しっかりした根を形成しやすい。枝が強いので、夏のやや温度が高い時期に行うこともできる。

ハイビスカスの半熟枝挿し

ハイビスカスの半熟枝挿し。半年後かなり成長した様子

スターフルーツの半熟枝挿し

スターフルーツの半熟枝挿し

チュパチュパの半熟枝挿し

チュパチュパの半熟枝挿し

サボテンの挿し木

ドラゴンフルーツなどのサボテン科の植物も挿し木で増やすのが一般的である。挿し木をする場合は、茎の部分を上下を間違えずそのまま挿し木しても良いが、茎の部分を削いで中心の芯を少し露出させてから挿し木すると早い。

ドラゴンフルーツは茎の部分を削ぐと発根が早い

ドラゴンフルーツは茎の部分を削ぐと発根が早い

そのほかにも、葉だけを挿し木する「葉挿し」や、地中にある根を切り取って挿す「根挿し」などもあるが、植物はいろいろな部位から個体を増やすことができる。

土挿しと水挿しの違い

挿し木は、植物の種類によっては、土でなくても水を使う「水挿し」という方法でも可能である。「水挿し」の場合、発根までの経過が見やすく、ベランダや室内でもできる。インテリアとして植物を瓶に挿して置いておくと発根して増やせるかもしれない。

レンブの水挿し。新芽も出ていた

レンブの水挿し。新芽も出ていた

挿し木で増やせる代表的な植物

挿し木は、果樹から観葉植物、草花に至るまで、幅広い植物で実践される繁殖方法であり、ある程度の植物で応用できる。基本的には、発根しやすくその後の成長が早い植物が適しており、果樹であればイチジクやブドウ、ブルーベリー、パッションフルーツなどは挿し木で増やされることが多い。

また、ソメイヨシノなどのサクラも挿し木で増やされたクローンであるため、同じタイミングで花が開いたり、桜前線という言葉がある。針葉樹のスギやヒノキもクローンであるために、一斉に花粉が飛ぶ。

桜の花

桜の花

挿し木で植物を増やすメリットとデメリット

挿し木によるメリットは以下のようなものがある。

・枝を挿すだけなので、他の栄養繁殖に比べて簡単である。
・種子や苗を購入せず、手元の株から増やせるのでコストがかからない。
・樹種によっては一度で大量に増やすことができる。
・クローン繁殖のため、親株と同じ果実品質、花色、樹勢などが維持できる。
・開花、結実までが早く、農業経営など計画が立てやすい。

一方、デメリットに関しては下記の事柄が挙げられる。

・主根と呼ばれる大きな根がなく、倒伏リスクがある。
・親株が病気になっていたり、ウイルスに感染していると、それを引き継ぐ。
・発根しにくい、もしくは発根してもその後の成長が遅く相性の悪いものがある。

この他、念頭に置いてほしい点として、品種登録された作物には増やしてはいけないものが存在するので注意する。

挿し木を始めるために必要な準備やコツ

挿し木は簡単な増やし方であるものの、雑に枝を挿すだけではうまくいかない。本章では、挿し木をする際の準備や成功のコツなどを紹介する。

挿し木に適した時期

挿し木は年中行えるものではなく、樹種によって適した時期がある。基本的には25℃程度の涼しい時期が発根がスムーズに行われる。そのため、暑すぎる夏や寒すぎる冬を避けて、春や秋に行うと良い。

必要な道具と用土の選び方

挿し木に必要な道具と用土については以下の通り。

·清潔で切れ味の良い剪定バサミまたはナイフ
·清潔な挿し木用ポット
·肥料の入っていない土(鹿沼土や赤玉土、バーミキュライトなど)

挿し木用のポットはしっかりと挿すことができて植物が安定するため、幅が広いものよりも深いものをお勧めする。筆者は好んでスリットが入ったものを使っている。スリットが入っていると、発根した根がサークリングせず健全に育つため、植え替え後の生育も良い。また、ポットが汚れているとカビの原因になったりするため、清潔なものを使うように心がけてほしい。

土は、肥料が入っていないものだとある程度何でも良いが、排水性と保水性のバランスが重要である。筆者は鹿沼土の細粒タイプを好んで使っているが、赤玉土やバーミキュライトなども問題なく使用できる。ホームセンターで見かける挿し木用の土などもおススメだ。

