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あきたこまちRとは? 安全性や切り替えのメリット、放射線育種米について解説

伊藤七

ライター:

あきたこまちRとは? 安全性や切り替えのメリット、放射線育種米について解説

米の生産量全国第3位の秋田県では、従来流通していた銘柄米「あきたこまち」が2025年より「あきたこまちR」に変わりました。味や栽培方法などに大きな変化はなく、安全性にも配慮されています。その一方で、全県で半ば強制的に切り替わることや開発方法への疑問から、不安を訴える声も少なくありません。本記事では、「あきたこまちR」への切り替えが必要な理由や放射線育種の基本、よくある疑問などについてまとめています。あきたこまちRについて知りたい方はご一読ください。

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あきたこまちRとは

秋田県が開発した「あきたこまちR」は、味や品質については従来のあきたこまちとほとんど変わりませんが、土壌中のカドミウムの吸収を抑える特性を持っています。

「R」には、Reduce cd(カドミウムを減らす)、Reborn(再生)、Renew(更新)、Reiwa(令和)という4つの意味が含まれています。
近年は輸出向けの安全基準が厳しくなっており、今後の米づくりを見据えた“次世代のあきたこまち”として注目を集めています。

あきたこまちRの育成系譜

カドミウム吸収性が極めて低い「コシヒカリ環1号」を「あきたこまち」に交配し、選抜を繰り返しながら「あきたこまち」を7回戻し交配してできた品種(交配育種)が「あきたこまちR」です。母親のあきたこまちの特性を残しながら、父親の持つ低吸収性を引き継ぎました。

戻し交配とは、特定の形質をほかの品種から取り入れつつ、片親の品種特性に限りなく近づける場合に利用されるものです。あきたこまちRの育成では、あきたこまちと同等の品種特性とするために7回交配しています。

あきたこまちRへの切り替えが必要な理由

従来のあきたこまちからあきたこまちRへの切り替えが必要な理由は以下の通りです。

● 安全な米の供給
● 輸出拡大
● 農家の負担軽減

安全な米の供給

切り替えの主な目的は、より安全で持続可能な米づくり、特にカドミウム含有量の少ない米づくりを実現することです。
カドミウムは土壌に広く存在する重金属のひとつで、長期間の暴露により腎臓、肺、肝臓に障害を生じることで知られています。特にカルシウム代謝を阻害し、腎臓への障害や骨粗しょう症、骨軟化症を発症させる可能性が指摘されています。公害病として知られる「イタイイタイ病」も、鉱山から排出されたカドミウムが体内に摂取されたことにより引き起こされました。

日本ではカドミウム濃度が0.4ppmを超える米を流通させると食品衛生法違反になるなど、農家にとっても消費者にとっても留意すべき問題のひとつです。カドミウムの吸収性が低い特徴を持つあきたこまちRへの切り替えは、こうした問題への対策として期待されています。

輸出拡大のため

海外では、カドミウムやヒ素の基準値が日本よりも厳しく設定されています。将来的な輸出を見据えると、低吸収性の品種に切り替える必要があると判断されました。
カドミウムやヒ素に関する現在の基準は以下の通りです。

 

  日本 海外
カドミウム 0.4ppm 香港・シンガポール:0.2ppm

EU:0.15ppm

無機ヒ素 未設定 香港・シンガポール・コーデックス委員会:0.35ppm

 

海外への輸出やインバウンドへの提供も見据えて、カドミウムやヒ素の吸収性の低いあきたこまちに期待が集まっています。

農家の負担軽減のため

カドミウムを稲に吸収させないためには「湛水管理」という水の管理が求められます。出穂前後各3週間常時水を張り、田面が空気に触れないようにするもので、農家にとっては作業負担が重くのしかかります。

あきたこまちRはカドミウムの吸収性の低い品種なので、この湛水管理が必要ありません。通常の水管理のみで良く、農家にとっては作業負担が減るといえます。

「あきたこまちR」と「あきたこまち」に違いはある?

