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農業にもAI革命。品種開発ベンチャーが示す日本農業の突破口とは

農業にもAI革命。品種開発ベンチャーが示す日本農業の突破口とは

農業にもAIを活用する―。そうした話をよく聞くようになった昨今。「5倍のスピードで品種開発ができる」と豪語するベンチャー企業がある。株式会社CULTA(カルタ)だ。同社はイチゴで4つの品種をリリースし、東南アジアで販売している。今回、東京農工大の敷地内にあるベンチャー施設に代表取締役の野秋収平(のあきしゅうへい)さんを訪ねた。その濃密なインタビューでは、同社の高い戦略性に驚かされつつ、日本の農業の現在地を再発見する時間となった。

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今年の夏も暑かったが、野秋さんがインタビューの冒頭から強調していたのは、まさにそのことだった。

野秋さん:気候変動で、日本の栽培環境はますます厳しくなります。しかし、品種開発は一般的には10年、あるいは数十年かかるもの。気候変動の対応には品種開発のスピードアップが必要なのです。

CULTAの代表取締役・野秋収平さん

農業ベンチャーであるCULTAが最も重視するポイント、それは品種開発のスピードだ。AIと人工環境のかけ合わせが「5倍」の開発スピードになるという。実際、リリース済みの品種CULTA-T3Lはわずか2年で開発した。普通は10年程度かかるとされているので、たしかに5倍の早さである。

野秋さん:開発スピードを上げるポイントは、AIと人工環境です。AIの活用によって、従来は経験と勘に頼ってきた品種どうしのかけ合わせの精度を上げていきます。AIが高速で画像解析し、新しくかけ合わせた品種の性能を評価します。同時に、ゲノムの解析も行っています。イチゴの遺伝的形質はまだまだ分かっていない部分が多いです。

温度や湿度、光などを調節している人工環境で育種することも重要なポイントです。たとえば、キリンと協同でホップの品種開発を始めていますが、ホップは通常、1年に1回しか収穫しないので新しいかけ合わせを試せるのは1年に1サイクルです。しかし、人工環境では1年で複数回のサイクルを回すことができるわけです。

自然環境の変化や季節の影響がない人工環境下では新品種開発プロセスを大幅に短縮できる

品種を新たに作る技術としてはゲノム編集が注目されている。東大の大学院にいた野秋さんも当然、その技術に触れている。ゲノム編集ではなぜいけないのか?

野秋さん:ゲノム編集への消費者の抵抗感が強いということもありますが、それだけではありません。そもそもゲノム編集は、少数の特定の遺伝子に狙いを定めて作物の性質を変える技術です。数万ある遺伝子のなかで、ほんの少しだけ変えてあげる。でも、作物の性質というのは、少数の遺伝子だけで改変できないものもあります。そういう性質のことを専門的には“量的形質”と言い、イチゴで例えるならば、糖度や収量といった性質が量的形質に当たります。大量の遺伝子が影響していますから、ゲノム編集でそれを扱うのは現実的ではありません。
従って、既存の品種どうしを交配するという従来のやり方は維持しながら、その精度と試行錯誤スピードを上げていくというアプローチが必要になります。

新しい品種を生み出すためには、“親”となる品種にある程度の遺伝的な多様性が必要になる。日本にはイチゴの品種が多くあるが、遺伝的には似通ってしまっているという。

野秋さん:当社では遺伝子の多様性のために、アメリカなど外国の品種も取り寄せて品種開発しています。日本の品種は、食味に関しては世界一なのですが、遺伝的には多様性が少なくなっています。原因の一つとして、イチゴの品種開発を担う国や都道府県の試験場では、どうしても一定期間で新品種を出すという成果を求められるので、“親”となる品種が同じようなものになってきてしまうのではないかと推測しています。

近い品種のかけ合わせでも時間がかかりますから、これまでなかった形質のために遠い品種とかけ合わせるとなれば、従来の方法では少なくとも20年以上かかります。当社の技術があってはじめて野心的な品種の開発を短期間で行うことができます。

CULTAが新しく開発したイチゴ品種。東南アジアで「SAKURA DROPS」のブランド名で販売する

ここで注目すべきこととして、イチゴもホップも栄養繁殖性の作物であることだ。栄養繁殖性の作物は、種からではなく側枝(ランナー)や種芋から増える。

野秋さん:日本の大手種苗会社は野菜の品種開発について世界的にも高く評価されていますが、栄養繫殖性の作物はあまり手掛けていません。生産者自身が増やせるために、種苗を売ることの合理性がなかったという歴史があるのです。従って、基本的には公的機関が担う分野になります。そこで当社では、パートナー農家に生産いただいた商品を原則全量買い取り、その販売やブランド化を自ら手掛けることで、品種開発から収益を得るビジネスモデルを作っています。
もう一つ、民間で手掛けにくいのが果樹の領域です。新しい品種を作るのは長い年月がかかりますから。その点、当社の開発技術を使うことで、果樹の世界も変えていけると考えています。

CULTAはイチゴで4つの品種をリリースしている。どのようなイチゴを目指しているのだろうか?

