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有機水稲栽培の難敵・水田雑草対策に有効な機械はコレだ!農業記者が選ぶ除草機・田植え機4選

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有機水稲栽培の難敵・水田雑草対策に有効な機械はコレだ!農業記者が選ぶ除草機・田植え機4選

米価は高止まりしているが、農政の方向性は定まらない……。そんな今だからこそ、生産者には“次の一手”が求められている。その有力な選択肢の1つが有機水稲栽培だ。化学農薬や化学肥料に頼らない農法は一過性の流行ではなく、世界的な潮流である。「みどり戦略」の数値目標を見ても分かる通り、この流れは日本でも変わらないだろう。ただし、有機水稲栽培には水田内の雑草対策が大きな壁として立ちはだかっている。そこで本稿では、多くの有機水稲生産者を取材してきた筆者が、この難敵を制する最新の除草・抑草機械を紹介していく。

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水稲の有機栽培における最大の障壁は水田内の雑草!

水稲有機栽培における最大の難敵と言えるのが、水田内の雑草だ。農水省によると、雑草を除草するための作業時間は、慣行栽培では全作業時間のうちの5.9%であるのに対して、有機水稲栽培では約4倍の22.6%にもなる。雑草による影響を効率的に抑制できれば、有機水稲栽培を組み込んだ経営の成立が大きく前進すると言える。

また、一般的に有機栽培の収量は、慣行栽培のそれと比較して、80~90%程度であると言われている。収量減の原因の一端は雑草によるものだ。適切に除草することで、収量も増えると考えられる。

そこで農業機械メーカーは、効率的に除草・抑草する機械を開発し発売している。本稿で紹介するのは、自動航行ロボット、乗用型除草機、田植機の3タイプ4機種。アプローチは異なれど狙いは同じ、人手をかけず雑草を抑えることだ。いずれも農業生産現場の声に応えることができる実用派である。

アイガモロボ2は基本放置で抑草する!

最初に紹介するのは、NEWGREENが開発製造し、井関農機が販売している「アイガモロボ2」だ。「アイガモロボ2」が行うのは、除草ではない。移動時に泥を巻き上げることで生じた”濁り”で雑草の光合成を阻害して生育を抑制する抑草機械だ。同社が農研機構と共同で行った実証試験では、人が機械を使って行う除草の回数は従来の有機栽培と比べて約6割減少することに加え、雑草による減収が回避されて収量が約1割増加することが確認されている。

「アイガモロボ2」を田んぼに浮かべて電源を入れたら、自動で走行(蛇行)を開始し、完全自律航行する。事前に水田の形状を学習させる必要はない。ソーラーパネルを搭載しており、充電を行いながら動き続けてくれる。縦横無尽に走行するため、条間・株間ともに抑草できるのも特徴だ。価格も27万5,000円(税込み)と、大型の除草機と比較して圧倒的に安価である点も、本機の魅力と言える。

本機の導入に適した田んぼの条件は、適切な水管理ができること。水を安定供給でき、水位を適切に保つことができる田んぼが良い。推奨水位は5~10cm。土は適度に柔らかく、水の”にごり”が継続する土質が好ましい。GPS位置情報を利用するから、電波が届きにくい場所では正常に稼働できない可能性がある。

「アイガモロボ2」は、電気の力でこのブラシ型パドルを回転させることで、動き回る。ブラシが地面を捉えながら航行することで水が濁り、雑草の生育を抑える仕組みだ

田植えを終えて苗が活着したら、速やかに投入すると良い。稼働させる期間は、投入してから3~5週間、稲の草丈が30~40cmになるまで。同社では、1日あたりの稼働時間「2時間以内/10a」を推奨しており、これは30aの圃場では「1日6時間以内」、50aの圃場なら「1日10時間以内」にあたる。この推奨稼働時間は機械の能力ではなく、苗へのダメージを配慮したものだ。

生産者は複数枚の圃場で有機水稲栽培を行っているだろうから、本機1台では足りないこともあるだろう。それでも、本機は大型機械とは異なりリーズナブルな価格帯であるため、複数台を所有しても良いだろう。少ない投資で有機水稲栽培に挑戦したい方に、特におすすめしたい製品だ。

「ウィードマン」は4輪の乗用水田除草機!

福岡県八女群広川町に本社を置くオーレックが販売している「ウィードマン」は、乗用型の水田除草機。「草と共に生きる」をコンセプトとし、草生栽培に使用する自走式草刈機を原点とする同社が、2017年に満を持して投入した力作だ。

本機は田植えを終えて苗が活着したら、速やかに投入すると良い。稼働できる期間は、投入してから30日前後。これは「アイガモロボ2」の活着後3~5週間と同等だ。

本機最大の特徴は、乗用型の水田除草機として業界初の株間除草機構を搭載していること。それにより株元もくまなく除草することができる。除草する作業機が機体前方に配置されているので、除草作業を目視で確認しながら作業できるから安心感がある上、状況に合わせて作業深さとレーキ回転数をすみやかに変更できるのも魅力だ。また、四輪操舵(4WS)・四輪駆動(4WD)で小回りが効き、欠株を抑えることができる。

本機でより効果的に作業を行うことができる、おすすめの方法がある。それは、水位を浅くすること。水位が浅ければ草が良く見えるから調整が容易になる上、除草後に稲が水面に張り付かず、倒れにくいからだ。

条間の除草には除草刃ローターを装備しているが、本機のウリは株間の除草に業界初機構の回転レーキを搭載している点にある。回転速度は無段変速の車速連動だから稲を傷めにくく、稲周辺の初期除草を実現する