あきたこまちといえば、秋田を代表する銘柄米として人気を集めています。消費者にとっては味、生産者にとっては栽培管理方法の変化が気になるところですが、どちらも大きな違いはないといわれています。

食味は変わらない

あきたこまちRの食味は、従来のあきたこまちと同等です。秋田県農林水産部水田総合利用課と秋田県農業試験場によると、硬さ・粘り・味・香り・外観などを比較した食味試験では、統計上有意な差は認められませんでした。

品種は異なりますが、味には違いがありません。

栽培方法も変わらない

基本的な栽培方法は同様で、特性も同等です。耐病性や耐倒伏性、耐冷性、収量などに大きな違いはありません。
一方で、気を付けたいことが2点あります。

1つ目は、あきたこまちRでは湛水管理が不要な点です。カドミウム吸収抑制対策が必要な地域では、出穂期前後の湛水管理が必要でしたが、あきたこまちRはそもそもカドミウム吸収性が低いため、湛水管理が不要です。

2つ目は、あきたこまちRはマンガンの吸収能力が低下しており、砂質で秋落ちが認められる圃場ではごま葉枯病に注意が必要なことです。田植え時に使用する育苗箱施用剤をごま葉枯秒に登録のある剤に変更したり、本田防除を行ったりする必要がある点は念頭に置いておくべきでしょう。

あきたこまちRが不安視されている4つの理由

カドミウムの吸収性が低いという利点があり、食味や栽培方法もほとんど変わらないあきたこまちRですが、切り替えには賛否両論の声があります。マイナス意見が出てくる主な理由としては、下記の4つが挙げられるでしょう。

「放射線」という言葉のイメージから安全性に対して不安を持つ人がいる

あきたこまちRは「交配育種」により開発された品種です。あきたこまちRそのものに放射線を照射しているわけではありません。

放射線を照射して開発されたのは、交配に使用されている「コシヒカリ環1号」です。放射線を照射して突然変異を誘発して育成された品種ですが、放射線育種は50年以上前から多くの農作物の品種改良に用いられ、自然界でも起こる突然変異を利用した一般的な育種法です。

しかし、「放射線」という言葉のイメージから安全性に対して不安を持つ人は一定数いるため、「安全性は保証されているのだろうか」「健康面に影響はないのだろうか」と感じている方がいるようです。

一部ではなく全面切替が実施されたため

あきたこまちは秋田県の主力品種です。2025年度より全面的にあきたこまちRに切り替わることになり、これまであきたこまちを育ててきた農家では、今後は基本的にはあきたこまちRを作付けしていくことになります。

従来のあきたこまちを作付けしたい場合は、自家採取もしくは県外の業者から種子を買う必要があります。
一斉に切り替わることや従来のあきたこまちを作付けしにくくなることから、強制的な印象を受けることがあり、抵抗感を感じる方もいるようです。

銘柄名が「あきたこまち」で統一されるため

あきたこまちRも従来のあきたこまちも、銘柄名は「あきたこまち」で統一されるため、スーパーなどに並ぶ米袋にも「あきたこまち」と表示されます。従来のあきたこまちとあきたこまちRを見分けることが難しく、消費者が選びにくくなることが問題視されています。

あきたこまちとして統一される理由は、あきたこまちRとあきたこまちには形質や品質の評価に差がなく、品種群として同じ銘柄とされるためです。

「銘柄名:あきたこまち」「品種名:あきたこまちR」と表示される場合もありますが、品種名として必ずしも「あきたこまちR」と表示しなければいけないわけではありません。あきたこまちRなのか従来のあきたこまちなのかを確認したい方にとっては分かりにくく、商品を選択しにくいという声も少なくありません。

マンガンの吸収能力が低下し、ごま葉枯病の発生に懸念

あきたこまちRの栽培方法は、基本的には従来のあきたこまちと同様ですが、マンガンの吸収能力が低下しているので、ごま葉枯病の発生には注意が必要です。

しかし、ごま葉枯病については、発病地域が限られているため、発病の多い地域を除いては大きな問題にはなりにくいと考えられています。

また、マンガンはさまざまな食品に広く含まれており、白米の含有量がもともとそれほど高くないため、栄養面でも大きな問題になるとは考えにくいとされています。

2025年度からあきたこまちRへの全面的な切替え開始

秋田県では、2025年度からあきたこまちRへの切り替えが本格的に進んでいます。現在店頭に並んでいるあきたこまちの多くは、従来のあきたこまちではなく、あきたこまちRです。令和5年度から原種生産が始まり、令和6年度に一般種子の生産を開始。令和7年度より一般作付けが始まりました。

今さら聞けない、放射線育種米とは

あきたこまちRが語られる際、放射線育種米という言葉をよく見聞きします。放射線育種とは、植物の種子に放射線を一度だけ照射し、自然界にも存在する突然変異を人為的に引き起こして有用な性質を選び出す方法のこと。前述の通り、あきたこまちRは「交配育種」による米であり、放射線を照射して育成した米ではありません。

放射線育種の歴史と事例

1950年代から70年以上にわたって実施されている方法で、野菜や果物など多くの作物で成果を上げています。世界でも3,000以上の品種の育成に用いられている一般的な方法です。

