マイナビ農業TOP > 農業ニュース > 酒米の秘密に迫る。食用米との驚くべき違いと魅力。近年の高騰&不足の背景

酒米の秘密に迫る。食用米との驚くべき違いと魅力。近年の高騰&不足の背景

酒米の秘密に迫る。食用米との驚くべき違いと魅力。近年の高騰&不足の背景

日本酒の醸造に欠かせない酒米(さかまい)。日本酒をおいしく造るために改良されてきた米である酒米は、食用米とはさまざまな違いがあります。また、近年は主食用の米の価格が上昇傾向にある中で、酒米についても関心が高まりつつあります。この記事では、知っているようで知らない酒米の特徴や食用米との違い、代表的な品種や有名な産地のほか、酒米生産者の状況や将来性についても解説します。

twitter twitter twitter twitter
URLをコピー

酒米の定義とその役割

日本酒と稲穂

米、米こうじ、水を主な原料とし、発酵させてこしたものを清酒と呼びます。日本酒は清酒の一種で、原料となる米に国内産米のみを使用し、日本国内で醸造されたものであることが条件です。
清酒は酒税法によって製法や原料の定義がなされているのに対し、日本酒という名称は、国税庁により地理的表示として保護されています。また、日本の伝統的な酒造りはユネスコの無形文化遺産に登録されています。

酒米は日本酒を醸造する目的に特化した米のことで、正式には「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」といいます。酒米の品質は、醸造される日本酒の香りや味わいを決定づける大きな要素の一つであり、日本酒の製造元からは常に高品質な酒米が求められています。

食用米との違い

米粒

酒米はさまざまな品種が掛け合わされ、おいしい日本酒を作る目的に特化した品種改良がなされてきました。

一般的な主食用米に比べて粒が大きく、中心には心白(しんぱく)と呼ばれる白く濁った部分があるのが大きな特徴です。心白はでんぷんの密度が低いため麹菌が入りやすく、旨みや香りの豊かな酒を造るのに役立つと言われています。

また、日本酒の醸造過程では米の表面が削られたり摩擦熱が加えられたりするため、粒が大きく割れにくい性質が求められます。たんぱく質や脂質が少ないのも酒米の特徴。たんぱく質や脂質が少ないほうが発酵時に雑味が出にくく、クリアな味わいの酒になるとされています。

酒造好適米とは?

酒造好適米とは、日本酒の醸造に適しているとされる米のことです。農林水産省が農産物規格規程において醸造用玄米として登録した品種で、食用や飼料用とは明確に区別されています。代表的な銘柄として、山田錦や五百万石などが登録されています。産地品種銘柄の規定もあります。

酒米の歴史と品種改良の背景

精米と稲穂

米麹を用いる酒造りの歴史は古く、奈良時代に編纂された播磨国風土記の記録が最も古いとされています。酒造りの技術が発展した江戸時代には、従来の濁り酒ではなく清酒が大量に造られるようになりました。同時期には酒造りに適した米の産地も認識されるようになり、特に播州地方(兵庫県南部)の米は高く評価され、今なお盛んな兵庫県の酒米生産に繋がっています。

明治時代からは、よりおいしい酒を造るために本格的な品種改良が始まりました。歴史ある酒米として知られる「雄町」は1859年に現在の岡山市の農家が発見した品種で、山田錦や五百万石のルーツとされています。兵庫県の試験場では1923年に山田錦が人工交配され、1936年には兵庫県の酒米奨励品種に指定されました。

その他にも地域の特性に合った品種が各地で生まれ、昨今の気候変動なども踏まえた改良が続けられています。

代表的な酒米品種とその特徴

代表的な酒造好適米として、以下の品種が知られています。

山田錦

日本酒を造るための米として最も有名な品種が、兵庫県発祥の山田錦(やまだにしき)です。心白が大きいため高度精米に強く、多くの酒造元が採用しています。2023年の酒米生産量においておよそ4割を占めており、兵庫県のほか多くの府県で品種登録されています。

五百万石

山田錦に次ぐ生産量で、全体の2割ほどを占めているのが五百万石(ごひゃくまんごく)です。新潟県で生まれた米で、多くの県で栽培されています。昨今の食用米の価格高騰を受け、新潟では五百万石からコシヒカリへ転作する農家も増えており、供給不足も懸念されます。

雄町

雄町(おまち)は江戸時代末期に発見された古い品種で、背が高いため倒伏しやすく収量が少ないため、栽培が難しいと言われています。全体の95%以上が岡山県内で生産されていますが、隣接する広島県や香川県でも品種登録されています。

愛山

山田錦と雄町をルーツとして兵庫県で生まれたのが愛山(あいやま)です。粒が大きいため倒れやすい傾向もあり、栽培が難しい品種のひとつです。生産量はそれほど多くないものの、心白発現率が高く、粒の張りが良いとされています。

地域ごとに特色ある酒米生産地

田植え後の圃場

2024年における酒造好適米の生産量は約9.5万トンです。兵庫、新潟、岡山、長野、秋田の上位5県でおよそ6割以上を占めるものの、冷涼な気候や肥沃な土壌など、それぞれの土地に適した品種の酒米が全国各地で栽培されています。