野秋さん:新品種CULTA-T3Lは、当社調べですが、紅ほっぺと比べて収量が約1.3倍、糖度も約1.4倍を記録しています。もう一つ、当初から徹底して重視する形質があります。それが果実の硬度です。

硬度が高いと棚持ちがよくなる。たしかに、イチゴは流通経路でロスが多い作物のひとつではある。だが、どうして棚持ちを特に重視しているのだろうか。

野秋さん:日本の農業にとって輸出は非常に重要だからです。現在でも、日本産のイチゴは香港などで人気がありますが、産地では十分に色づく前に収穫しています。イチゴは完熟して収穫した方が絶対に美味しい。観光農園のイチゴ狩りで食べたあの味をそのままお店に並べるのが理想だと思っています。輸出という長い流通経路を考えたとき、硬度は重要なファクターになるのです。それが味に直結するからです。

CULTAのイチゴが並ぶマレーシアの高級小売店

硬度が高いということは、既存の日本の品種とは食感が異なってくる。その点は問題ないのだろうか?

野秋さん:当社の品種のサクサクとした食感は、たしかに日本でいま人気のある品種とは異なりますが、むしろ面白いのではないかと。実際、東南アジアでは好評です。マレーシアで試験的に1パック2000円くらいの小売価格で販売していて、決して安くないのですが、よく売れていて現地の販売パートナーも驚いています。サツマイモの世界では、ねっとりとした食感の「紅はるか」が今では圧倒的人気がありますが、開発当時はホクホクしたものが主流でした。それと似ていると思います。

これまでの延長線上にないような新しい食味のものは、なかなか公的機関ではリリースしにくいのです。販売がうまくいかなかったときのリスクを品種開発者が負っているわけではないですから。その点、当社は販売まで手掛けています。品種開発する者がマーケットのフィードバックを自ら得ながら、流通のリスクを負って品種をリリースしていく。そのことで、生産者さんの信頼も得ることができて、新しい品種を出すスピードも上げられます。

同社のイチゴはマレーシアの高級小売店で販売されるなど、東南アジアでの引き合いが強い。こうした市場を主戦場としている理由はあるのだろうか?

野秋さん:東南アジア市場では、経済成長に伴って“高品質な農作物を食べたい”という需要が拡大しています。まずはシンガポールやマレーシアに主軸を置きつつ、次は日本、そして将来的には欧米でも販売していく計画です。

新しい技術で品種開発をするだけではなく、自ら流通のリスクも負って新しい商品を世に問う。この新しい形のベンチャーに賛同し、現在、国内でパートナーとなっている生産者は約100軒あるという。新しい契約農家も募集中だそうだ。
野秋さんは今後の日本の農業をどう考えているのだろうか?

野秋さん:気候変動や高齢化もあり、生産側が農作物への需要をいかに満たすことができるかという「供給のゲーム」になっていくと思います。うまく作ることができたなら、しっかり売れる。だからますます面白い産業になっていくのではないかと思います。

契約農家の圃場で作業する野秋さん

(取材後記)
農業ベンチャーには2種類あると思う。
一つは、これまでの農業を承継しそれを発展させるベンチャー。もう一つは、これまでの産業構造を根本から変革しようとするベンチャーである。たとえば、植物工場を開発するベンチャーは後者にあたる。
CULTAは、AIと人工環境という典型的先端技術を2つ揃える。そんなベンチャーであるからには一見、後者のタイプなのではないかと思われるかもしれない。
だが、人工環境は植物工場的ではあるが、あくまで品種の研究のためでしかない。契約農家は従来と同じ形でイチゴを栽培している。
野秋さん自身、「断絶ではなく、継承をしていく」と明言する。これまでの農業の形、農村の風景を変えることなく、しかし、産業として、収益が得られる商売として、足腰の強い農業に変えたい。そして、同時に気候変動への対応も避けては通れない。
逆説的だが、新しい技術へのオープンな姿勢があって、伝統的農業を守ることができる。
野秋さんの覚悟から学ぶことの一つは、こういうことではないだろうか。

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