作業深さ(回転レーキ)にも注意が必要だ。「稲の根より浅い位置でレーキが稼働する」ように、調整する必要がある。こう聞くと、作業深さの調整が難しそうだが、前方の稲の様子を見ながら手元のダイヤルで容易に調整できる。作業中は泥面の高さの変化をセンサーで感知し、設定した深さを自動で保ってくれる。また、作業機の水平方向の角度もモーターで自動制御してくれる。

筆者は「ウィードマン」を導入した複数の生産者に取材した経験があるが、「田植して『ウィードマン』を2~3回掛けたら、それで水田内の除草は終わり」とまで言い切る方もいるほど、その除草能力は高い。本体価格は税込みで500万円台と、決して安価な機械ではないため、有機水稲栽培の大規模化に挑戦する方に適した機械と言えるだろう。

田面に再生紙を敷きながら田植えをする「紙マルチ田植機」

有機水稲栽培向けの定番農機といえば、三菱農業機械の「紙マルチ田植機」と言って良いだろう。発売開始は1997年。再来年には30周年を迎える長寿製品だ。

本機はその名の通り田植機の一種だが、再生紙を田面に敷きながら田植をすることで、田植後の雑草の生育を抑えてくれる。再生紙は田植の後、約40~50日で溶けてなくなるから回収は不要。紙が解けるまでは除草剤と同等の抑草効果があり、抑草作業の効率化という点では、最も優れていると言える。田植え後に水田に入る必要がなく、苗に負担を掛ける心配がないのも本機のメリットだ。

04紙マルチ田植機_仕組み

本機による抑草効果を最大限に発揮するには、田面は平らであることが求められる。再生紙を密着させるためだ。また、田植後は極浅水にして紙の浮き上がりを抑え、田面への密着を促進させよう。

一方で、風が強い日には再生紙が密着しにくく田植えができないこと、田植え時には苗供給だけでなく再生紙を田植機に積み込む必要があることなど、田植作業に手間が掛かる点は留意すべきだろう。栽培面積にあわせて再生紙を購入する必要があるため、ランニングコストは他の機械よりも高くなる。

それでも、筆者が過去に取材した本機ユーザーの声を総合すると、「雑草対策を圧倒的に省力化できる」「苗を傷める心配がないから収量が良い」と評価は高い。本体価格約445万円~と高価な機械ではあるが、有機水稲栽培に本格的に取り組むなら、導入を検討すべき製品と言えるだろう。

3輪タイプの「水田駆動除草機」はリーズナブルな価格も魅力

岡山県に本社を置く農業機械メーカー、みのる産業が発売しているのが「水田駆動除草機」。同社と農業技術革新工学研究センター(旧・生研センター)が「緊プロ事業」として開発したもので、2015年に4条型を発売して以降、6条型、8条型をラインナップに加えてきた。

本機は田植えを終えて苗が活着したら、速やかに投入すると良い。稼働できる期間は、投入してから稲が大きくなるまでの30日前後。

本機は除草機を車体中央部に搭載したミッドマウント方式を採用している。作業者の面前に除草機があるため条合わせが容易であり、除草状況を確認しながら作業を行うことができる。また、三輪駆動と狭幅車輪の設計により、小回りの良さと、高い耐湿田性を確保。旋回時の欠株を軽減するのも特徴だ。

除草は、条間には爪つき回転ローター、株間には揺動ツースを用いて行う。特に揺動ツースは苗と雑草との生育差を利用して、田面の表層を動かし根が張っていない雑草を浮かせて除草する。そのため揺動ツースの速度と深さの調整が重要となる。そこで本機の除草装置はツース速度を2段変速とし、株間つーすの作業深さは1㎝ごとに9段階調節できる仕様。条間ローターは1㎝ごとに7段階の調節ができる。

実は本機には、除草機能に加えてもう1つ大きな特徴がある。それが乗用型にしては極めてリーズナブルな価格。4条植え用は226万6,000円(税込み)である。筆者が過去に取材した本機ユーザーは「中山間の狭い圃場では4条植が最適。狭い田んぼで使うなら『水田駆動除草機』一択」と力強く語っていた。

新技術!NARO両正条田植機にも注目

最後に、現在開発中の最新技術についても簡単に触れておこう。それが農研機構が開発している「両正条田植」というもの。プレスリリースを要約してご紹介しよう。
本稿では度々、「条間と株間の両方を除草できる」と記載しているが、それだけこの「条間と株間の両方を除草できる」性能が、防除の省力化を左右すると言える。

そこで農研機構では、水稲の苗を等間隔の碁盤の目状に植える「両正条植え」の技術を開発した。これにより縦と横の二方向から乗用除草機で走行して、より確実に除草できるようになるというもの。

まだ開発中の技術であり、即製品化されるわけではない。また、両正条田植機が市販されたからと言って、現行の製品群の魅力が下がるわけではないことを付記しておこう。

除草・抑草の効率化で持続可能な稲作経営を

水田内の除草・抑草は、有機水稲栽培の成否のカギを握る。人手を掛けず、効率的な除草・抑草を実現する確実な手段は、今のところ優れた機械の導入と言える。

賢明な生産者ならば、米価がいつまでも高止まりするとは考えていないはず。再び訪れるであろう厳しい時代を生き抜くためにも、新たに有機水稲栽培に挑戦してみてはいかがだろう? ここで紹介した機械達は、その挑戦にきっと役立つはずだ。

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井関農機
オーレック
三菱農業機械
みのる産業
農研機構

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