水稲では、耐冷性の「レイメイ」や耐倒伏性の「北陸100号」などの開発をきっかけに、「アキヒカリ」や「キヌヒカリ」などの品種が多数育成され、現在国内で生産される多くの水稲品種が放射線育種由来となっています。大豆や野菜、果樹などでもさまざまな品種が育成されて、一般的に食べられています。

遺伝子組み換えのように他の生物の遺伝子を入れるわけではなく、植物自身が持つ性質の幅を広げる育種法です。

あきたこまちRと放射線育種の関係

あきたこまちR自体は、放射線を直接照射して作られた品種ではありません。交配育種によってできた品種です。父にあたるコシヒカリ環1号が放射線育種によって生まれた品種であり、その性質を交配によって引き継いでいます。
あきたこまちR自体は放射線を照射して育成された米ではありませんが、「放射線育種の系譜を持つ交配品種」といえるでしょう。

放射線育種の安全性

あきたこまちR自体には放射線を照射しておらず、もちろん食用として販売される米そのものに放射線を当てたわけでもありません。あきたこまちRは放射線を出すこともなく、安全性には問題がないとされています。
放射線育種は50年以上にわたり世界中で利用されており、一般的な方法です。

放射線育種に対する誤解やデマ

あきたこまちRや放射線育種米をめぐる意見の中には、誤解やデマも多く見受けられます。放射線という言葉自体に不安を感じる人が多いことや、遺伝子組み換えと混同されることなどが、さまざまな意見が挙がる理由のひとつでしょう。

また、情報発信の不足により、消費者が「何が変わるのか」を把握しにくい点も誤解を招く原因になっています。

デマや誤解が広がった要因

近年、インターネットやSNS上で一部の情報だけが切り取られ、誤った形で広がってしまうケースが多くありました。特に「放射能米」「遺伝子を壊した米」といった表現が拡散されたことで消費者の不安が煽られ、正しい理解を妨げる要因になったと考えられます。

SNSでは、生産者への心無い声も

SNS上では、生産者や行政に対して厳しい言葉が投げかけられることも少なくありません。特に日々農作業に取り組んでいる農家への心無い声は、業務を妨げるだけでなく、精神的負担にもつながります。科学的な根拠に基づく冷静な対話が求められています。

生産者が取るべき情報発信と相互理解

品種に対するデマや誤解が少なくない中、生産者自身による、事実に基づいたわかりやすい説明が欠かせません。
「交配育種であること」「放射線を直接照射していないこと」などを丁寧に伝えることが必要であると同時に、安心材料を可視化する姿勢が必要でしょう。

消費者からの質問や不安に耳を傾け、誤解を正す継続的なコミュニケーションが求められます。秋田県では、あきたこまちRに関するさまざまな情報を公開しています。消費者自身も、インターネットやSNSの情報を真に受けるのではなく、まずは自治体から公開されている情報を受け取ることが大切です。

あきたこまちRに関するよくある質問

あきたこまちRに関するよくある疑問をまとめました。

Q:味は変わるの?

A:秋田県による食味試験では、従来のあきたこまちとほぼ同じ結果が出ています。炊き立ての香りや粘りも変わりません。

Q:栽培は難しくなるの?

A:栽培方法は従来とほぼ同じです。ただし、一部の土壌では微量要素の吸収が弱くなることがあるため、管理が推奨されています。

Q:どこで見分けられるの?

A:袋や納品書に記載された「品種名」を確認するのが最も確実です。銘柄名は従来と同じ「あきたこまち」と表示されます。

Q:あきたこまちRは有機認証を得られる?

A:有機認証を受けることができます。

Q:従来のあきたこまちには、カドミウムがたくさん含まれていた?

A:従来のあきたこまちにはカドミウムがたくさん含まれていたわけではありません。栽培段階での工夫や収穫後の検査を徹底し、カドミウムの濃度が一定基準以下の場合のみ市場に出回るよう管理されていました。

まとめ

あきたこまちRは、従来のあきたこまちの味や品質を維持したまま安全性を高めた秋田県の新しい主力米です。輸出や国内流通における信頼を維持するために生まれた品種であり、今後の秋田米ブランドを支える存在になるでしょう。

その一方で、誤解や不安をなくしていくためには、行政・生産者・消費者が正しい情報を共有し、丁寧に対話を重ねることが大切です。
「変わらないおいしさ」と「新しい安心感」を両立したあきたこまちRが、これからのあきたこまちのスタンダードになっていくでしょう。

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