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倒産危機から年間売上15億円の巨大企業へ。急拡大を支えたジョイントベンチャーモデルと、徹底した「3つのルール」

鈴木 雄人

ライター:

倒産危機から年間売上15億円の巨大企業へ。急拡大を支えたジョイントベンチャーモデルと、徹底した「3つのルール」

異業種の大企業と次々に連携しながら急成長を遂げる農業法人グループが静岡県にある。株式会社鈴生(すずなり)だ。モスフード、NEXCO中日本、横浜丸中グループ、ポッカサッポロ、Wismettacなど、名だたる企業とジョイントベンチャー(JV)を設立し、共に地域や産業の課題解決に挑んでいる。なぜ、自社単独ではなく他社と共に歩む道を選んだのか。その背景にある戦略について、代表取締役社長の鈴木貴博(すずき・よしひろ)さんに話を聞いた。

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生産、物流、研究開発まで。異業種を束ねる「鈴生グループ」の全貌

株式会社鈴生は、静岡県静岡市に本社を置く農業法人グループの中核企業です。同社は、グループ全体の経営管理(ホールディングス機能)、販売戦略、新規事業の研究開発を担い、各社との協働を通じて持続可能な農業のあり方を追求しています。

グループで使用する苗や資材の一括調達・供給も行っており、その機能はいわば「現代型の農協」。共同仕入れによるコスト削減や品質の標準化を実現し、グループ全体の競争力を高めています。

株式会社鈴生の本社

グループ概要

鈴生グループの最大の特徴は、異業種と設立するジョイントベンチャー(JV)にあります。それぞれの企業が持つ強みと課題を掛け合わせ、社会的使命を生かしながら、共に新たな価値を生み出す体制を築いています

株式会社モスファームすずなり (JVパートナー:株式会社モスフードサービス)
2014年に磐田支部を設立。モスバーガー向けの冬レタスの安定供給を担う。2021年には広島支部を設立し、準高冷地の気候を生かして春・秋レタスを生産。年間を通じた供給体制の構築に挑んでいる。現在では、標高を生かした夏季の青ネギの生産にも力を入れる。

・中日本ファームすずなり株式会社 (JVパートナー:中日本高速道路株式会社)
2018年設立。浜松市を拠点に、新東名浜松インターを中心として地域の耕作放棄地等を10ha以上農地に戻し、高速道路沿線の活性化と地域の持続可能な農業を行っている。

・TEN Green Factory株式会社 (JVパートナー:横浜丸中ホールディングス株式会社)
2018年設立。同社は、天候に左右されないで約60品目のオーダーメイド野菜を栽培できる太陽光型の植物工場(水耕栽培)を運営する。コンビニベンダーと共同でメニュー開発を行うなど、サプライチェーン一体型の施設となっている。また施設では、グループ会社のGrand Farm株式会社が運営する就労継続支援B型事業所「すずなりカレッジ磐田校」とも連携。工場内では農福連携の取り組みとして約60名の障がい者が作業にあたっており、ノウフクJASも取得済み。さらに、ハウス内での生産は、ソーラーシェアリングによって生み出されたクリーンエネルギーで賄われる。

・株式会社LEMONITY(JVパートナー:ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社、西本Wismettacホールディングス株式会社)
2025年設立。生産者の激減が予測される果樹市場に参入。特にレモンは輸入品が多く、近年は需要も多いため、果樹の中でもレモンを選択した。鈴生が生産を担い、ポッカサッポロが加工用、Wismettacが青果の全量買取と販売を担う「バリューチェーン一体型」モデルを構築。広島・静岡を拠点に10年後100ヘクタール規模を目指す。

・STMエクスプレス株式会社 (JVパートナー:トーシン産業株式会社)
2018年設立。菊川市にある総合物流センターを拠点とする。農作物の取引は、販売価格に運賃が含まれる「着値契約」が主流であり、この契約下では、物流コストや梱包費がそのまま農業者の手取りを圧迫する要因となる。この課題を解決し、農業者の手取りを確保するため、資材販売会社であるトーシン産業と共同で運送会社を設立。自社で物流を担うことで、農家の手取りの最大化を実現している。

このほか、株式会社鈴生の研究開発部門では年間2,000〜3,000万円の研究予算を投じてシルク(養蚕)、化粧品、養蚕の副産物を利用したうなぎの餌など、次世代の事業開発に取り組んでいます。また、すずなりキッチン株式会社では、グループ本社に自家野菜を中心としたカフェ・レストランを併設し、消費者との接点を創出する直売・飲食部門を担っています。

グループ全体売上24億円の概要

グループ全体の栽培面積は約160ヘクタールで、年間売上は24億円。そのうち、鈴生の年間売上は約15億円、野菜部門では年間約12億5,000万円を売り上げます。

主要品目はレタス類で、栽培面積は約80ヘクタール。枝豆は約25ヘクタールを栽培し、「オレ達のえだ豆」としてブランド展開しています。昨年より、青ネギの生産を開始。広島拠点の気候を生かした夏場生産が成功し、今年から静岡での生産を開始したことで通年出荷が可能になりました。

