環境制御技術を推進し高生産性を実現
水稲を除いた耕地面積あたりの生産性が全国一位の高知県(※)。県内の森林率は84% で農地が少ないながらも、生産効率に優れた農業を実現しています。ナス、ショウガ、ユズ、シシトウなどは、全国トップ の収穫量です。
なぜ、高知県は少ない面積でも高収量を実現できるのか。その答えが、他でもないデータ活用です。
高知県農業振興部農業イノベーション推進課の福本諭子さんは「特に施設栽培でトップランナーであるオランダを参考にしてきました。オランダは徹底したデータ管理が特徴。これにならい、高知県では環境制御技術を推進してきました」と話します。
(※)農業産出額は「令和5年生産農業所得統計」(米、畜産、加工農産物を除く)、耕地面積は「令和5年耕地及び作付面積統計」(田を除く)を参照。いずれも農林水産省より。
| 炭酸ガス発生機 | ビニールハウス内の炭酸ガス濃度が設定より少なくなった場合、炭酸ガスを補う。 |
| 細霧装置 | ビニールハウス内に細かい霧の出るノズルを設置し、乾燥や高温条件を抑制する。 |
| 日射比例式自動灌水装置 | 日射量に合わせてかん水を行う。 |
| 局所施用ダクトファン | 炭酸ガスが光合成に使われるように、炭酸ガスをハウス内にムラなく効率的に運ぶ。 |
| 環境測定装置 | ビニールハウス内にセンサーを置き、ビニールハウス内の環境を数値でリアルタイムに確認できるようにする。 |
※環境制御装置の例(高知県資料を参考)
2009年にはオランダ・ウェストラント市と友好園芸農業協定を締結 。研修に行ったり、講師を招いたりするなどして、そのノウハウを吸収してきました。県の研究機関でも環境制御技術を使った研究をスタートさせ、平成25年からは現地圃場で実証研究を行いました。その結果、各品目の収量向上を確認。品目によっては20%向上したものもありました。

「この結果を受け、県内で取組を広げていきました。県の主要7品目(ナス・ピーマン・トマト・シシトウ・キュウリ・ミョウガ・ニラ)全体で約1600戸の農家が環境制御技術を導入。農地面積では6割 に当たります」着実に成果を出してきた高知県ですが、一方ではその先の課題も見えてきたといいます。
「栽培面積、生産者数が減少しているなかで、生産量を維持していくためには、さらに生産効率を向上させる必要があります。そこで、これまでの環境制御技術にIoTやAI等の技術を融合させたデータ駆動型農業の取り組みの強化が必要となりました。」
こうした課題感から生まれたのが「IoPクラウド(SAWACHI)」でした。
「IoPクラウド(SAWACHI)」とは
IoPとはInternet of Plants(植物のインターネット)の略。つまりは植物の生育情報や生産現場の環境情報など、植物に関する情報の「見える化」を図るものです 。
高知県で進められてきた、ハウス内環境の見える化を「次世代型施設園芸システム」と位置づけ、さらに上の「Next次世代型施設園芸システム」へと高めるべく、産学官連携でIoPプロジェクトが行われています。

「IoPクラウド(SAWACHI)」の全体イメージ(出典:高知県)
IoPクラウドは約2年間の実証を経て2022年9月から本格稼働。SAWACHIはその通称です。スマートフォンやパソコンから、システムにアクセスし、様々なデータを確認できます。
特筆すべきは、確認できるデータや情報の種類の幅の広さです。

「IoPクラウド(SAWACHI)」の画面。ビニールハウス内の温度や湿度、炭酸ガス、日射量が1分単位で確認できる
JAの協力により、自身の出荷実績をシステムで確認できます。出荷量、A品の比率、順位、また週・月単位での推移など、様々な点から営農状況の把握が可能です。
また農林水産省による農業データ連携基盤「WAGRI」とも連携されているため、東京や大阪、名古屋などの大きな卸売市場での市況情報の確認が可能です。
他にも、気象情報は一般的な予報よりも、細分化された情報が提供されています。高知県内203カ所の気象情報を取得し 、共有されることで、その時々の環境に合わせた栽培も可能になるでしょう。加えて、病害虫の発生情報も共有され、病害の発生リスクの予測情報も通知されます。
基本的に個人の栽培・出荷データは、隣の農家にまで共有されるものではありません。JAの営農指導員や県の普及指導員に共有することで、営農アドバイスへと役立てています。
2025年11月現在、出荷データの使用を許諾している農家は3335戸、そのうち実際にシステムを利用している農家は1700戸です。 県の主要7品目では、9割の農家が出荷データ連携しているといいます。全国14社の環境モニター・センサーに連携・接続していたり、メーカー開発の機器アプリケーションを実装しています。
県の担当者は「本格稼働してからも、画面の見せ方を改善したり、連携させるデータの種類を増やすなど、改良を続けています」と話しました。

出典:農林水産省統計(平成24年度~令和5年度産の野菜生産出荷統計による
全国へと取り組みを広げる
一連のプロジェクトは、平成30年度から内閣府の地方大学・地域産業創生交付金事業に採択され、令和5年度からは展開枠という段階で引き続き産官学連携で取り組みを続けています。「IoPクラウド(SAWACHI)のシステム自体の全国展開にも取り組んでいます。県内のデータを共有するということではなく、気象システムや環境制御システムを使っていただくということです。主に自治体を対象に、連携の輪を広げていこうとしています。現在では岐阜県で取り組みが始まっていますね」(担当者)
他にも社会がカーボンニュートラルを目指すうえで、SAWACHIに集積されるデータを活用して、GX(グリーントランスフォーメーション)with IoPという取り組みも進めています。担当者は今後への期待を次のように話しました。
「データ駆動型農業は、特に新規就農へのハードルを下げたり、就農後のリスク軽減につながると感じます。SAWACHIが本格稼働してから3年間の主要7品目の新規就農者は、7割近くがシステムを活用しています。今や技術の習得には欠かせないツールだと言えると思っています。今後はさらに成功事例を積み重ね、それを伝えることによって、利用者を増やし、みなさんの農業に生かしていただきたいと考えています」