酒米は、生産される地域の気候や土壌から大きな影響を受けます。農産物が育まれる土地の特性や風土を生かし、楽しむテロワールといった概念が、酒米においても広く認識されつつあります。

耕作技術と生産者のこだわり

一般的に酒米の品種は倒伏しやすく、追肥や水管理に高い技術が求められます。また、大雨や強風は大きなリスクとなります。近年では猛暑による高温障害を避けるため、田植え時期の調整や水管理の工夫も行われています。

酒米新品種が広げる可能性

温暖化の影響で酒米の品質低下が問題となる中で、新品種の開発による新たな未来が広がっています。広島県の「萌えいぶき」は2012年に研究開発に着手した新しい品種で、高温耐性のある酒米として注目されています。長野県では2024年に「やまみずき」と「夢見錦」が開発され、試験醸造で造られた日本酒の販売が始まっています。

なぜ日本酒に酒米が用いられるのか

おいしい日本酒の醸造には、酒米が欠かせません。食用米では雑味が出て、良質な酒を造ることができないと言われています。

「心白」の役割

酒米の大きな特徴のひとつが、中心部の濁った部分である「心白」です。たんぱく質が少なく隙間が大きいため麹菌が入りやすく、発酵がスムーズに進みます。心白の大きさや割合は、良質な酒米の重要な指標となっており、生産者も注力する部分です。

粒の大きさと吸水性の違い

酒米は一般的な食用米に比べて粒が大きく、吸水しやすい特性があります。粒が大きいほうが精米の過程で割れにくく、歩留まりが良いとされています。特に大吟醸酒など大幅に表面を削る酒造りにおいては、粒が大きく割れにくい米であることが重視されます。

たんぱく質含有量による味わいの違い

酒米のたんぱく質は酒造りにおいて旨みのもとになるものの、多すぎると雑味が出るとされています。蔵元は、目指す日本酒の味わいに合わせてたんぱく質の含有量や精米の度合いにこだわります。近年では産学連携による研究なども進められており、たんぱく質含有率が大きく異なる酒米で清酒を醸造し、それぞれの味わいが異なることが確認されています。

近年、酒米が高騰・不足しているワケ

作業風景

2023年の猛暑による米の不作以降、現在まで主食用米の価格が高騰しています。主食用米の価格高騰に伴い、加工用米や酒米の価格も上昇しています。原因としては主に、下記の事柄が挙げられるでしょう。

主食用米の高騰による品目転換

主食用の品種に比べて栽培が難しく収量も低い酒米は、これまで主食用米より高値で取引されてきました。しかし、2024年産では主食用米の価格が高騰して価格差が縮まり、新潟では酒造好適米として知られる「五百万石」よりも主食用米の方が高くなる逆転現象が起きました。主食用米の増産を優先するために品目を転換する生産者も出てきており、酒米の価格高騰や供給不足が懸念されています。

酒米は収量性を追うことが難しい

酒米は品質が最優先されるため、収量を犠牲にして栽培されることが一般的です。また、主食用米に比べて倒伏しやすい性質があり、高度な栽培技術が必要とされます。
栽培実績のある農家でも大幅な増産は難しく、新規就農者がすぐに高品質な酒米を大量生産するのも現実的ではありません。

酒米農家の奮闘

酒米農家が安定した経営をするためには、高品質な酒米の安定生産はもちろん、品質にこだわる蔵元と良好な関係を築くことが重要です。

例えば、熊本県阿蘇市の農事組合法人「水穂やまだ」は、主食用米や飼料米だけでなく、日本酒用の山田錦の栽培にも挑戦。微生物や土壌堆肥の研究を重ねながら山田錦の栽培を追及しており、「獺祭」で知られる旭酒造株式会社主催の品質を競うコンテスト「最高を超える山田錦プロジェクト2022」で最高賞を受賞。エントリーのあった90以上の農家の頂点に立ちました。

このように、蔵元のこだわりに応える酒米生産者は、栽培技術を向上させ、より高品質な酒米の生産に日々取り組んでいます。こうした農家と蔵元のパートナーシップは、伝統的な日本酒文化を支え、地域の農業や経済にも貢献しています。

関連記事
獺祭(だっさい)の酒米で日本一。食用だけでなく日本酒用のコメ作りに挑んだ理由
獺祭(だっさい)の酒米で日本一。食用だけでなく日本酒用のコメ作りに挑んだ理由
焼酎文化である九州の熊本県で、日本酒用のコメ作りで日本一になった農家がいる。「獺祭」で知られる旭酒造株式会社が主催する酒造好適米「山田錦」の品質コンクールで、最高賞を受賞した熊本県阿蘇市の農事組合法人「水穂やまだ」。酒…

酒米の未来

高度な技術が必要で栽培が難しいのが酒米です。他のアルコール飲料との競合などによって日本酒の国内出荷量が減少する一方で、海外での日本食ブームなどを背景に輸出量は増加傾向にあります。

価格差が縮小したことにより酒米から食用米へ品目転作する生産者も現れる中、高品質な酒米のニーズは続くと考えられます。手間がかかる一方で、大きなやりがいもある酒米の可能性にぜひ注目してみてください。

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE
  • Hatena
  • URLをコピー

関連記事

新着記事

タイアップ企画