メイン品目である玉レタス

「悔しさ」から生まれた哲学と急拡大の歩み

もともと鈴木さんは学生時代から商社への入社を目指すなど、農業とは無縁の将来を考えていました。祖父母や両親の手伝いを通じて、農業の厳しさや生活していくことの難しさを幼少から感じていたためです。

転機は大学時代に訪れました。1997年、両親が「鈴木農園」を設立し、契約農業を開始。長期休暇の際に手伝った農作業が、人生を変えたといいます。

「当時は、野菜は種をまけば自然にできるものだと思っていましたが、思うように育たなかった。何もできなかった自分がとても悔しかったですね」

挫折から生まれた「育つ手助け」の哲学

大学卒業後、2年間の農業研修を経て、24歳の時に家業である鈴木農園に就農。それと同時に、経営者として農園を任せてもらうことになりました。しかし、現実は厳しかったといいます。

「経営資金として両親から500万円を託されましたが、満足のいく野菜は作れず、すぐに溶かしてしまいました。最初の5年間は収益を取れなかったです。」

「このままやっていても農業では生活できない」と、会社員への転職を考えるほど倒産の危機を味わった鈴木さん。そんな時、運命を変える言葉を、就農後に出会った恩師からかけられました。

「作物は、あなたが育てているんじゃない。あなたは、作物が育つ手助けをすればいい」

この一言に「衝撃を受けた」と鈴木さんは振り返ります。「育てる」から「育つ手助けへ」という、現在の生産における核となる哲学が生まれました。

「この言葉をかけられてすぐに畑に戻り、野菜と向き合って作物がどう育つかを見て、感じて、話して、伴走することから始めました。自分が何をしたいのかではなく、作物が何をして欲しいのかを意識し続けた結果、満足いく作物ができ、お金をいただいて生活できるようになりましたね」

経営が安定し、組織の結束も強まってきた2008年、鈴木さんが31歳の時に大きな転機が訪れます。一緒に苦労を乗り越えてきた一人の従業員が「独立したい」と申し出たのです。

「彼は独立後も『作物を鈴木農園に出したい』と言ってくれましたが、当時の鈴木農園もいち個人農家。それでも、この頑張ってくれた社員の為になにかできないか。ならば、彼が作った作物の受け皿となる会社を作ろう」

こうして設立されたのが、株式会社鈴生。販売や出荷調整を担う会社としてスタートしました。

鈴生のブランド枝豆「オレ達のえだ豆」

爆発的な拡大戦略の幕開け

さらなる事業拡大を目指した鈴木さん。当初はフランチャイズ形式で独立したい社員を増やしていきましたが、リスクを受けない本部だけが儲かる形に疑問を抱きます。「それならば、販売会社もリスクを負って農業生産に関わるべきだ」と、そこで、企業の「社会課題」と自社の「事業課題」を組み合わせ、双方にメリットのある事業体を創造する「JVモデル」を構築しました。

最初の取り組みとなったのが、2014年に設立された「株式会社モスファームすずなり」。これが、現在の鈴生の爆発的な拡大戦略の幕開けとなりました。

この成功を皮切りに、2018年には「中日本ファームすずなり株式会社」、「TEN Green Factory株式会社」、「STMエクスプレス株式会社」といったJVを立ち上げたほか、「株式会社鈴生 菊川支部」や「株式会社鈴生おおいがわ」といったグループ会社を設立。生産、物流、太陽光型植物工場など、一気に5社を立ち上げました。

その後も、農福連携を担う「Grand Farm株式会社」のほか、2021年には「モスファームすずなり 広島支部」と拠点を拡大。そして2025年、果樹事業を担う「株式会社LEMONITY」を設立するに至ります。鈴木さんの「お互いの課題を解決する」というJV戦略は、農業経営の新たな展開と拡大の可能性を広げています。

TEN Green Factory株式会社が運営する太陽光型植物工場

農業の新たな展開を支えるJV戦略。「踊り場」と「51%ルール」

鈴生の農業の新たな展開を支える鈴木さんの戦略は、極めて明快かつ合理的です。

戦略の核は「お互いの課題解決」を軸としたJVモデル。なぜ、異業種の大企業と組むのか。その原点は「農業を始めるためには多額の投資が必要。しかし、その資金を集めるための信用を得ることが難しい」という農業界特有の課題にありました。

「元々は鈴生を上場させたかった。でも当時は、農業法人が多くの利益を還元できる業界ではなかったため、上場してもお金が集まらないだろうと考えました。それならば、お互いの社会課題を解決する形で大手企業と組んで農業に参入していただく方が、話が早いと思ったんです」

例えば、モスファームすずなりは、長年にわたって高品質な食材を求め続けてきたモスフードサービスの「安定的な契約産地を全国に広げたい」という構想と、鈴生の「磐田市で生産体制を拡大したい」という展開が合致し、お互いの強みを生かす形で、冬のモスバーガー向けレタスの安定供給を担う会社を設立する運びとなったといいます。

