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3000トンのコメを30か国に輸出。20年にわたる直播栽培の末にたどり着いた、点播種栽培と700キロ超の反収

kumano_takafumi

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3000トンのコメを30か国に輸出。20年にわたる直播栽培の末にたどり着いた、点播種栽培と700キロ超の反収

「UBARA RICE」という商品名を見て、どんなコメなのかすぐわかる人はいないだろう。このコメは茨城県の米農家が立ち上げた輸出の専門会社が手がける海外向けブランドで、日本語表記では「茨米」と書く。いばらは万葉集の時代に「うばら」と言う読み方をされていたのが由来だ。その輸出米を生産、精米して商品化までしているのが、茨城県坂東市にある㈲ソメノグリーンファームである。代表の染野実(そめの・みのる)さんは2011年にいち早く輸出に目を向け、輸出専門の会社である百笑市場を設立。2億円をかけて輸出用米専用の精米工場まで建設して年々輸出量を増やしてきた。令和のコメ騒動で国内でのコメ価格が急騰したことで、輸出にも大きな影響があったという。

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輸出米の価格は驚異の一俵7000円

百笑市場が設立されたのは2011年で、その年から染野さんはコメ作りの傍ら、アメリカロサンゼルスに自ら赴き、日系スーパーの店頭に立って売り子役を担った。日系スーパーに自社のコメを置いたのは、現地に住む日本人をターゲットにしたからである。染野さんはその時の状況を「今でも鮮明に覚えている」と話す。

染野実さん

来歴がはっきりしている自社のコメを自信満々に売り場に置いてはみたものの、1日に売れたのは5キロ袋1つ程度。当時の販売価格は1袋32ドル。店に来た日系人の主婦からは「こんなに高いコメは毎日食べられないわ」とストレートに言われた。

そこで、5キロ袋の店頭販売価格を思い切って20ドルに値下げした。この価格は現地で生産されるカルローズ米より若干高い程度。価格を引き下げたことで売れ行きは伸び、輸出量は初年度で60t、次年度は150tまで伸びた。ただし、現地のスーパーで5キロ20ドルで販売するためには当然、日本からの輸出価格を下げなくてはならない。そこで、同社はなんと輸出港渡しの価格(FOB)を玄米60㎏当たり7000円にしたのである。

安価に設定できた3つの理由

こうした輸出価格に設定できた理由は大きく3つある。一つは、国が輸出用米について「新規需要開拓米」の括りの中にいれ、助成金を支給することにしたこと。自治体の中には産地交付金として厚めに輸出用米に助成金を割り振るところもあり、染野さんの地域では最大で10a当たり6万5000円にもなった。1反あたり10俵の生産量があれば1俵6500円の助成金が得られるわけで、7000円で出荷したとしても、助成金を加えた生産者手取りは1俵あたり1万3500円になる。

二つ目は、輸出用米は検査せずに未検の玄米のまま輸出して現地の協力工場が精米して配送まで手掛けたこと。アメリカでコメを売るなら日本の検査制度による受検の必要がなく、検査しなくても銘柄を謳える。等級検査などの必要もないため、検査コストが軽減されるというメリットもあった。

3つ目が一番大きな理由で、茨城県内の生産者が新たなコメの需要先として海外に目を向けていたことだ。輸出用米生産意欲が高く、百笑市場に輸出用米として出荷する生産者が年々増えていった。昨年の出荷量は3000tまで膨れ上がり、輸出国先も30か国に増加した。
茨米

コメ不足の影響受け、輸出用米で補填

ところが、昨年は令和のコメ騒動で主食用米の価格が高騰。国内での出荷に切り替える生産者が増えたことで、7年産米の輸出用米の契約数量は一気に2000tまで落ち込んだ。染野さん自身の輸出用米出荷量も50tから20tにまで減った。これは意図的にそうしたわけではなく、ふるさと納税でのコメの注文が急増したことで、輸出用米を振り向けざるを得なかったのである。

国内のコメ不足の影響で輸出用向けのコメが減ってしまったが、このまま8年産米の輸出用米を減らそうという考えはない。これは染野さんだけでなく、百姓市場に輸出用米を出荷している生産者の多くも、輸出用米の取り組みを継続したいという意向を持っている。現在、輸出国先はイギリス、オランダ、スウェーデン、スイスなどEU諸国、豪州、ニュージーランド、最近ではモンゴルまで商談が進んでいる。

輸出用はハイブリッド米を乾田直播で生産

こうした海外の日本米需要に応えるためには、美味しさや品位を備えているのはもちろんのこと、何といっても他国産米との競争に勝ちうる“価格”が重要なポイントになる。このため染野さんは生産コストを抑えようと、早くから乾田直播栽培に取り組んできた。

作付けする品種は多収穫のハイブリッド米「とうごう3号」。ハイブリッド米は反当りの収量が高いことで知られているが、種子の費用が一般的な種子に比べて5~6倍するため、播種量を減らすなどのコストカットが求められる。

直播栽培に取り組んで20年になる染野さんは試行錯誤の末、10a当たりの種子の播種量を2.6㎏に抑えた上で収量を600㎏から660㎏確保することが出来る「点播種栽培」に辿り着いた。一般的には驚くべき収量だが、染野さんはこれでも満足していない。これには、過去に農業試験場の委託を受けて直播で738㎏の収量を上げた経験が根底にある。「移植でとうごう3号を栽培すれば、10aあたり770㎏は収穫できる」(染野さん)

今後については多収種子の導入が必要との考えで、来年は高温耐性のある「にじのきらめき」の作付面積を増やすほか、農研機構が開発・育種した多収品種も試験栽培してみたいという。

300筆80haの管理に向け、スマート化と人材確保を急ぐ

来年の計画について問うと、意外にも直播栽培の面積を増やす気はないという。直播は雑草との戦いで、特に稗(ひえ)は「ちょっと目を離すと繁茂して汎用コンバインでは収穫できないぐらい収量が激減する」とこぼすほど重荷になっている。さらに、毎年とうごう3号を同じ水田で直播すると、古代米のような赤い穂が出る稲穂が増えるとのこと。やっかいなことに、これは除草剤で防ぐことは出来ず、解消するには直播する田んぼを変えなくてはいけない。

現在、水田耕作面積は直播を含めて80㏊、区画は300筆に及ぶ。このほかに小麦も生産しており、水管理はすべて染野さん一人で見回っている。この面積が限界というのもうなづける。さらに規模を拡大するには栽培システム自体をスマート農業化しなければならないが、まずは人材確保が急務だという。
現在、日本人5名と外国人5名を社員として雇用し、農作業のほか精米工場の精米業務や肥料の輸入業務などを行っている。さらに人員を増やさなければ、拡大する面積を耕作しきれないところまで来ている。

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