観葉植物のシーグレープの挿し木。深いスリットが入ったポット

観葉植物のシーグレープの挿し木。深いスリットが入ったポット

オオミノトケイソウの挿し木。透明のポットだと発根の様子が分かりやすい

オオミノトケイソウの挿し木。透明のポットだと発根の様子が分かりやすい

ヤブツバキの挿し木。浅いポットでもできる

ヤブツバキの挿し木。浅いポットでもできる。

ポットにスリットがあると、根がサークリングせずに作れる

ポットにスリットがあると、根がサークリングせずに作れる

親株から健康な挿し穂を選ぶコツ

挿し木の穂木は、勢いがあり病害虫に侵されていない新梢または前年枝を選ぶ。若い枝の方が細胞分裂が盛んなため成功しやすい。逆に、数年経過している老枝は発根しにくいので避けたほうが良い。花芽がついている枝は発根よりも開花にエネルギーを使うため、避けるのが無難だ。

挿し木の手順

ここからは、挿し木の詳しい手順や穂木の加工について、写真を交えて解説していく。

挿し穂の作り方

挿し穂の作り方(椿を使って説明)

挿し穂の作り方(椿を使って説明)

挿し穂は10~15 cm程度の長さにし、上部の葉を2~3枚残す。葉面積が広すぎると、蒸散で枝が乾燥してしまうため、半分程度カットする。樹種によって、葉面積をどのくらい残すのかはまちまちなので、1/3から2/3など、残す面積をいろいろと試しながらやると良い。

下端は斜め45°にカットして水分が吸収できる面積を広げた方が良いと言われるが、筆者はそこまで気にしていない。平たくカットしても問題なく発根するものが多い。ただ、節の付近から発根しやすいため、節を残して下端をカットする。

また、土に穂木を挿す前に、2~3時間程度、水揚げをしてしっかりと水を吸わせておくと良い。

このように真っ直ぐ挿す

このように真っ直ぐ挿す

2~3時間、挿し穂に水を吸わせたら、鹿沼土の細粒タイプなどに挿し木をする。上の図は、挿し木をして半年後の様子であるが、新芽が動いている。

半年後の発根している様子

半年後に発根している様子

レンブの挿し木、葉面積をいろいろと変えて挿し穂を加工した

レンブの挿し木、葉面積をいろいろと変えて挿し穂を加工した

発根を促進する管理のポイント

発根を促すために、筆者が特に気をつけている管理のポイントは「湿度·温度·かん水の回数·光」である。湿度はなるべく高く、地温は25℃を目指している。挿したばかりの時は、特に乾燥に気をつけて1日に2回~3回かん水するが、一ヶ月程度経って多少発根が確認されたら今度はかん水頻度を減らす。

土がずっと濡れっぱなしだと根が伸びにくいため、弱めの乾燥ストレスを与えて根の伸長を促す。また、光は強すぎると葉が焼けるが、暗すぎると光合成不良で発根するためのエネルギーが作られない。3~50%程度の遮光下で、やや明るい環境が良い。

筆者は植物ホルモン剤を使用していないが、穂木の状態や管理の環境を守れば十分に発根することを確認している。もちろん、植物ホルモン剤を否定しているわけではないので、用法を守って使うと良い。

発根後の植え替えと定着のコツ

発根後、根がある程度充実してポットから出しても根鉢が崩れないようになったら、一回りだけ大きいポットに植え替えてあげる。挿し木の場合、根がやや弱いので、頻繁な植え替えや、いきなり大きいポットに移すことは避ける。

半熟枝挿しチュパチュパの葉の展開の様子

半熟枝挿しチュパチュパの葉の展開の様子

マンゴーのトレー挿し木と、鉢増し1年後の状態

マンゴーのトレー挿し木と、鉢増し1年後の状態

一つのトレーにたくさん挿し木をした場合は、半分くらい成功したら良いという設計のもと行う。底部から発根が確認できたら、発根している個体だけ優しくつまみあげ、個別のポットに移す。植え替え半年くらいは肥料を入れず、新芽が多少大きくなったら、固形肥料を少し(IB化成なら一粒ほど)あげる。とにかく、挿し木の場合はゆっくりと焦らずに育てていくと良い。