また、中日本ファームすずなりは、NEXCO中日本の「高速道路沿線の農地活性化を通じて地域環境に貢献したい」という想いと、鈴生の「浜松市に新しい拠点を築きたい」という展開が合致し誕生しました。この取り組みは、まさに産業の垣根を超えた共創の形だと鈴木さんは語ります。

もちろんこれらの事業は、すぐに決まることばかりではありません。具体的な提案をしてから数年後に動き出すものもあれば、最初に提案した企業とは違うところとJVを立ち上げることもあります。逆に、ほぼその場で方向性が決まることもあるといいます。

「『こういうことをやりたい』『実現したい』という想いは、信頼をおける人や企業にこそ積極的に伝えるようにしています」。ただ“話す”のではなく、“共有する”ことを意識しているのです。

「夢や構想をオープンに話すことで、応援してくれる人が現れたり、時には“そのやり方は違うかも”と率直な助言をもらえる。そうした関わりの中で、想いが磨かれ、実現の輪が広がっていくんです。自分一人で考えて閉じこもるよりも、信頼できる仲間たちと夢を語り合うことこそ、実現への最短距離だと感じています」

企業の課題を見抜き、相手の「社会課題」と自社の「事業課題」を組み合わせ、双方にメリットのある事業体を創造・提案する。これこそ、鈴生独自のJV戦略の神髄といえるでしょう。

成長を支える「踊り場」という仕組み

「毎年、右肩上がりに成長し続けるのは難しい」。そう語る鈴木さんは、意図的に売上を横ばいにする「踊り場」の期間を設ける経営戦略をとっています。

「例えば、売上8億円のステージを4年間続ける。その間、次の12億円ステージに上がるための『仕組みづくり』『人育て』『研究開発』に、利益を全部投資するんです」

仕組みさえ完成すれば、自然と次のステージの売上に到達するといいます。目先の売上増に一喜一憂せず、数年先を見据えて足場を固める。この戦略的な「踊り場」を、鈴木さんは実際の経営でも実践しています。

「売上は3年前に約15億円へ達しましたが、元々は12億円を目標に進めてきました。調子が良くて『いけるじゃん』とアクセルを踏んで15億円の着地になったものの、蓋を開けてみると利益が小さく、社内に負荷をかけた歪みがかなりでてしまいました。これでは駄目だと気を引き締めて、一度あえて売上を13億円の水準まで下げ、2年間足場を固め直しました。現在は17億円に向けてさまざまな仕組みづくりが終わったところです」

売上が伸びている時こそ、足元を見つめ直す。この戦略的な「踊り場」こそが、鈴生の持続的な成長を支えるエンジンとなっています。

物流を担うSTMエクスプレス株式会社

事業拡大で守るべき「3つのルール」

事業拡大を成功させるため、鈴木さんが徹底しているルールがあります。

議決権「51%」の死守

JV戦略の根幹にあるのは、「現場が主導して意思決定を行う」という信念です。

「どれほど大きな資本が入っても、農業の舵取りは現場が握った方がいい。これは鈴生の譲れない原則です」と鈴木さんはいいます。「農業は“生命”を扱う仕事で、机の上で描いたシナリオ通りにはいきません。日々の天候や土地の状態、作物の声を聞きながら現場で判断していくしかない。だからこそ、パートナー企業の皆さんにもこの“現場の論理”を理解していただき、信頼して任せていただくことが、成功の大きな鍵だと思っています」

そして、鈴木さんはこう続けます。「会社としては農業においても利益や配当金を求めていかなくてはなりません。その一方で、農業は利益や配当金のためだけに動かせる産業ではないです。これらを理解し、互いの課題の解決という視点で共に挑んでくださる企業には感謝しなくてはなりません。日本の農地を守り、国産自給率を高めるという大きな目標に向けて、私たち農業者と一緒に歩んでくださるパートナー企業が増えていくと嬉しいですね」

リーダーを決め、すべて任せる

「新規事業で一番大事なのは、『リーダーを誰にするか』を最初に決めること。決まらない限りスタートしない」と、鈴木さんは断言します。そして「決まった担当者に任せる」。決裁権限もすべて与え、社長は伴走支援はしますが、基本口は出しません。「愛と数字」という哲学のもと、結果(数字)には厳しく、しかしプロセスと人(愛)は「ありのままを受け入れる」という絶対的な信頼を置いています。

社長の仕事は「資金調達」と「伴走」

「実行するのは担当リーダー。社長の役目は、彼らが必要とする『資金を集めること』。それと『伴走』です」。任せはしますが、常に横にいて、「口は出さないけれど、困った時はいつでも相談に乗れる」という姿勢を崩さないといいます。

生産の枠を超えた最終展望。日本を守る「農地リート構想」

レタスを軸にした野菜生産で確固たる地位を築いた鈴木さんですが、その視線ははるか先を見据えています。

「このまま野菜を作って売るだけでは、市場の『誰かが持っているスペースの取り合い』にしかならない。そこから抜け出す枠を探さないといけない」

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