挿し木でよくあるトラブル(Q&A)

Q. なかなか発根しないのはなぜ?

A. 発根しない主な原因は「植物の種類」や「適切な環境ではない」などがある。植物には発根しやすいものとそうでないものがある。この辺りは色々と試してみていただきたい。また、「適切な環境ではない」場合、「湿度」や「温度」の条件が十分でない場合が考えられる。湿度が低く、挿し穂が乾燥すると枯れてしまう。また、気温が高すぎても低すぎても、根の形成が遅れる。地温が25℃前後になるように加温マットを使うか、春か秋などの温かい時期を選ぶと良い。

Q. 葉がしおれて枯れてしまった

A.挿し木直後の葉のしおれは、まだ根がないために水分を吸収できず、葉から水が失われてしまうことが原因である。葉面積が大きすぎる場合は、葉っぱを少し小さくする。湿度を高く保つため、苗床に何かしらのカバーをかけて覆ってあげると良い。ただし、密閉しすぎるとカビが発生するため、定期的に換気をしたり、カビの出ないように清潔な環境で行うと良い。

Q. 茎の部分が黒く腐ってしまった

A.茎の部分が黒くなってしまったら、すぐに取り除きましょう。雑菌の繁殖によって他の挿し穂も枯れてしまうことがある。

Q. 発根したのに成長が止まってしまう

A.根が出たあとに成長が止まる場合は、根量が少なくて水分や栄養を十分に吸収できていないことが多い。植え替えは焦らない方が良いが、根鉢がしっかり形成されているなら一回り大きな鉢に植え替えよう。急に日当たりの強い場所に出すと蒸散が追いつかず枯れるため、発根直後は半日陰で管理し、徐々に環境に慣らしていくことが大切。

挿し木で増やした植物の育て方

挿し木で増やしたスターフルーツ

挿し木で増やしたスターフルーツ

挿し木で増やした植物は、発根後も「根の性質」が実生とは異なる。主根が少なく細根が多いため、植え付け後しばらくは風や乾燥に弱い。以下のポイントを意識して管理する。

1. 直射日光を避けて徐々に慣らす

発根後すぐに強い日差しに当てると、葉焼けや水分不足を起こしやすい。半日陰で管理し、1~2週間ほどかけて徐々に日照条件を強めていく。特に熱帯果樹や観葉植物は、日光に慣れる「順化期間」を設けることが重要である。

2. 水やりは「乾いたらたっぷり」

根が呼吸しながら伸びるため、常に湿った状態を避ける。表土が乾いたら鉢底から水が流れる程度にたっぷりと与える。受け皿に水がたまったままだと根腐れの原因になるので、こまめに水を捨てる。

3. 肥料は急がず、根が安定してから

挿し木苗は根が繊細で肥料焼けしやすい。新芽がしっかり動き出してから、緩効性肥料を少量与えると良い。筆者は、IB化成を一粒だけポットの端に置く程度にしている。液肥を使う場合は、規定濃度の1/3程度から始めると安全である。

4. 鉢増しのタイミングを見極める

根鉢がポットの形に沿って白く回ってきたら、少し大きめの鉢に鉢増しする。根鉢が崩れると成長が止まるため、土を崩さずに丁寧に移すのがポイント。鉢増し後1~2週間は直射日光を避け、風通しの良い場所で管理する。

5. 病害虫対策

挿し木で増やした苗は若く柔らかいため、アブラムシやハダニなどがつきやすい。見つけ次第、早めに駆除する。風通しを良く保ち、株間を詰めすぎないことも予防につながる。

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挿し木で増やしたチュパチュパ

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挿し木は、植物の再生能力を生かしたシンプルで奥深い繁殖技術である。成功の鍵は「適した環境」「適切な管理」「清潔な道具」に尽きる。適切に挿し木を行うことができれば、初心者でも驚くほど高い成功率を出すことができる。

筆者も日々多くの植物を挿し木で増やしているが、同じ樹種でも枝の状態や季節によって結果が異なるのが面白いところでもある。ぜひ植物を増やす楽しみも味わってみていただきたい。

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